検索
menu

ホーム > ポジショニング > TOPCON > 活用事例 TOPCON AT WORK > 3Dスキャナー/イメージング > 3Dスキャナーが変える最新の考古学調査(GLS-1000)

Positioning English

3Dスキャナーが変える最新の考古学調査(GLS-1000)

saqqara_GLS-1000_main_J.jpg

4600年以上前に建てられた最古の階段ピラミッドを3Dスキャナーで記録調査!

6月のエジプトといえば、すでに真夏である。砂漠の気温は摂氏40度を超え、激しい砂嵐に見舞われる日も少なくない。そんな炎天下、エジプトのサッカラの遺跡で奇妙な光景が展開されていた。
舞台はいまから4600年前に造られたジョセル王の階段ピラミッド。高さ60メートルの、エジプト最古のピラミッドである。周囲には砂漠が広がり、低くなった東側にはナツメヤシの林が見える。おそらく古代エジプト時代にも同じような風景が広がっていたはずだ。ところが、そんな古代の雰囲気と対照的なのが、ピラミッドの麓に置かれたハイテク機器やコンピューターである。

麓には三脚に載せられた二台の装置が、ピラミッドをじっと見つめるように照準を合わせている。そして目を上げると、トンボのような金属製の羽のついた装置を背負った人が、ピラミッドの急な斜面をゆっくりと降りているのが目に入る。その様子を20人以上のスタッフがトランシーバーやコンピューターを操作しながら見つめている。これがピラミッドの調査らしいことはわかる。しかし、いわゆる発掘のイメージではない。地面を掘り返したり、刷毛で地面を掃く人もいない。だが、これこそ21世紀ならではの最先端技術を用いた新しい考古学調査プロジェクトなのである。その目的は、最新のレーザースキャン技術を用いて、ピラミッドを詳細に3次元計測することにあった。その現場で活躍したのが、トプコンが開発した最新のレーザースキャナーGLS-1000と、日本の測量会社デベロソリューションズが独自に開発したレーザースキャナー、通称「ジョセル」だった。

これからの考古学でもっとも大切なのは記録

今回のプロジェクトはエジプト考古最高評議会のザヒ・ハワス事務局長の提案にはじまった。プロジェクトの依頼を受けた米国古代エジプト調査協会の河江肖剰さんは、その理由についてこう述べる。 「きっかけは、数年前、地震のために階段ピラミッドの内部で崩落が起きたことです。放っておけば崩落が進む恐れがあるため、すぐに修復作業にかかることになりました。しかし、問題は修復によって、古代のオリジナルな状態が損なわれてしまうことです。そこで、修復作業に先立って、オリジナルな状態の記録を残しておかなくては、ということになったのです」 エジプト考古学というと、俗に財宝探しというイメージがある。しかし、河江さんは、いま考古学でもっとも重要なのが正確な「記録」を残すことだという。 「たしかにいまだにエジプトの発掘=宝探しという目で見られがちです。実際エジプトは圧倒的に<モノ>の文明でした。ツタンカーメンの王墓から発見された黄金のマスクのような財宝のイメージは強烈です。でも、モノに注目が集まるあまり、現状をありのままに記録するという基礎的な作業がおろそかになっていたのです」 しかし、これまで遺跡の記録を残す手段は限られていた。図面や写真が記録できるのは現場の情報のごく一部だった。発掘された品は保管・記録されても、現場は発掘によって破壊されてしまい、そこにあったはずの情報は失われてしまう。そんな状況に革命をもたらしたのがレーザースキャナーだった。

