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地球は、自ら光を発することはなく、太陽の周りを回る惑星の一つです。太陽系には、水星・金星・火星・木星・土星・天王星・海王星と、地球を含め8つの惑星がありますが、それ以外にも、惑星と同じように太陽の周囲を公転する小さな天体が無数に存在します。これらは小惑星といい、現在確認されているだけでも約154万個以上に及びます(最新値:小惑星センター(Minor Planet Center))。それぞれが独自の軌道を持っているため、時には地球と衝突する可能性がある天体が発見されることがあります。2024年末には、欧州宇宙機関(ESA)と米航空宇宙局(NASA)が、小惑星「2024YR4」を観測しました。この惑星は、2032年12月22日に地球に衝突する確率が一時は1%以上とされていました。
こうした小惑星を含む天体衝突の脅威に備えるため、その一環として、2010年代にはESAとNASAによる本格的な共同プロジェクト「AIDA (Asteroid Impact & Deflection Assessment)」が開始。現在、その最前線にあるのが、2024年10月7日に打ち上げられたESA主導の二重小惑星探査計画「Hera(ヘラ)」探査機です。具体的にHeraがどのようなミッションを遂行するのか、詳しく見ていきましょう。
地球に小惑星が衝突する可能性は?
「天体と地球が衝突して大災害が起きる」と聞くと、映画『アルマゲドン』や『ディープ・インパクト』のようなSFの世界を思い浮かべるかもしれません。しかし、過去には、小惑星が地球と衝突した事例はいくつも記録されています。その一例が、2013年2月に発生した「チェリャビンスク隕石」の爆発です。ロシア西部のチェリャビンスク州上空で直径約17mの隕石が大気圏に突入し、爆発しました。この爆発により発生した衝撃波が地表に到達し、約4500棟の建物が損壊、約1500人が負傷する被害をもたらしました。また、約6550万年前に恐竜を含む生物の大量絶滅を引き起こした原因も、天体衝突だと考えられています。その痕跡が、メキシコ・ユカタン半島にある直径160kmものチチュルブ・クレータです。
実は近年、近い未来に天体衝突が発生する可能性が示唆されたことがあります。2004年に発見された「アポフィス小惑星」は、2029年4月14日に地球表面から約3万2000kmの距離を通過することがわかっています。高度3万6千km辺りには気象衛星や通信衛星など多くの人工衛星が周回しており、これはつまり人類の活動圏内に直径約340mのアポフィスが現れるということです。このときはまだ軌道の傾斜が異なるため、人工衛星や地球に衝突する心配はほとんどありませんが、2036年にも予想されている地球への再接近の際は、軌道の変化によっては地球に衝突するのではないかと懸念されていました。衝突すれば甚大な被害をもたらすと考えられるため、NASAは当初危険性を警告していましたが、レーダー観測データの精密な解析により、2021年には「今後100年にわたり地球に衝突する可能性はない」と結論付けられています。
また2024年12月には、小惑星「2024 YR4」が発見され、2032年12月22日に地球へ接近するときに衝突する可能性が指摘されました。「2024 YR4」は直径が推定約53〜67mで、衝突確率と被害の大きさを表す指標「トリノスケール」で11段階中3と評価され、一時は注意が必要な天体として大きな注目を集めました。しかし2025年、米航空宇宙局(NASA)と欧州宇宙機関(ESA)の追加観測によって、地球への衝突リスクは実質的に排除されたと発表しました。
地球への衝突リスクがなくなった一方で、「2024 YR4」が月に衝突する可能性は残されています。NASAの推定によると、衝突確率は約4%で、実際に衝突した場合、数百万トン相当のエネルギーが解放される見込みです(研究チームによる軌道シミュレーション予測結果はarXivで公開されています)。また最新の研究では、衝突時には地球からも観測可能なほどの強い閃光が発生し、大気中に流星群が出現するほか、赤外線による光が数時間継続すると予測されています。シミュレーション結果では、地球への危険な影響はないとされていますが、観測史上最大規模の月面衝突イベントになると予測されています。

このように現在のところ、今後100年間で地球に壊滅的被害を与える巨大小惑星が衝突する可能性は極めて低いと考えられていますが、小惑星による潜在的リスクは常に存在します。
プラネタリーディフェンス計画では、こうした衝突による災害を回避するため、地球に接近する小惑星の観測が進められてきました。地球に接近する軌道を持つ「地球接近小惑星(NEA)」は、これまでに約3万6000個観測されており、中には今後100年以内に衝突の可能性が確認されている天体もあると言われています。そのほとんどが直径100m以下の小型のものとされているものの、チェリャビンスクのように推定直径17mの小惑星でも甚大な被害をもたらすことを考えると、衝突を防ぐ技術の確立は急務です。

