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日本酒の輸出が堅調です。国内消費が低迷する中、海外での評価が高まりつつあるのです。それにともない、欧米を中心に、「SAKE」の醸造所が年々増加傾向。なぜ海外では人気が出てきたのでしょうか。日本の酒蔵にとっても、米農家にとっても、希望の光となっている海外の動きを中心に追いました。
日本酒の魅力は、ワインと同じテロワール
2023年における日本酒の輸出金額は、411億円(輸出数量では2.9万㎘)でした。10年前と比較すると、なんと約5倍に増加。世界的な物価高の影響等によって、過去最高額を打ち出した前年より若干減少したものの、堅調といえます。輸出金額が最も多い国は、中国。次いで、アメリカ、香港、韓国、台湾、シンガポール、カナダ、オーストラリア、イギリス、フランスと続きます。日本酒の輸出はますますの伸長が期待されているのです。
輸出拡大の最大の要因は、2013年に「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録され、海外に日本食レストランが増加したことによる、世界的な和食ブームが挙げられます。食事の日本らしさを盛り上げる1アイテムとして日本酒を味わう人も多くみられますが、自ら購入する愛飲家たちは、ワインと同じように、テロワール(土地ごとの自然環境による特徴)が日本酒にもある点や、歴史、米を使った日本の独自の文化、製造過程等、日本酒の奥深さを評価しているとのこと。さらなる要因は、酒造が厳選した最高級品を輸出していることや、各国の嗜好に合わせた製品開発があげられます。ただし、ここ数年の「海外主要国における日本産酒類の市場調査」を見ると、どの国においても市場規模は未だ小さく、広く浸透するには日本酒を認知してもらうためのアピール戦略を綿密に練らなければいけないようです。
海外ではSAKE。クラフトSAKEも増加中!
日本酒の輸出拡大とともに、海外に醸造所が増えたことは良くも悪くも注目すべき点です。日本では、日本にある酒蔵を保護するために、2015年、日本の地理的表示(Geographical Indication, GI)として『日本酒』を登録しました。。これは「原料の米に日本の国内産米のみを使用し、かつ日本国内で製造された清酒のみが『日本酒』を独占的に名乗ることができる」という意味。その結果、海外で造られる日本酒は、「日本酒」ではなく「SAKE」等と表記されるようになりました。
海外における「SAKE」の醸造所は、1990年代から30年かけて6倍に伸長し、2022年の時点で60以上あったとされています。半数がアメリカで、残りはヨーロッパが中心。当初は、大手酒造メーカーが日本の移民のためにアメリカに現地法人を設立したことから始まりました。近年では、海外に挑戦する日本の酒蔵やスタートアップ企業に加え、現地の人々が自分の好みに合わせてオリジナルのSAKEを造る『クラフトSAKE』の小規模な醸造所も誕生しています。
海外初のクラフトSAKE醸造所は、2006年にカナダで創業されました。続いて、アメリカで2008年に。その後、メキシコ、スペイン、フランス、イギリス、ニュージーランド、台湾と、現在でも増加しています。アメリカのクラフトSAKE醸造所において、創業者の前職は、ワインやビール醸造業もあれば、金融、公務員、グラフィックデザイナーと実に多様です。なかには、英語教師としての来日経験がきっかけとなり創業した人も。また、酒造の学習方法も、独学(書籍、ウェブ)、クラフトSAKE醸造所やSAKE製造企業、日本の酒蔵での研修・見習いと多岐にわたっています。
2010年にアメリカから訪日したある人は、日本酒のストーリー、多様性等に衝撃を受け、すぐさま行動。インターネットで検索して学んだり、日本の酒蔵で短期の修業を積んだりして、2016年にはついに醸造所を創業するに至りました。
SAKE米のルーツは酒米の王者「山田錦」
醸造するにあたり、必要となるのが酒米です。SAKEは酒米の調達をどうしているのでしょうか。アメリカのクラフトSAKE醸造所の場合、多くが現地調達です。特に「カルローズ」という米を使用しています。この米の原点は、酒米の王者「山田錦」をルーツに持つ「渡船(わたりふね)」。アメリカに持ち込まれ、品種改良を重ねて現在に至り、酒米に近い特徴があるとのこと。クラフトSAKE醸造所だけではなく、現地の日系メーカーも使用してきた品種です。
もちろん日本から入手する醸造所もあります。2018年、JAグループでは初めて酒米「秋田酒こまち」「山田錦」の輸出がおこなわれました。行き先は、日系酒類メーカーがイギリスに設けた醸造施設。2023年には、岩手で初となる酒米「ぎんおとめ」と「結の香」の玄米約10トン分が精米され、日本人が創業したハワイのクラフトSAKE醸造所へ輸出されたとニュースになりました。
アメリカにSAKE醸造所が多い理由は、酒米となる米の生産が可能であること、また、アメリカで酒米用に精米を行う日本の会社があることが挙げられます。ヨーロッパでも日本酒向けの米の生産に取り組む動きが出てきており、そこへ精米機が揃えばと想像すると、今後の展開に注目したいところです。
スマート農業も日本酒を盛り上げる
一方で日本は、日本酒の輸出のさらなる拡大を狙い、2020年に税制改正を行いました。輸出限定の免許「清酒製造免許制度」を設置したのです。条件として、原材料の米と米麹は国内産米のみを使用し、国内で製造および容器詰めしたものに限ります。この免許で日本酒を製造しても、日本国内での流通は原則として禁止と定められています。限られた中ではありますが、新規参入の幅を広げることで日本酒の可能性も広がりつつあります。
輸出が拡大すれば、求められるのは酒米の増産です。効率よく高品質な酒米を生産するために、注目されるのがスマート農業。現在、日本酒の輸出金額は増加しているものの、実は、世界の酒類マーケット全体で見ると、金額は0.1%ほど。つまり、伸びしろは十分あるといえます。課題は山積しているものの、和食ブームと同じく、日本酒が世界を席巻する日もそう遠くはないのかもしれません。
トプコンは、2006年よりスマート農業に取り組んでいます。
<参考資料>
国 税 庁 課 税 部 酒税課 酒類業振興・輸出促進室「令和6年6月 酒のしおり」
株式会社JTB「酒米の王者「山田錦」、兵庫県からいざ世界へ!
SAKE Street「カリフォルニアの米と水でテロワールを実現する。次世代へつなぐアメリカのSAKE造り」
日本酒専門WEBメディア「SAKETIMES」「北米に“本物のSAKE文化”を根付かせる—アメリカ・バージニア州のSAKE醸造所「North American Sake Brewery」
日本醸造協会誌(2019)第 114 巻第 6 号/喜多常夫「世界のクラフト・サケ醸造所の現状- アンケート調査による実態分析」
@DIMEアットダイム「海外の蔵で作った日本酒「SAKE」が世界中で大ブームを巻き起こしている理由」
TVI NEWS NNN「「岩手の風とか空気を感じるお酒に…」 岩手県雫石町の酒米がハワイへ 岩手県産の酒米の輸出は初めて」
日本経済新聞「全農、英国に酒米を輸出 秋田と兵庫県産の計4トン」
食品産業新聞社「飯田グループが100周年、原料に白麹を使用したビールの製造支援に挑戦、『経営理念“三方よし”のもと、新たな挑戦を続ける』」