レーザースキャナーが考古学に革命をもたらす

レーザースキャナーはすでに都市や地形の計測では利用されていた。しかし近年の技術の進歩によって、精密なデータが求められる考古学の分野へ応用が広がりつつある。
「レーザースキャナーは遺跡の情報を3次元画像として記録できます。それは写真や図面とは比べものにならない膨大な情報量をもったデータです。たとえ修復によってオリジナルな情報が失われても、3次元データが残っていれば、後世の研究者でも、現場にいるのと変わらぬ精度と臨場感で、それを分析・研究することができます」
 この新技術を駆使して、これまで日本の調査隊もエジプトのカルガ・オアシス、ギザのケントカウエス女王墓などで三次元計測調査に実績を上げてきた。ザヒ・ハワス事務局長は、その実績に着目して、最古のピラミッドの3次元計測を日本の技術で行ってほしいと、ピラミッド測量の専門家であるマーク・レーナー率いる古代エジプト調査協会に要請したのだった。
 しかし、高さ17.5メートル、基底部46メートルのケントカウエス女王墓と、高さ60メートル、基底部140メートルの階段ピラミッドとではスケールがちがう。ピラミッドの3次元計測など、これまで世界中で、どこのチームも手がけたことがない。成功させるためには、優秀なスタッフと、最新の高性能レーザースキャン装置が不可欠だった。チームには、考古学における3次元計測データの必要性を提唱した大阪大学の佐藤宏介教授、ケントカウエス女王墓の計測調査を指揮し、今回のプロジェクトにおける計測の重要性をいち早く認めた東京工業大学の亀井宏行教授、ケントカウエス女王墓のデータ解析にあたった大阪大学の金谷一朗准教授、古代オリエント博物館の中野智章研究員(当時)が加わった。そしてピラミッドをスキャンするのにふさわしい機材として白羽の矢が立ったのが、デベロソリューションズとトプコンの最新式レーザースキャナーだった。

5ミリ単位でピラミッドをスキャンする

トプコンのレーザースキャナーGLS-1000は、地面に据えて100メートル離れた位置から、ピラミッドを5ミリ単位で1秒につき3000点スキャンすることが可能な装置である。それまでのレーザースキャナーとの決定的なちがいは、独自に新開発したプリサイススキャンテクノロジーを搭載した点だった。
このためノイズが少なく、スキャンした物体の質感を正確に、しかもリアルに出すことができる。
 しかし、階段ピラミッドは高さが60メートルもあるうえ、階段状の構造をしているので、地上からのスキャンではどうしても陰になる部分が出る。段の陰の部分をスキャンするには、ピラミッドに登って移動しながらスキャンする装置が必要だった。その装置の開発を手がけたのがデベロソリューションズの冨井隆春さんだった。
 下見調査で実際にピラミッドに登った冨井さんは、予想以上のスケールに驚いた。ヘリコプターの使用も考えたが、河江さんからの条件は5ミリ単位でスキャンしたいというものだった。これだけ巨大な建造物を5ミリ単位でスキャンする数々の3次元計測を手がけてきたが、そこまでの精度を要求されたことはなかった。そのとき冨井さんの頭にあるアイディアが浮かんだ。
「その場で日本のロッククライミング測量調査の専門家に電話して、こう聞きました。『ピラミッド、登れますか』と。相手は『はあ』と戸惑っていましたね(笑)」

 帰国後、冨井さんが設計・開発したのが、冒頭で触れたトンボの羽のような機械だった。幅5メートルほどの羽に4台のスキャナーと6台のコンピューターを内蔵し、5ミリ以下の精度で1秒間に4万点のスキャンが可能という装置だった。これをクライマーに背負ってもらい、斜面を降りながらスキャン作業をしようというのである。装置は、階段ピラミッドをつくった王様の名にちなんで「ジョセル」と呼ばれた。
 地上からはトプコンのGLS-1000が、そして上から「ジョセル」が、このエジプト最古のピラミッドをくまなくスキャンするという、史上初のプロジェクトの準備が整ったのである。