小惑星の軌道を変えて衝突を阻止!
小惑星が地球に接近し、衝突する場合に備えて「小惑星の軌道を変える」という方法が検討されています。その実験として、ESAとNASAが共同でAIDA計画を立ち上げました。この計画は、2機の探査機を小惑星に送り、一方を小惑星に衝突させて軌道を変え、もう一方の探査機で詳細な現地調査を行うことが目的とされています。2021年11月にはNASA主導の実験探査機「DART(ダート)(Double Asteroid Redirection Test)」が打ち上げられ、その後2024年10月に、ESA主導の「Hera」探査機が打ち上げられました。
DARTとHeraがターゲットとしたのは、小惑星ディディモス(直径約780m)と、その周囲を公転する衛星ディモルフォス(直径約160m)の二重小惑星です。DARTは、2022年9月26日23時14分、計画どおり秒速6kmという高速でディモルフォスに衝突しました。この衝撃により、ディモルフォスの公転周期は32分短縮し、NASAとESAの予想を大きく上回る成果となりました。衝突の影響で形成されたクレータは大きく、大量の粉塵が飛び散った様子が確認されています。この成功により、衝突で小惑星の軌道を変えることは可能であると実証されました。しかし、なぜ予想以上に公転周期が短縮されたのか、大量の粉塵が飛び散ったのか、その原因を解明することは今後の課題です。小惑星の衝突による影響を正確に予測できるようになれば、将来の地球防衛ミッションで不測の事態を避け、より安全で確実な軌道変更を実施できるようになるのではないでしょうか。その使命を担っているのがHera探査機です。
Hera探査機に搭載された日本の技術
Hera探査機は、2026年12月頃に二重小惑星の近距離に到着し、主にDARTの衝突を受けたディディモスとディモルフォスの詳細な探査を行う予定です。探査は、約30kmの高度から開始し、徐々に接近しながら、最終的には2km以下の距離から詳細な観測を行います。小惑星の質量、密度、硬さ、衝突クレータの形状や大きさ、公転や自転の変化などを詳細に調査することで、DARTの衝突がディモルフォスにもたらした影響を分析し、プラネタリーディフェンス技術の発展につなげることも目的とされています。

Photo Credit: ESA
二重小惑星探査計画Hera探査機搭載 熱赤外カメラ(TIRI)の初期観測画像 ~離れ行く地球と月~
2024年11月6日 ウェブリリース
Hera探査機の本体は、1辺が1.6mの立方体の形状をしており、5種類の先進的な観測機器と、2機の子機が搭載されています。この中で特に注目したいのが、JAXAが開発したTIRI(熱赤外カメラ)です。TIRIは、表面の温度変化を測定することで、小惑星の地質や内部構造を推定する役割を果たします。たとえば、小惑星の表面が岩石で覆われているのか、砂のような粒子が多いのか、また内部に空洞が存在するのかといった情報を取得できます。TIRIは、「はやぶさ2」ミッションで使用された中間赤外カメラの技術を発展させたものです。はやぶさ2が探査した小惑星「リュウグウ」では、表面の岩が予想以上に熱を逃しやすいことが判明し、天体の形成プロセスに関する新たな知見が得られました。同様に、Heraがディディモスとディモルフォスの表面特性を調べることで、新しい発見が期待されています。

画像内「B」の部分がTIRI(Photo Credit: ESA)
このTIRIには、実はトプコンの光学レンズやフィルタが搭載されています。トプコンは創業来の精密光学技術を活かし、1980年代から人工衛星に搭載する光学部品やデバイスなどの光学ユニットを提供しています。
TIRIによる小惑星の詳細な観測が成功すれば、将来の宇宙開発や地球防衛に貢献していくのではないでしょうか。未知の世界を解き明かすことで、私たちの未来を守る技術がどのように進化していくのか。Heraの成果から目が離せません。
〈参考資料〉
JAXA「About DART」
JAXA「二重小惑星探査計画(Hera)に関する記者説明会」(動画)
日刊工業新聞「ESA、探査機「Hera」の打ち上げ成功 JAXA開発の熱赤外カメラ搭載」
NHK「小惑星衝突に備える 回避方法を探す宇宙科学者たち」
朝日新聞「新発見の小惑星、2032年に地球衝突「1.2%」 惑星防衛案件か」
日本文芸社「眠れなくなるほど面白い 図解プレミアム 宇宙の話」
ポプラ新書「宇宙はなぜ面白いのか」




