目次
「半農半X」というライフスタイルが近年注目を浴びています。農作業を行いながら、農業以外の得意分野・大切なことを活かした仕事に就くという暮らし方で、特に20〜40代の若い世代が関心を寄せています。高齢化が進む町で米づくりをしながらヘルパーの仕事に従事する人、野菜を育てながらアーティスト活動をする人など、暮らし方も生き方も十人十色。今の時代ならではの農業への携わり方とその魅力、そして、農業未経験者のためにも役立つスマート農業について考察します。
新たな農業の担い手「半農半X」とは
「半農半X」はライフスタイルの一つで、読み方は“はんのうはんエックス”。「持続可能な農ある小さな暮らしをしつつ、天の才(個性や能力、特技など)を社会のために生かし、天職(X)を行う生き方、暮らし方」のことをいい、言葉の生みの親である塩見直紀氏(現在は総務省地域力創造アドバイザー)が1990年代半ばに提唱しました。Xに当てはまるものは人によって異なり、「半農半アーティスト」「半農半保育士」「半農半ユーチューバー」など多種多様。また、そのバックグラウンドも多彩で、20代で挑戦する人もいれば、50代から夫婦で移住し、実践する人もいます。
かつて、日本の農業は長年にわたり専業農家の育成や大規模化を推進してきました。しかし、農林水産省は2020年4月から有識者による「新しい農村政策の在り方に関する検討会」を開催し、その中で「半農半X」や「マルチワーク(複業)」といった多様な農業の働き方を支援する方針が示されました。特に、コロナ禍にリモートワークが全国的に定着したことを機に生活スタイルを見直す人が増加したことで、再びこの働き方が注目を集めています。また、多様性を推進する昨今の風潮もあって、改めて「本当の幸福とは?」「地域の社会課題と向き合いたい」「QOL(Quality of Life)の向上」などを考えた結果、半農半Xを志す人が増えてきているようです。

半農半Xと兼業農家、何が違う?
半農半Xが「農業+α」だとすれば、兼業農家とは一体何が異なるのでしょうか? 農業と他の仕事を組み合わせて働くといった意味では似た意味を持ちますが、農林水産省によると、兼業農家とは世帯員の中に兼業従事者が1人以上いる農家のこと。つまり、農業で収入を得ながら他の職業にも従事し、あわせて収入を得ていることを指します。その一方で、半農半Xは小さな農業で自分たちが食べる分だけの食を得るライフスタイル。いわば、儲けるための農業ではなく、必ずしも農業で収入を得ることを目的としていない、儲けるための農業ではないという違いがあります。
しかし、近年は農業との関わり方も多様になり、農業でもしっかり収入を得る半農半Xが増えるなど、その境界は曖昧になりつつあります。それゆえ、地域農業を支える活力として半農半Xに期待が高まり、半農半Xの実践希望者に対して独自の助成制度を設けている自治体も増えてきています。
その一つ、少子高齢化が進む島根県では、島根県外からの移住者に向けて「半農半X支援事業」を実施。半農半X実践者(U・Iターン者)の定住・開始後の営農に必要な経費を助成するという制度です。また、岩手県では「いわて新農業人チャレンジファーム」を実施。半農半Xや定年帰農など多様な形で岩手県の農業・農村に関わりたいと考えている人を対象に、農業に関する基礎知識や野菜栽培の基本的な技術などを学ぶ研修を開催しています。そして、愛知県は「半農半Xな暮らしガイド」と題した特設サイトを県ホームページ内に設置。県内の事例や支援策などを発信しています。
半農半Xのメリット、デメリット
各方面から熱視線が注がれる半農半Xですが、当然ながらメリットとデメリットがあります。まず一番のメリットといえば、農業を通じた人間らしい豊かな生活が送れること。通勤や残業などから解放され、自然に囲まれて自分が好きなことや大切だと思うことをしながら暮らせることが最大の魅力です。また、都会で暮らすよりも地方移住することでの生活コストの削減や、農を通して地域や社会に貢献でき、地域課題解決の一助になることも可能です。
その反面、デメリットといえば、地域コミュニティに溶け込めるかどうかといった問題や、農業+αのバランスによっては、以前と比べて同じ水準の暮らしが難しくなる場合も考えられます。そして、最大の難点は農業がうまくいくとは限らないこと。当然ながら農業は一朝一夕でできるものではなく、農作業に慣れるまでは年単位の時間を要します。作業に慣れたとしても、自然を相手にする仕事であるため、計画通りに進むとは限りません。きっと農業の難しさを痛感することになると思いますが、試行錯誤することをあえてこの機会に楽しんでみることも必要なのかもしれません。
農業初心者でも安心なトプコンのスマート農業機器
専業農家だけでなく、半農半Xというライフスタイルにも取り入れてほしいのがスマート農業です。スマート農業を導入して農作業のIT化・自動化に取り組むことで、作業効率を高め、半Xとのバランスをとった生活の実現に役立つでしょう。また、農作業の経験がなくても正確な作業やデータに基づいた作業ができるため、収量の最大化にも近づきます。新しく農業にチャレンジする人にとっては、スマート農業を取り入れた働き方がマッチすると考えられます。
トプコンでは、いち早くスマート農業に着目し、その導入・推進に取り組んできました。長年培ってきた光学技術、GNSS技術、また、各種センサーやネットワーク技術を駆使し、農機の自動操舵システムやレーザー式生育センサーを開発。世界中で農業の自動化/IT化をサポートしています。
スマート農業を取り入れ、農業初心者であっても生産性や品質の高い農業が可能になれば、半農半Xとしての働き方がさらに広がります。テクノロジーを活用した次世代農業の可能性にアプローチしていくことができるのも、半農半Xとして働く醍醐味となるはずです。
〈参考資料〉
農林水産省「新しい農村政策の在り方に関する検討会」