最新機器に「冷えピタ」を貼る、暑熱と砂との闘い

2008年6月、米国古代エジプト調査協会、大阪大学、東京工業大学、古代オリエント博物館、デベロソリューションズ、トプコンの合同スタッフが総計900キロ近い機材を抱えて、サッカラに集結した。しかし、作業は初めから順調にはいかなかった。トプコンのGLS-1000は完成がまにあわず、十分な熱対策をほどこす前のプロトタイプの段階で現場入りをせざるをえなかった。熱によるトラブルに備えてトプコンの富田克則は、出発前、手芸屋で断熱材を、それに筐体を冷やすために「冷えピタ」を大量に購入して、エジプト入りした。
ところが、オーバーヒートの心配以前に、二台持参したGLS-1000の設定が上手く行かず思った通りのデータが取れない。
途方に暮れた富田はサッカラの現場から、国際電話で日本のエンジニアに指示を仰ぎながら必死で調整にあたった。その甲斐あって、やっと装置は正常に作動しはじめた。日本から持参した「冷えピタ」を貼りつけたGLS-1000は、その後はトラブルもなく着々と仕事をこなしていった。苦肉の策だった「冷えピタ」は予想以上の冷却効果を発揮したのだった。心配された砂も筐体内には侵入することもなかった。

一方、「ジョセル」にも試練が待っていた。まず、重さ30キロのこの装置を、斜面にぶつけないようにピラミッドの頂上まで運び上げるのが一苦労だった。さらに50度近い暑さと砂が作業をさらに困難にした。デベロソリューションズの冨井さんは回想する。 「液晶パネルが熱で割れたり、ファンに砂埃がつまって動かなくなったりと、いきなりトラブルに見舞われました。スイッチの隙間にも砂がつまって押しても戻ってこない。コードは断線する。出発前には『これを使うようになったら終わりだな』と冗談をいいながら工具セットにハンダごてを入れたのですが、結局、初日から大活躍でした(笑)」

 炎天下、ジョセルを背負ってピラミッドを降りるクライマーの苦労も並大抵ではなかった。装置には60メートルの電源コードがついているので体感重量は30キロを優に超える。それを背負って、照りつける太陽の下、センサーとピラミッドの斜面が平行になるように無理な姿勢を保ちながら一定の速度で降りなくてはならない。いくらプロのクライマーとはいえ相当のタフさが要求される。二人のクライマーは約3週間にわたって、交代で一日に約10回、ピラミッドの上り下りをくりかえして作業をつづけた。地上スタッフには、斜面を降りるクライマーの苦しげな息づかいが、トランシーバーを通して生々しく聞こえていた。

コンピューターのスペックを超える巨大データ

こうして取得されたデータは大きすぎてDVDなどのメディアには収まらずハードディスクでやりとりせざるをえなかった。データの解析には、3次元データ処理のスペシャリスト、大阪大学の金谷一朗准教授があたった。スキャナーによって得られた点データから面をつくっていくのだが、その情報量はGLS-1000で取得された点データだけでも6億点以上。これほど桁外れな巨大データを扱うのは金谷さんにも初めての経験だった。
「今回のデータは全体では約200ギガという途方もない大きさでした。読み込むだけでも何時間もかかります。体積や断面図を出す計算もコンピューターの中だけでは処理できない。そこでデータを処理するためのソフトウェアのプログラムを新たに書かなくてはなりませんでした。これほどの巨大データは、おそらく世界最大級ではないでしょうか」
 それにしても、現代の技術の限界を超えるほどの精度のデータが、なぜそこまでして必要なのか。計測隊チーム・リーダーの佐藤宏介教授は述べる。

「それは3次元データが将来のためのものだからです。以前は遺跡の3次元データは全体の雰囲気をわかりやすくするというレベルのものでした。しかし、いまや技術の進歩によって、そのデータが考古学的な分析に役立つレベルの精度を獲得しています。技術は将来的に必ず進歩しますから、現段階における最高水準のデータを保存しておくことが求められるのです。いまは重いデータでも数年後には扱えるようになるはずです」

