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ICT建機にも活用される
準天頂衛星システム「みちびき」とは?

目次

2024年、日本の新たな主力ロケット「H3」の2号機が2月4日に、3号機が7月1日に打ち上げられました。3号機には地球観測衛星「だいち4号」が搭載され、切り離しに成功。今後「だいち4号」は、災害時の被害状況の把握や火山活動における異変の迅速な発見などに役立てられる予定です。

 

内閣府の宇宙基本計画(2023年12月22日工程表)によると、「H3」の打ち上げは2032年度までに少なくとも22回が計画されています。2025年度には、準天頂衛星システム「みちびき」7号機を搭載して打ち上げ、7機体制を確立する予定で、将来的には11機体制を目指しています。「みちびき」は、私たちにどのようなメリットをもたらすのでしょうか。みちびきが誕生した背景と今後のビジョンについて掘り下げます。

「みちびき」誕生の背景と打ち上げの歴史

準天頂衛星システム「みちびき」は、日本独自の高精度測位衛星システムです。自分の位置を知るサービスといえば、日本では真っ先にGPS(Global Positioning System)が思い浮かぶかもしれません。「みちびき」はそのGPSを補完し、スマートフォンの地図アプリやカーナビなどで利用される位置情報の精度と信頼性を向上させることを目的としています。このため、「みちびき」は日本版GPSと呼ばれることもあります。

 

GPSは、元々は軍事用途として開発された、全世界での測位を可能にするシステムです。24機以上の衛星で運用されており、高度約2万kmの軌道を覆うようにして配置され、地球を周回しています。

3次元の位置情報を得るとき、衛星測位では4機以上の衛星から電波を受信する必要があります。しかし実際は、山間部や都心部での樹木や高層ビルによって電波が遮られ、常に最適な4機の衛星から電波を受信できるとは限りません。そこで、GPSと互換性を持ち、GPS衛星と一体で利用できる「みちびき」の運用が2018年11月にスタートしました。「みちびき」の誕生で、安定した高精度測位が可能となり、衛星測位のサービス環境が劇的に進化しました。

どうして複数機が必要?

「みちびき」は、2010年から2017年にかけて、1から4号機までが順次打ち上げられました。現在「みちびき」は、準天頂衛星3機と、赤道上空に配置された静止衛星1機の4機体制で運用されており、このうち3機は、アジア・オセアニア地域の各地点で常時観測可能です。

 

準天頂衛星とは、一地域の上空に長時間とどまる軌道を取る人工衛星のことです。理想としては、日本上空に衛星を常に静止させたいところですが、地球の引力と遠心力の方向が違うため、完全に静止させることはできません。そこで、南北非対称の「8の字軌道」を描き、北半球に約13時間、南半球に約11時間留まることで、日本付近に長く留まる設計となっています。通常、静止衛星は経度を固定して赤道上空に配置されますが、これを南北に揺動させることで「8の字軌道」を描くようにしているのです。これにより、3機の衛星が8時間ごとに順番に日本上空に現れ、常に1機以上が仰角70度以上に位置することになります。仰角90度の「天頂」ではないことから、「みちびき」は「準」天頂衛星システムと呼ばれます。

 

4機体制になったことで、常にほぼ天頂方向に測位衛星が存在し、これまで以上に多くの測位衛星からの信号を受信できるようになりました。それにより、ビルや樹木で視界が狭くなる都市部や山間部でもより安定した測位が可能となったのです。「みちびき」は、将来的には静止軌道に1機、若干軌道傾斜角をつけた準静止軌道に1機、そして準天頂軌道に1機を加えた7機体制に拡充される予定です。7機体制になれば、日本からは常時3機以上が観測可能となり、測位精度がさらに向上し、日本及び日本近海では「みちびき」の衛星単独での測位が可能となります。また、東南アジア、インドネシア、フィリピン、オーストラリアなども「みちびき」の恩恵を受けることになります。

さらに、4機を追加して11機体制にする計画も進行中です。追加の4機は2機ずつペアになり、日本の東側と西側を南北に巡る準天頂衛星として運用されます。11機体制になると、太平洋西半分から中国・東南アジア、インドネシア、フィリピン、そしてオーストラリアまでが「みちびき」による測位サービスを利用できるようになります。

みちびきが活用されている代表例

「みちびき」は、位置情報を把握する衛星測位サービスだけでなく、自動運転、精密農業、災害対策など多方面でさまざまなサービスを提供しています。

防災時には、防災機関から発表された地震や津波発生時の災害情報など、危機管理情報が「みちびき」を通じて送信されます。電源のある屋外設備(街灯、サイネージ等)や移動体(カーナビなどの車載機器)での利用を想定し、災害時には受信した災害情報を音声や表示で通知することができます。山間部などの通信網が脆弱な地域や、地上インフラが被災して通信が途絶した状況でも、迅速に災害情報を伝えることが可能です。

 

防災時には、防災機関から発表された地震や津波発生時の災害情報など、危機管理情報が「みちびき」を通じて送信されます。電源のある屋外設備(街灯、サイネージ等)や移動体(カーナビなどの車載機器)での利用を想定し、災害時には受信した災害情報を音声や表示で通知することができます。山間部などの通信網が脆弱な地域や、地上インフラが被災して通信が途絶した状況でも、迅速に災害情報を伝えることが可能です。

 

今後も、「みちびき」はさらに多くの分野での応用が期待されます。高精度な位置情報を活かした新しいサービスも生まれてくるでしょう。

トプコンでは、「みちびき」やGPSを含むGNSS(全球測位衛星システム)の電波を受信し、高精度に位置情報を測位する製品を販売しています。高精度な位置情報は、建設現場における正確な施工や、スマート農業におけるさまざまな分野での利用が進んでいます。

GNSS受信機『HiPer CR』は、頑丈な設計と高度な信号追尾機能を備えており、過酷な環境でも高精度な測位を実現します。

トプコンのGNSS受信機一覧

 

(参考文献)

内閣府「みちびき(準天頂衛星システム)」

JAXA「ALOS-4 H3 F3特設サイト」

内閣府「宇宙基本計画」

NHK「「H3」ロケット3号機 打ち上げ成功 だいち4号 予定軌道に投入」

・扶桑社「日本の宇宙開発最前線」