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「11月29日」は何の日かご存じですか? 答えは「November(ノウ)」と「29(フク)」の語呂合わせ「ノウフク」にかけて、農福連携を推進する日とされています。今回は、今後ますます広まっていくことが望まれる農福連携を深掘りしていきます。

2024年に固まった国のビジョン
国がとりまとめた『農福連携ガイドブック』によると、農福連携とは「農業と福祉が連携し、障害者の農業分野での活躍を通じて、農業経営の発展とともに、障害者の自信や生きがいを創出し、社会参画を実現する取組です。 当初の対象は障害者でしたが、現在では、高齢者、生活困窮者、ひきこもりの状態にある者の就労・社会参画支援、犯罪をした者の立ち直り支援にまで広がっています(原文ママ)」とあります。
このように、すべての人々が生きがいを共に創ることができる「地域共生社会」の実現こそが、農福連携に取り組む目的です。
障がい者を「共に社会を作る一員」とする考えが日本で広がり始めたのは、21世紀に入った頃で、国が「農福連携」の用語を使って動き出したのと、ほぼ同時期のことです。その後、2016年に「農福連携による障害者の就農促進プロジェクト」を開始。2019年に「農福連携等推進ビジョン」を取りまとめ、スタート地点に立ちました。
そして2024年に、更なる推進に向けた「農福連携等推進ビジョン(2024改訂版)」を決定。同年に改正された「食料・農業・農村基本法」には「農福連携」が明記され、国が推進する責務が明確になりました。

課題もあるが、「農」にも「福」にも効果に期待
取り組みを行う農業経営体は、2024年度末時点で8277カ所です。2023年に一般社団法人日本基金が実施した調査によると、農福連携に取り組んだ農業経営体のうち77.3%が収益性向上の効果が「ある」と回答しました。障がい者等を受け入れることの効果については、「人材として、障がい者等が貴重な戦力となっている」、「農作業等の労働力が確保できたことで、営業等の別の仕事に充てる時間が増えた」との回答が50%を超えており、農福連携の効果の現れがうかがえます。
また、同調査によると、農福連携に取り組んだ障がい者就労施設のうち87.5%が「プラスの効果あり」と回答しています。
2014年ではありますが、特定非営利活動法人日本セルプセンター「農と福祉の連携についての調査研究報告」によると、農業活動に取り組んだ結果、「精神の状況がよくなった・改善した」と回答した施設は57.3%。「身体の状況がよくなった・改善した」と回答した施設は45.0%。障がい者本人への効果を見ると、「就労訓練」のほか、「地域住民と交流ができるようになった」、「コミュニケーション向上」が上位にランクインしました。
ところが、同センターによる2022年度の調査では、「農福連携の取組を内容も含めて知っている」と回答しているのは、消費者の約8%、企業の経営者・役員の約9%に留まっています。
このことから、農福連携において「知られていない」や「広がりにくい」という課題が浮き彫りになってきます。とは言え、取り組みが始まってからまだ約10年。長い目で見れば、今後の改善が期待されるところです。

オランダのケアファーム、イタリアのソーシャルファム
農福連携と類似する政策は、日本のみならず、他の国でも行われています。中でもオランダとイタリアは、その先進的な取り組みにより注目を集めています。
オランダで1990年代の後半頃から、本格的に普及が始まった「ケアファーム」という仕組みは、「ファームでケアを受ける」という福祉としての位置づけが明確です。これは「労働によって所得を得る場」ということではなく、「居場所」「就労支援の場」と捉えられていることによります。対象は、障害者、認知症の高齢者、うつ病患者等。取り組む農業経営体は福祉制度内で「サービス提供者」として認定されており、報酬は公的介護保険制度を通じ、福祉サービスに対して支払われます。
イタリアでは、社会的農業「ソーシャルファーム」が2015年に法律で制度化されました。「社会的協同組合」が農場を運営し、国や自治体からの支援を受けています。労働者組合員は、社会的に不利な立場の人々の割合が30%以上であることが定められており、その定義は身体・精神障がい者、薬物依存者、アルコール依存症者、元受刑者、若年失業者、家庭の事情で働く未成年者等と幅広いのが特徴です。こうしたことから、社会的弱者が社会復帰するための場所としても機能しているのです。就労支援と地域福祉を両立する仕組みとして、法制度・実践・社会的認知の面で非常に整備された先進的なモデルといえます。
最も必要な改革は、私たちの意識
日本では、2030年までに、農福連携に取り組む農業経営体を12,000カ所以上とする目標を設定しています。但し、農福連携によって目指す地域共生社会を構築するためにハード面、ソフト面を整備したとしても、最終的に残るのは偏見や差別であると考えられています。現に、2022年の内閣府の世論調査によると、「世の中に障害を理由とする差別や偏見がある」と思う人は88.5%でした。
こうした現状を変えるためには、制度や仕組みだけでなく、私たち一人ひとりの意識と行動が求められています。小さな配慮や工夫が、地域共生社会への大きな一歩となるのです。




