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畑でも水田でも大活躍 ミミズの生態に注目

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有機農業への関心が高まる中、あらためて注目されているのがミミズの働きです。畑では、ミミズが排出する糞や尿が土の粒をまとめ、団粒構造が形成され、「水はけがよく、水もちがよい」という、植物にとって理想的な土壌へと改良されます。また、水田では表層の土を「トロトロ層」と呼ばれる雑草が生えにくい状態に変えてくれます。このような働きを見せてくれるミミズについて、その生態とともに解説します。

ダーウィンも注目したミミズの生態

『種の起源』で有名なチャールズ・ダーウィンは、長年にわたりにミミズの糞が積み重なり、レンガが地中に埋没していく様子を見て、肥沃な土壌をつくるミミズの働きに興味を持ちました。研究によって明らかになったのは、ミミズが土を細かく砕き、植物の残さと混ぜ合わせ、さらに消化管からの分泌物を加えることで、土壌そのものを変化させるという、ミミズの驚くべき力でした。

 

ミミズはヒルやゴカイの仲間で、「環帯動物」と呼ばれる分類に属します。眼も鼻も脚もなく、呼吸器も持たない、細長い袋のような不思議な生き物です。日本には陸生・水生を含めさまざまな種類のミミズが生息しています。陸生ミミズは、日本では梅雨の時期に急速に成長し、7月頃から繁殖を始めます。ミミズは、雌雄同体で、成長すると首輪のような部分ができ、そこから卵を産みます。

 

陸生ミミズは、土の深さ数cmのところに住む「表層性」、それよりも深いところにいる「地中性」、昼間は地中で暮らし、夜に地表に出てきて落ち葉などを食べる「表層採食地中性」の、活動の仕方によって、おおむね3種類に分類されます。このうち、よく見かける大きいミミズがフトミミズで、コンポスト等で繁殖するのがシマミミズです。シマミミズは、ほとんど土を食べないので、畑にはあまりいません。どちらも「表層性」に分類されているミミズです。

畑での活躍 水もち、水はけが両立する土に

実は、ミミズの「食べる、排泄する、移動する」といった活動そのものが、土穣や作物に良い影響をもたらしています。

 

土の表面付近に数mmほどのコロコロとした粒を見かけたことはありませんか? それがミミズの糞です。ミミズは、大量の土や有機物を食べ、細かく分解しながら土中を進みます。ミミズの腸内で練り合わされてできた糞は耐水性のある団粒となって排出されます。水に浸けても簡単に溶けない土団子をイメージすると、わかりやすいかもしれません。

団子状の糞と糞の隙間から余分な水分が流れていくため、排水性が高まります。一方で、糞内部に含まれる水分は乾燥してもすぐには失われません。まさに「水はけがよく、水持ちもよい」という植物にとって理想的な土穣が形成されるのです。また、糞は窒素や炭素も多く、植物が吸収しやすい形の微量要素が豊富で、酵素や植物ホルモンも含まれているため、土壌の栄養環境が整うことが期待されます。

 

さらに、ミミズの通り道は、全身から分泌される尿によって塗り固められ、しっかりとしたトンネルになり、土壌の通気性を高めます。尿には植物の栄養になるアンモニアや、菌類のエサとなる酵素が含まれており、ミミズの通り道は植物の根や微生物にとって理想的なすみかと言えるでしょう。菌類が増えると、トビムシやダニなどの土壌微生物も増殖します。また、ミミズをエサにするモグラがやってくることで、さらに大きなトンネルが堀られていきます。こうした連鎖によって、土壌の生物層が豊かになっていく様子が見られます。

 

ミミズがいる畑といない畑では、雨の浸透量が向上するという報告や、尿の成分には腐敗菌など一部の菌に対する殺菌効果があるとされており、菌類の増加による菌同士の拮抗作用も関係しているのかもしれません。こうした働きによって、ミミズがいる畑では病気が発生しにくくなる傾向があるようです。

水田での活躍 ミミズが増えたら雑草は減る

水田にもミミズは生息しています。エラミミズやユリミミズといった、10cmに満たない小型の種類で、水中に暮らし、体の半分ほどが泥の中に埋まっていることが多いようです。基本的には逆立ちのような姿勢で、田に水を張ると、土の中で嫌気性(酸素のないところで活動する)微生物が増え、田の土が還元状態(酸素が少ない状態)になります。そんな環境では、イトミミズは頭を泥の中に突っ込み、土壌や有機物を食べながら、尾で水中の酸素を取り込みつつ、細かい泥状の糞を排出します。

 

自然農法や有機農業など、除草剤を使わない稲作農家にとってイトミミズは大事な存在といえるかもしれません。雑草抑制に貢献してくれるので、イトミミズのエサになるように米ヌカをまいたり、早春に湛水してイトミミズが増えるように工夫するなど、積極的に増やすことも良好な土壌環境を作る鍵といえるでしょう。

 

イトミミズが雑草を抑えてくれる仕組みはいくつかの要因によって成り立っています。糞が水田の表面に堆積していくと、表層の数cmにトロトロの、粒子が細かい泥の層(「トロトロ層」と呼ばれている)ができます。小型のイトミミズは泥を食べることはできますが、草の種子などは大きすぎて食べられません。食べ残された雑草の種子は、空気の少ないトロトロ層に埋もれて発芽しにくくなるようです。さらに、トロトロ層には乳酸菌などがつくり出す有機酸が高濃度で存在しており、これが雑草の発芽を抑えてくれます。イトミミズが尾を揺らして泥の表面を攪拌する行動も、芽生えたばかりの草の芽を倒伏させたり浮かせたりして、雑草の定着を妨げているようです。

ミミズと共存するには?

畑のミミズを増やすにはどうすればよいでしょうか。じつは、しっかり耕し、頻繁に草刈りをして整えられた美しい畑ではミミズが定着しにくい傾向があるようです。

 

特に表層性のミミズは、トラクタや管理機で畑を耕すと、土塊とともに傷ついてしまい、数が減ってしまうことがあります。また、表層性のミミズは落ち葉の下などに住み、有機物を土と一緒に食べながら暮らしているため、地表面に何か有機物がないとミミズはそこで暮らしにくいようです。もちろん、地中性のミミズはそうした環境でも生きていけるのですが、体が小さく個体数が少ないため、土壌環境への影響は限られるかもしれません。

 

そのため、ミミズを増やしたい場合は不必要な耕耘は避けることや、緑肥をまいたり、ある程度の草を残したり、敷きワラをするなど、地面をむき出しにしない工夫が有効とされています。これらは、世界的に注目されている環境保全型農業が推奨している農法と重なる部分が多く、ミミズに配慮した農法ともいえるでしょう。

 

トプコンは、長年培ってきた光学技術、GNSS技術、そして各種センサーやネットワーク技術を駆使し、新しい時代の農業を応援しています。

 

<参考文献>
農研機構『農業技術事典 NAROPEDIA』2006 農文協
『月刊現代農業 2012年10月号』2012 農文協