2022-11-01

建築工事が始まるときに、
木の杭が打たれるのはなぜ?

目次

住宅やマンションが建つ予定の敷地の周囲が、無垢材の杭や板で囲まれている光景を見たことはありませんか? 工事が進むとその内側に鉄筋が配置されたり、コンクリートが打ち込まれたりしますが、杭や板自体がその後加工されることはなく、いつの間にか抜かれて姿を消しています。建築用語では、この杭のことを「水杭」、板を「水貫(みずぬき)」と呼び、これらをあわせて「遣り方(やりかた)」といいます。単に敷地を囲っているだけに見える遣り方ですが、実は、建物を建てるためには欠かせないもの。一体何のためにあるのでしょうか?

 

遣り方は工事着工後必ず行う作業

 

敷地に建物を建てる際、建物が設計図どおりに収まるのか、道路や隣との境界線からきちんと距離がとれているのか、車や室外機などを置くスペースはあるのかなど、実際に外壁の位置を地面に書いて調べる必要があります。この外壁の位置を地面に写す作業を「地縄張り」といいます。昔は地面に縄を張っていたことからこう呼ばれていますが、今はビニールの紐などで代用されることが多いようです。

 

遣り方は、地縄張りを行った後に設置します。敷地は、元々は水平ではありません。何も手が加えられていない土地はデコボコしていますし、そこを目視できれいに均したとしても、ほんの少しでも傾きがあれば、その上に建てた建物は歪んでしまいます。そこで、ミリ単位まで正確に測った水平な建物の土台を最初につくる必要があります。そのために設置するのが遣り方です。

地縄張りの外側に水杭を約1.8m間隔で打ち、すべての水杭に、基準となる目印(ベンチマーク)から同じ高さを測って水貫を打ち付けていきます。水杭も水貫も、建物を建てる上で大切な基準になるので、動いてしまっては大変。そこで、水杭は誰かに叩かれたらすぐに判別できるよう、頭部を“いすか”(三角形が交互に向き合う鳥がくちばしを広げたような形)に切っておき、水貫には筋交い(すじかい)を入れて頑丈にします。

遣り方に水糸を張ることで基準が分かる

 

遣り方の設置が完了したら、水貫は水平にぐるりと打ち付けられているはずです。水貫に釘を打って2点を糸で結べば、糸も水平に張ることができます。そこで、柱の中心(柱心)や壁の中心(壁心)の位置に糸を張り、交差する場所を測って直角になっているかを確認します。この糸のことを「水糸」といい、水糸を張る作業のことを「水盛り遣り方」といいます。水盛り遣り方は、建物の角を直角にしたり、床を水平にしたりといった、建物をつくる上で欠かせない工程。この作業を行うことで、その後に工事を行う職人の誰が見ても、壁や柱の位置、基礎をつくるときの高さなど、基準となる位置が分かります。

 

昔はバケツのような容器に水を入れてホースをつなげ、ホースとバケツの水面の高さを同じにすることで水平を測っていました。このホースとバケツをつないだ道具は、昔の大工さんならほとんどの人が持っていて、今も小さな工事では使われているそうです。水盛り、水糸、水杭、水貫と、すべてに「水」がついているのは、水で水平を測ったことに由来しているのです。なお、水盛り遣り方は、単に「遣り方」あるいは「丁張り」ともいわれます。丁張りは、土木工事で使われることが多いようです。

アナログからデジタルへ進化する測量機器

 

遣り方を行うためには、距離、角度、水平を測る必要があります。昔は、距離を巻き尺、角度を大矩(おおがね)という大きな直角定規、水平は先述したホースをつなげたバケツや下げ振りといったアナログの道具を使い、緻密な計算をしながら行っていました。その後、光の往復時間を用いて距離や角度に換算するデジタル機器が登場。水平方向を測る「レベル」、角度を測る「セオドライト(トランシット)」、鉛直方向を測る「鉛直器」などを用いて、簡単に遣り方の設置を行うことが可能になりました。

 

そして、1979年にトプコンが「トータルステーション」を開発したことで、測量方法とスピードが格段に進化を遂げます。トータルステーションとは、1台で角度と距離を1度に測定できる機器のこと。水準儀をつけたターゲットを水杭の上に固定し、トータルステーションからのぞいて、瞬時に距離や角度を測ることが可能です。水平角や鉛直角も簡単に分かります。観測データはデジタルで記録され、各種計算もできるようにプログラムされています。大掛かりな建設現場において、今では必須の機器となっています。

水杭を打つ作業を超高速化!さらなる進化を遂げた「杭ナビ」が登場

 

さらにトプコンでは、水杭の設置作業に特化させたトータルステーション「杭ナビ」を発売。これまで、ターゲットを持つ側と測定する側の2人1組で行う必要があった作業を、自動追尾機能を搭載することで、たった1人でも簡単に作業できるようになりました。ターゲットを持って移動するだけで、杭ナビがターゲットに合わせて自動で上下左右に方向変換。スマートフォンやタブレットと連動させれば、画面で水杭を打つ箇所を素早くナビゲートできます。

 

さらに、杭ナビの情報をマシンガイダンスシステムに変換する3Dシステム「杭ナビショベル」も開発。ショベルに装着すれば、杭打ち作業を行うことなく、施工に直結させることができるため、工期短縮、人員削減に大きく貢献します。

 

トプコンの技術が、国交省が掲げる20個の生産性プロジェクトのひとつ「i-Construction」に寄与している一例です。

 

杭ナビ《Layout Navigator LN-150》

直径260m・最大傾斜角 +55°と、土木の杭打ちに十分な作業エリアを確保。電源を入れるだけで自動整準を行うので面倒なネジ式の整準作業は不要。スマホやタブレットと連動し、毎秒20回の高速データ更新により、ほぼリアルタイムで画面に表示されるため、ストレスのない杭打ち作業を実現。

https://www.topconpositioning.asia/jp/ja/products/brand/topcon/ln-150/

 

《杭ナビショベル》 3D-MG LPS ショベル X-M3x LN

杭ナビ(LN-150)をマシンガイダンスシステムのセンサーとして利用するICT建機システム。建機のメーカー、サイズを問わず、様々な油圧ショベルに全周プリズムやセンサー、必要な機器を後付けしてICT建機システムを利用することが可能。

https://www.topconpositioning.asia/jp/ja/products/brand/topcon/excavator-system/