3次元計測が開くエジプト考古学の可能性

 後日、スキャンデータからレンダリングされた階段ピラミッドの3D画像を見せてもらった。コンピューターのモニターに映るその画像は、CGとちがって生々しいまでの質感があり、石の面の自然な感じがはっきりわかる。マウスを用いれば、この画像のあらゆる細部を、自在に拡大・縮小して観察することができる。まるで自分が鳥になって、ピラミッドの周囲を飛び回って観察しているかのような錯覚すらおぼえる。
 こうした3次元データは、今後のピラミッド研究に、どのように生かせるのだろう。エジプト初期王朝研究の立場から今回のプロジェクトに協力し、現在、中部大学で教鞭をとる中野智章准教授はこう述べる。
「ピラミッドの原型はマスタバと呼ばれる長方形の墓だとされています。階段ピラミッドは、そのマスタバを六段積み重ねたものといわれてきたのですが、本当にそうなのか検証する手がかりが得られると思います。3Dデータで細部の構造やモルタルの流れ方などを観察することで、これまで確認しようのなかった、さまざまな疑問を検討できるでしょう」
フィールド・ディレクターの河江さんはいう。
「これまで考古学では、調査者の仮説と客観的な事実が混同されがちでした。他者の仮説を検証しようにも客観的な記録が残っていなかった。でも、3次元データという形で正確な記録を残し、それを世界中の研究者が共有できるようになれば、さまざまな議論が可能になります。これからの考古学には、そうした情報の共有と開かれた議論が必要になると思います。今回のプロジェクトはそのための大きな布石になるはずです」

また亀井教授は、考古学への先端技術導入の先駆者として「いま考古学の一番の問題は情報がどんどん失われること」だと述べる。「考古学というと発掘というイメージがありますが、発掘は現状の破壊でもあります。掘らないで情報が得られれば、それにこしたことはない。そのためにレーダー探査や3次元計測といった現状を変えないで、調査を進める方法はこれからますます重要になると思います。私は考古学は総合科学だと思っています。3次元計測も含めた科学的な考古学を今後、普遍化させていきたいですね」
 河江さんによると、今後エジプトでは、ギザの三大ピラミッドやスフィンクスをはじめ、多くの遺跡で3次元計測が進められていくだろうという。その意味で、現時点で最高の技術を駆使して行われた初のピラミッド・スキャニング・プロジェクトは、将来のエジプト考古学の方向性を示唆する重要なモデルケースになることはまちがいない。

saqqara_GLS-1000_001_J.jpg
saqqara_GLS-1000_002_J.jpg
saqqara_GLS-1000_012_J.jpg saqqara_GLS-1000_014_J.jpg saqqara_GLS-1000_013_J.jpg
saqqara_GLS-1000_004_J.jpg
saqqara_GLS-1000_005_J.jpg

saqqara_GLS-1000_006_J.jpg
saqqara_GLS-1000_008_J.jpg





saqqara_GLS-1000_007_J.jpg
saqqara_GLS-1000_009_J.jpg

考古学とテクノロジー

現代の考古学調査はテクノロジーの進歩なしにはありえない。電気や磁気、地中レーダーなどはいまでは、内外さまざまな考古探査に用いられている。これらの技術は第二次世界大戦中、対潜哨戒機などの兵器開発によって生まれた。戦後、ヨーロッパの科学者たちが、その考古学への応用への道を開いたのである。一方、高性能なレーザースキャナーの登場によって、3次元計測による遺跡の記録作業も近年めざましい広がりを見せている。今回のプロジェクトのほかにも、カルガオアシスでの考古探査や、ギザのケントカウエス女王墓の計測など日本人による3次元計測作業が行われてきた。

saqqara_GLS-1000_010_J.jpg

サッカラの階段ピラミッド

階段ピラミッドは、エジプト第3王朝のジョセル王によって建てられた最古のピラミッド。その建造時期は、ギザの三大ピラミッドより約100年さかのぼる4650年前頃といわれる。ギザの20キロほど南に位置するサッカラは初期王朝時代から王や貴族の墓所が多く集まっている地である。階段ピラミッドは高さ60メートル、基底部が140メートル×128メートル。そばに葬祭殿や神殿なども配置され、周囲を1.5キロの壁が囲んでいる。ピラミッドは総合的な宗教施設の一部だったことがわかる。ギザのピラミッドでも同様のプランが見られる。

saqqara_GLS-1000_011_J.jpg