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光学ガラスは本当に「液体」なのか?—光学技術の進化とトプコンの貢献

目次

光学ガラスは、精密機器やレンズに使われるため、分子レベルでの均一性が求められ、通常のガラスとは異なる特性を持つ特殊な素材として進化してきました。そこで今回、トプコンとも関わりが深い光学ガラスの特性や、最新の光学技術について紹介します。

ガラスは固体か液体か?

「古いステンドグラスの下部が厚くなっているのは、ガラスが長い年月をかけて流れた証拠」。そんな話を聞いたことがあるかもしれません。実際、ヨーロッパの教会のステンドグラスを見ると、下の方が少し厚くなっているものが多く、「やっぱりガラスは液体なんだ」と思わないでもありません。

しかし、これは製造当時のガラスの厚みのばらつきによるもので、時間をかけてガラスが流れ落ちた結果ではありません。中世では、吹きガラスを円盤状に広げる製法が主流でした。そのため厚みが不均一で、職人たちはガラスが安定するように重い方を下にして窓枠にはめ込むのが慣習だったのです。つまり、ステンドグラスが下に厚いのは「自然のなせる業」ではなく、「職人の判断」によるものでした。

ただし、この逸話が生まれた背景には、ガラスという物質の不思議さがあります。ガラスは液体のように不規則な分子配列を保ちながら、分子の動きがほぼ停止した「非平衡状態」にあるとされています。つまり、液体のような構造を持ったまま固体になっているという状態で、この構造は「アモルファス(非結晶)」と呼ばれます。このため「ガラスは液体か固体か?」という議論が科学の世界でたびたび話題になることもあります。

基本的にガラスが透明なのも、このように分子配列が不規則で内部の性質が均一なため、光が内部で散乱されにくく、直進しやすいからです。

この性質をより精密に制御して発展してきたのが、光学機器を支える「光学ガラス」です。

光学ガラスとは?—通常のガラスとの違い

窓や瓶など、私たちの身の回りにあるガラスの多くは「ソーダ石灰ガラス」です。珪砂(SiO₂)にソーダ灰(Na₂CO₃)や石灰(CaO)を加えて溶かしたもので、コストを抑えて大量生産されます。不純物が多いために透過力が弱い性質がありますが、問題になりません。目的は「光を通すこと」だからです。

一方、光学ガラスの目的は、「光を正確に伝え、操ること」にあります。カメラ、顕微鏡、双眼鏡、望遠鏡、レーザー機器など、光を集めて像をつくる装置には欠かせません。たとえば、手元にあるスマートフォンのカメラ。複数のレンズが光を屈折させてセンサー上に像を結びますが、屈折率が均一でなければ、焦点がぶれます。また、波長(色)によって屈折率がわずかに違うため、「色収差(光のにじみ)」が起きます。

これらの問題を防ぐために、光学ガラスは原料の純度や混合比、溶融温度、さらには冷却速度に至るまで厳密に管理されます。代表的な製法として、珪砂に酸化ホウ素や酸化ランタンなどを加え、白金るつぼで高温溶融し、泡を丁寧に除去。さらに「徐冷(アニール)」と呼ばれる工程で、変形を防ぎながらゆっくり冷やすという方法があります。

こうして生まれた光学ガラスは「屈折率が精密に制御されている」「分散が精密に制御されている」「不純物が極めて少なく透過率が高い」という特性を持ちます。

カメラで風景を写し、顕微鏡で微生物を観察し、望遠鏡で星をとらえる。それらは、光学ガラスが光を精密に操っているからこそ成立しているのです。

 

進化する光学技術と最新分野での応用例

光学ガラスが活躍するフィールドは、今や地上から宇宙、そしてデジタル空間へと広がっています。

例えば、高性能な望遠鏡では、星の光を正確に集め、より鮮明で歪みの少ない像を得るためにフッ化物ガラスが用いられているものもあります。フッ化物ガラスは、紫外線から赤外線まで幅広い波長で光を通しやすく、屈折率のばらつきが非常に小さい素材です。このため、レンズを通過する光が波長ごとにずれてしまう「色収差(光のにじみ)」を効果的に抑えることができます。

さらに、光学性能を最大限に引き出すため、レンズ表面には真空蒸着による多層膜コーティングが施されます。反射を抑える反射防止膜(ARコート)、特定波長を選択的に透過・反射させる干渉フィルター、高反射ミラー膜などが代表的で、これらの薄膜技術が光学系の性能を大きく左右します。こうした光学材料と薄膜技術の応用範囲は可視光にとどまらず、赤外線光学にも広がっています。

赤外線を扱う場合は一般的な光学ガラスとは異なり、多くは用途に応じて、ゲルマニウムやセレン化亜鉛など、赤外線の透過性に優れた様々な特殊素材が用いられます。赤外線は物体の温度を検知できるため、夜間監視カメラ、医療用サーモグラフィ、産業検査、さらには地球観測衛星でも利用されています。

これらの赤外線レンズにも、反射率を低減する赤外線用ARコートや、耐環境性を高める保護膜が蒸着され、実用性と耐久性が向上します。

さらに近年では、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)の分野でも光学技術は急速に進化しています。ヘッドセットのレンズは、人間の視覚に違和感を与えずに映像を投影するため、極めて高精度な光学設計が求められます。軽量で高屈折率、かつ高い透過率を実現するために、ガラスと樹脂を組み合わせたハイブリッド素材や、屈折率をナノレベルで制御するメタサーフェスなどの技術が開発されています。

このように、光学ガラスは「見る」「測る」「感じる」ための中核素材として、あらゆる分野で活躍の場を広げています。

トプコンの光学技術と計測機器の歴史

この光学ガラスを使った当社の精密光学技術は、トプコンのものづくりの原点です。トプコンの歴史は1932年、旧陸軍の要請により測量機などの製造を担った「東京光学機械株式会社」に始まります。創業当初から高精度の光学レンズや双眼鏡、望遠鏡の開発を手がけ、日本の光学技術の発展に大きく貢献しました。

戦後その技術は民生分野へと展開し、従来からの測量機器やカメラに加え、眼科医療機器などへと応用領域を広げました。現在トプコンは、創業以来培ってきた光学技術を基盤に、GNSS(全地球測位システム)やレーザー測距、3Dスキャナといった先端の計測技術を融合し、建設、農業、医療など幅広い分野で社会的課題の解決に取り組んでいます。「光で測る技術」を中心に据えながら、計測の可能性を拡張することで、社会の可能性を広げています。