2023-06-20

メートルの長さは地球の長さを基準に決められた!

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私たちが普段使っている長さの単位「メートル(m)」は、アメリカなどの一部の国を除き、世界中で使われている共通の単位です。計測の国際的統一を目指す国際度量衡委員会が、「1秒間に光が真空中を進む距離の299,792,458分の1を1メートルとする」と定義しています。なんと中途半端な数値だと思いませんか? 計算するのが随分ややこしそうです。しかし実は、このような数値になった理由がちゃんとあるのです。メートルの長さが、現在のように定義されるまでの変遷を探ってみましょう。

メートルが登場する以前の長さの基準は?

 

メートルが長さの単位になったのは1790年代です。それまでは、ほかの単位が使われていました。ピラミッドが建設された時代には、王のひじから中指の長さを1キュービットとし、王が変わるたびに決め直したといわれます。ほかにも手のひらを開いたときの親指の先から小指の先までの幅を1スパン、親指以外の4本指を閉じたときの幅を1パルムとするなど、体の一部を単位の基準としていた例が多いようです。今でも欧米で使われているフィートは足の、ヤードは腰回りのサイズが由来。日本でも使われていた尺は、手を広げたときの親指と人差し指の間の長さ、寸は親指の幅が由来で、中国が発祥とされています。

 

中国では、紀元前221年、秦の始皇帝が東洋で初めて単位を統一しました。このとき始皇帝は、主食である黒きびの粒を並べて尺や寸などの長さを決め直したといわれています。この時代に、体を用いずに自然物で表そうとした試みはとても画期的です。変わった例では、インドで牛の声が聞こえなくなる距離を表す単位や、チベットでお茶の温度が飲み頃に冷めるまでに走れる距離を基準にした単位もあったそうです。

 

曖昧な基準から人類共通の地球を基準に!

 

このように、メートルが登場するまでの単位は、地域によってバラバラで、しかも個人差がある体の一部や感覚を基準にするなど、かなり曖昧です。18世紀に入るとヨーロッパでは産業革命が起こり、物や金の移動が広範囲に及ぶようになります。国ごとに異なる曖昧な単位では不都合が生じることが多くなり、全員が納得して使える共通の単位の必要性が迫られました。

そこで、フランスの外交官タレーランが制定したのがメートル法。地球の赤道から北極までの子午線(経線)の長さの1000万分の1を1メートルと定めました。そして、ボルダの円環と呼ばれる最新の測量機材を用いて、パリを通る子午線上の2地点から、三角測量で子午線の長さを求めました。地球の外周が約4万キロメートルとキリがいいのは、メートル自体が地球を基準にして決めたからだったのです。当時は、フランス革命の真っ只中でもありました。王のひじや足、腰回りを基準に単位を決める権威主義的なものではなく、全人類が共有する地球を基準にしたメートル法は多くの支持を集めました。1875年には、メートル外交官会議にて国際的なメートル条約が成立。10年後の1885年に、日本も条約に加盟しました。

 

副原器の配布によりメートルが世界に広まる

 

メートルの長さは、地球を基準にして決められましたが、何かを測るたびに子午線の長さを測って比較し、計算するのはかなり非効率です。そこで、物差しのようにメートルの長さを具体化する原器が白金でつくられました。その後、材料や形を変えて改良された副原器が、メートル条約加盟国に配られます。日本がこのとき入手した副原器は、茨城県つくば市にある産業技術総合研究所に保管されています。

 

メートル法では、メートルだけでなく、メートルの1000(10の3乗)倍の長さのキロメートル(km)、さらにその1000(10の6乗)倍のメガメートル(Mm)、以降、10の24乗倍のヨタメートル(Ym)まで、1000倍ごとに単位が定められました。同じようにメートルより1000分の1短い長さをミリメートル(mm)、さらにマイクロメートル(μm)…と、10の24乗分の1のヨクトメートル(ym)まで1000分の1ずつ短くした単位が決められます。ミリメートルからキロメートルまでは、さらに10倍ずつ刻んだ単位もつくられました。

 

より正確さを求めてメートルの基準を変更

 

ヨクトの単位まで知っている人はいなくても、10の9乗分の1のナノ(n)や10の12乗分の1のピコ(p)という単位なら耳にしたことがあるかもしれません。今やナノテクノロジーは身近になっています。すると、そこで疑問が起こります。果たしてメートル原器は、そんなに小さなサイズまで、少しも狂うことなく正確につくることができたのでしょうか。人工でつくられたものには、どうしても誤差が生じますし、劣化もします。もっと普遍的な基準をつくることはできないのか? と注目されたのが「真空中であれば光の速さは一定である」という理論です。

 

科学の発見に伴い、メートル原器に代わる存在として「クリプトン86原子の橙色の光の波長」が選ばれ、メートルの定義も冒頭のように変更することになりました。最新の定義に変更されたのは1983年。ほんの約40年前のことです。ただ、定義は変わっても、地球の子午線を基準に決めたメートルの長さ自体が変わることはありません。そのため、中途半端な数値で定義されることになったのです。もし、先に光の速さで定義されていたら、地球の長さは複雑な数値になっていたでしょう。

 

光の速さを使った測量機器も登場

ものの長さを測るとき、通常物差しやメジャーなどを使っている私たちには、光の速さがメートルの定義に使われていると聞いても、いまいちピンと来ないかもしれません。しかし、測量の現場では光波を使って距離を測ることは一般的です。例えばトータルステーションは、距離を測りたい場所にプリズムを設置し、測量機から発射した光を反射させ、戻ってくるまでの時間を計ることで、長さを測ることができます。測量の現場は少しの誤差も許されない世界。トプコンは創業以来の「光学」を駆使して、今も世界中の「はかる」仕事に貢献し続けています。

 

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