公開日:

最終更新日:

動物の見ている世界とは?

目次

私たち人間が目を通して見る世界は、動物や昆虫が見ている世界とは大きく異なります。人間の目には、他の生物と異なるいくつかの特徴があります。例えば、人間の目は顔の真正面に位置し、左右の視野が一部重なることで、物を立体的に捉えることができます。また、人間は紫外線を認識することができませんが、動物や昆虫の中には、紫外線を感知できる生物もいます。

 

今回は、こうした動物や昆虫の「見え方」の違いについて、具体的な例を挙げながら解説していきます。

昆虫や動物の見え方は人と異なる

「視覚」とは、外界からの光を目が感知し、その情報が脳に伝えられて認知する感覚のひとつです。光が人間の眼に入ると、眼の奥にある網膜で視細胞が反応し、その信号が視神経を通じて脳に送られ、視覚として認識されます。視細胞には、錐体(すいたい)と桿体(かんたい)の2種類があり、それぞれ異なる役割を持っています。錐体は主に明るい場所で働き、色を識別する機能を持ちます。一方、桿体は暗い場所で働き、わずかな光でも反応しますが、色を認識することはできません。

 

人間の目には錐体と桿体の両方が存在しますが、例えば犬や猫のような哺乳類は、私たちよりも少ない種類の錐体しか持っておらず、見える色の範囲が限られています。しかし、猫や犬は夜間の視覚能力が優れていて、暗い場所でも物体をはっきり認識することができます。

一方、昆虫の視覚はさらに独特です。多くの昆虫は人間が見えない紫外線を感知できますし、人間とは異なる「複眼」という目の構造を持っています。複眼は、小さな「個眼」が集まってできていて、それぞれの個眼が異なる角度から光を捉えるため、非常に広い視野を持っています。

人に見えない紫外線をたよりに蜜を吸うハチ

ミツバチは、2つの複眼と3つの単眼を持っています。複眼には約4,000個の小さな個眼が集まっており、周囲の形や動きを認識しています。また、ミツバチは人間よりも優れた色覚を持ち、赤い色は認識できないものの、人間が見えない紫外線を含む波長の短い光まで感知することができます。

 

ミツバチは遠くまで飛んでも、巣に正確に戻ることができる能力があります。これは、ミツバチが偏光視を持っているためだと考えられています。偏光視とは、光の波が特定の方向に振動する様子を識別できる能力です。この偏光視のおかげで、私たちが一様に見ている青空も、ミツバチには明るい部分と暗い部分が区別できます。そのため、太陽が雲に隠れていても空の明暗を手掛かりに巣の方向を判断できるのです。

 

さらに、ミツバチは蜜のある花を見つけると、巣に戻り「ワグルダンス」と呼ばれる動きで、他のミツバチに蜜の場所を知らせます。ミツバチが蜜を探し当てられるのは、花の多くが、蜜のある部分に紫外線をたくさん吸収しているからです。ミツバチは紫外線を捉えることができるので、蜜のある場所をはっきりと見分けて、仲間にその情報を伝えることができるのです。

月明かりで獲物を捉えるフクロウ

フクロウは夜行性で、主に夜に活動しています。夜行性動物の多くは、視覚だけでなく、聴覚や嗅覚も発達しています。たとえば、コウモリは超音波を使って反射音を感知し、障害物を避けながら飛ぶことができます。このため、コウモリは目を使わなくても、超音波で周囲を正確に把握できるのです。

 

一方、フクロウは主に視覚と聴覚を使って獲物を見つけます。フクロウの目は顔のほとんどを占めるほど大きく、わずかな光でも効率的に取り込めるようになっています。また、フクロウの目には網膜に入った光を再度反射させる輝板(タペタム、照膜ともいう)があり、視覚の感度を高めています。猫にもこの反射板があります。これが、夜にフクロウや猫の目が光って見える理由です。

 

さらに、フクロウの目は顔の正面についているため、人間と同様に立体的にものを見ることが可能で、獲物との距離感を正確に把握することができます。フクロウは人間と違って目を左右に動かすことはできませんが、首を最大270度回転させることができるので、広い視野を確保し、周囲の状況を確認できます。

 

このように、フクロウの視覚は、暗闇で獲物を捉えるのに非常に優れています。わずかな月明かりや星明かりでも獲物を捉えることができるのです。

トンボはなぜ指をぐるぐる回すと捕まえられるのか

トンボの目は側面についていて、顔からはみ出すほど大きいのが特徴です。二個の複眼と三個の単眼を持っていて、複眼には、約2万個の個眼が集合しており、これほどの個眼を持つものは他に類をみません。それぞれの個眼は特定の方向の光を捉え、周囲を認識します。このため、トンボは非常に広い視野を持ち、360度近くの範囲を一度に見ることができます。トンボは空を飛びながら獲物を探したり、天敵の存在をいち早く察知したりするため、このような広い視野が必要なのです。

 

トンボは、その広い視野によって、背中側と腹側で異なる光を捉えることができます。背中側では、短波長の光(主に青色)に敏感であり、腹側ではより広い範囲の色を認識できるとされています。ただし、トンボの色覚は、人間が見るような鮮明な色ではなく、特定の色は見えづらいようです。

 

ところで、小さい頃、昆虫採集で「トンボの目の前で指をぐるぐる回すと、トンボが目を回して捕まえやすくなる」と教えられたことはないでしょうか。肉食であるトンボは、目の前で動く指先の動きにも敏感で、目で追っている可能性はあります。しかし、科学的にはトンボが実際目を回しているわけではないといわれています。

 

私たち人間が見ている世界と、動物や昆虫が見ている世界には大きな違いがありますが、それぞれの生物が持つ視覚は、その生活環境や行動に適応して進化してきました。私たちの目には見えない世界を、動物や昆虫はどのように感じ取っているのかを考えると、自然界の仕組みが見えてくるかもしれません。

 

(参考文献)

公益財団法人 日本眼科学会「眼の構造」

心理検査出版 三京房「視覚の基礎」

J-Stage「トンボの視覚への実世界のリアルタイム変換」

泰流社「動物たちは何を見ている?」

中公新書「虫や鳥が見ている世界」

学会出版センター「生き物はどのように世界を見ているか」

大月書店「動物の目、人間の目」