2024-04-04

若者を中心に人気再燃! フィルムカメラの魅力

目次

デジタル技術の急速な進化により、一時は影を潜めていたフィルムカメラが、近年、Z世代やミレニアル世代を中心に再び注目を集めています。フィルムカメラは1970〜1990年代にかけて、一眼レフカメラをはじめとする高性能モデルが数多く登場したことを機に全盛期を迎え、多くの人々に愛用されていました。カメラ映像機器工業会が発表する総出荷数統計によると、フィルムカメラ総出荷数は1997年にピークを迎え、約3,600万台に達しています。それが、デジタルカメラの台頭で2000年代に入ると市場が急速に縮小し、2008年には統計からも姿を消してしまいました。しかし、ここ数年のレトロブームの影響で、フィルムカメラの売上がまた伸びているそうです。フィルムカメラの何が若者の心を刺激するのでしょうか。本記事では、フィルムカメラの特徴や魅力、そして、かつてトプコンが製造していたフィルムカメラを用いた具体的な撮影レポートを通じて、その背景を深掘りします。

不便が逆にいい!? デジタルカメラにはないフィルムカメラの魅力

フィルムカメラは、フィルムを装填して使用するカメラのことです。撮影すると、レンズを通った光がフィルム上に塗られた感光剤と化学反応を起こし、画像を記録します。撮影した画像を見るには、薬品を使って感光情報を画像として定着させる「現像」という工程が必要で、その後プリントなどを行って写真の状態に仕上げます。デジタルカメラと異なり即時性はありませんが、このひと手間が、かえってデジタル世代の若者たちの期待感を膨らませます。また、撮影した画像をすぐに画面で確認することもできないため、たとえ撮影に失敗していても分かりません。フィルムカメラでは、現像してプリントが出来上がってから、暗かったり、明るすぎたり、画像が見切れていたり、目を瞑っていたりしたという例は、往々にしてあります。しかし、このうまくいかなかった経験が、次回への挑戦意欲を掻き立てるのです。失敗したくないという思いから、撮影時に気合が入るので、写真に対しての思い入れも深まります。

芸術心を刺激するフィルムカメラの独特な仕上がり

フィルムカメラで使われるフィルムには、ネガフィルム、ポジフィルム、モノクロフィルムの3種類があり、それぞれ独自の質感と色合いをもたらします。ネガフィルムは光の情報を反転して記録し、現像時に本来の色に戻されます。ポジフィルムは撮影された光の情報をそのまま色鮮やかに記録します。モノクロフィルムは色情報を排除し、黒白のグラデーションで美しいコントラストを表現します。

 

フィルムカメラには、デジタルカメラに備わる「ホワイトバランス」機能がありません。晴天と曇天、室内灯など、光源はモノの色に影響を及ぼしています。ホワイトバランスは、その色合いを補正し、人が見ている色と同じように見せるための機能のことです。フィルムカメラで一般的に用いるネガフィルムなら、現像時にある程度補正されますが、それでもフィルム特有の色味が生まれます。また、光と影のコントラストが強い場合などでも、デジタルのように白飛びや黒く潰れることがあまりなく、柔らかいトーンに仕上がります。

さらにフィルム写真を拡大してみると、小さな点の集まりによって写真が構成されています。デジタルカメラは四角形のピクセルで画像を記録しているのに対し、フィルムは粒子なので、独特のざらつきが味わいを与えています。

若者たちの現代的なフィルムカメラの使用法とは?

若者たちの間では、フィルムカメラで撮影したあと、ネガを現像してプリントせずにデータだけを受け取り、SNSにアップしたりすることが流行しているようです。データ化したら、ネガフィルムを捨ててしまう人も多いらしく、フィルムカメラ世代には驚きの行動かもしれません。確かにデジタル写真はスマートフォンで持ち歩くことができ、大変便利です。しかし、デバイスのトラブルにより写真が突然失われるリスクも伴います。一方、ネガフィルムであれば、適切に保存しておけば再現像が可能です。フィルムカメラの独特な仕上がりを楽しむだけでなく、大切な写真のネガを手元に残したり、プリントして飾ったりするなど、今後はフィルムの楽しみ方も見直されていくかもしれません。

トプコンRE-2

トプコンのフィルムカメラで撮影してみたら…

高精度光学技術で知られるトプコンは、実は1980年代までフィルムカメラを製造しており、画期的技術を搭載した製品をいくつも手掛けていました。その歴史にちなんで、2023年、トプコンがスポンサーをしているレーシングドライバーJames Roeのレースを、トプコンのカメラで、トプコンの社員が撮影するという試みが行われました。使われたのは、1965年製トプコンRE-2の本体とレンズ2本。現代のカメラとは異なり、ピント合わせや絞りの調整も、フィルムの装填や巻き上げもすべてが手動です。通常カメラマンが使用しているオートフォーカスのデジタルカメラなら、時速270kmで走るレーサーを自動で追尾し、1周する間に30〜40枚を撮影できますが、トプコンRE-2は、1分50秒でレーサーが戻ってくる間に、構図を決め、設定を確認し、レーサーが視界に入ったら焦点を合わせてシャッターを切るため、1周で1枚取るのが精一杯。結果、一度のレースで撮影できたのは約150枚でした。プリントまでにはさらに3週間かかり、ようやく手元に届いた写真はSNSにもアップされています。スピードを競うレースとは対象的にどこか穏やかな時間が流れるドラマチックな写真に仕上がっています。ぜひご覧ください。

(参考文献)

一般社団法人カメラ映像機器工業会「銀塩カメラ出荷数」

読売新聞オンライン「フィルムカメラ・インスタントカメラに再び脚光」

日本経済新聞「フィルム刺さルンです カメラ、若者中心に再ブーム」

技術評論社「フィルムカメラのはじめかた」

マイナビ出版「フィルムカメラの撮り方 きほんBOOK」

文友舎「FILM CAMERA MANUAL」