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離島に水を届ける! 軍艦島の水道工事と現代の給水インフラ

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昨年放送され、話題となったドラマ『海に眠るダイヤモンド』。軍艦島に人々の暮らしがあった時代を丁寧に描いたこのドラマでは、島の厳しい“水事情”もリアルに描写されていました。水源のないこの島では、生活に必要な水は船で運搬されるという状況でしたが、1957年に水の安定供給を目的とした海底送水管を敷設。日本で初めて導入された技術を活用した、とても難しい工事でした。本記事では、軍艦島の水道工事の詳細と、ほかの離島での水の確保について、さらに現代の水道技術についてもご紹介します。

 

軍艦島を変えた、日本初の海底送水管工事

長崎県の端島、通称「軍艦島」はかつて炭鉱の町として栄え、最盛期には5000人以上が暮らす海上都市でした。しかしながら、この島には淡水の供給源が乏しく、飲み水も生活用水も毎日船で運ばれていました。船による運搬は海況の影響を受けやすく、水不足は島民にとって大きな不安材料でした。

この問題を解消するべく、長崎本土の三和町から島まで約6.5kmにおよぶ海底送水管の敷設工事が始まり、1957年に完成しました。工法は「海底曳航法」と呼ばれ、陸上で550mごとにパイプを溶接し、曳船や対岸のウィンチで曳いて海底に沈めていくという方法で施工。配管は鋼管にアスファルトやモルタルで保護が施されていました。

この工事によって、島民は蛇口から自由に水を使えるようになりました。給水体制の確立は、軍艦島の生活環境を大きく向上させた画期的な出来事でした。

軍艦島の例から約60年たった現在では、多くの有人離島に海底送水管が敷設され、本土から浄水が送られています。

海水を飲み水に? 沖縄の「海水淡水化技術」

一方で、地理的条件や経済性から海底送水管の敷設が難しい地域もあります。こうした場所では、海水を淡水化する設備の導入が進んでいます。

沖縄県は全国に先駆けて「海水を飲み水にする」技術を導入しました。沖縄は大小160以上の島々で構成されており、送水管の設置が難しいうえ、多くの島々は、ダムや湖沼といった水源が乏しく、川があっても短いなど、水の確保が難しい地域といえます。また、年間降水量は多いものの季節による偏りが大きく、特に夏に渇水が起きやすい気候的な問題もあります。

代表的な海水淡水化技術は「逆浸透膜(RO膜)」です。これは水分子だけを通す非常に小さな孔(約0.0001ミクロン)を持つフィルターに海水を通し、塩分や不純物を取り除く方法です。沖縄本島中部の北谷浄水場に隣接する海水淡水化センターでは、このRO膜で1日に約4万トンもの海水を飲み水に変えています。この技術により、台風や渇水の時期でも安定した水供給が可能となりました。一方で、高い圧力で処理するため電力消費が多いという課題もあります。

水を運ぶのではなく、つなげる   橋による水道インフラの延伸

橋が人や物の移動のみならず、水までも運ぶ時代が来ています。兵庫県の淡路島はその象徴ともいえる場所です。明石海峡大橋は1998年に開通し、道路交通網の強化という大きな使命を果たしましたが、もう一つ島の暮らしを支える重要な役割があり、それが橋を通じた水道インフラなどの延伸・整備です。橋の開通と同時に、口径約450mmの送水管が橋桁に沿って敷設され、兵庫県本土から淡路島へと直接、水道水を送れるようになりました。

以前、淡路島では干ばつなど深刻な渇水に悩まされることがしばしばありました。また島内では観光や農業の発展により水の需要が増加し、島内だけで安定供給するには限界がありました。明石海峡大橋の送水管敷設は、そうした課題を根本から解決する大きな転換点となったのです。

この送水管は、橋のケーブル下部に設置されています。海底にパイプを埋設する方法に比べて設置や維持がしやすく、伸縮性の高い構造で地震などのリスクも軽減されています。

「橋を通じたインフラ延伸」は他の地域でも応用され始めています。たとえば、来島海峡大橋では、上水道だけでなく送電線や光ファイバーも橋桁に沿って敷設され、愛媛県の今治市と大島地域を広域的な生活インフラで結び、地域の生活基盤を支えています。

 

インフラの未来:課題とテクノロジー

日本の水道インフラは、いま再構築の時期を迎えています。2024年4月には、水道行政の所管が厚生労働省から国土交通省へと移管されました。これまで水道事業は「公衆衛生」の観点から管理されてきましたが、今後は「社会インフラ」として、交通や都市整備と一体的に扱われる方向にシフトしています。この制度変更の背景には、水道施設の老朽化や人口減少、技術者の不足、災害対応といった、構造的な課題の深刻化があります。

なかでも喫緊の課題が、水道管の老朽化です。日本全国で敷設された水道管の多くは、高度経済成長期に整備されたまま使用されており、40年以上使われている水道管の割合は増加を続け、令和2年度末にはすでに20%を超えています。更新のペースは鈍く、すべての管路を更新するには100年以上かかるという試算もあります。

課題は都市部だけでなく、離島や沿岸部のインフラにも顕著にあらわれています。たとえば愛媛県宇和島市の戸島では、本土と島をつなぐ海底送水管が敷設されてから約40年以上が経過し、劣化が問題となっていました。そこで2023年に海底送水管の更新工事を実施しています。

ただし、これらの更新工事には多額の費用と高度な技術が必要とされます。とくに海底管のように設置や点検が難しい施設では、現状の管理図面が整備されていない自治体も少なくありません。更新計画の立案、異常検知の仕組みづくり、点検作業の効率化など、実務面での課題も山積しています。

既設上下水道管の老朽化に伴う更新など、地下埋設インフラ整備の需要が高まっています。一方で、掘削時に埋設物を破損してしまう事故が増加している傾向が見られます。

トプコンで取り扱っている電磁波方式地中探査機「MALÅ Easy Locator Core」は地下に埋設された管路や構造物を探査できる装置です。掘削前に埋設物の位置を正確に確認することで埋設物破損事故を未然に防ぐことが可能になります。

地下にある見えない設備を「見える化」するこの技術は、施工時はもちろん、以後の日常管理、維持管理の効率化を図ることにつながります。

 

<参考文献>

長崎県公式観光サイト|端島(軍艦島)

沖縄県企業局|海水淡水化センター

淡路広域水道企業団|明石海峡大橋添架送水管

厚生労働省|水道行政の最近の動向等について