2023-11-08

首都圏の“地下神殿”が洪水対策に活躍!

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国土の約73%が山岳地帯と丘陵地で占められている日本では、国民の約半数が海抜100m以下の低地に暮らしています。首都である東京都にも低地が多く、なかでも地盤沈下が進んだ江東区、墨田区、江戸川区のあたりは、東京湾の干潮位よりも低い“ゼロメートル地帯”が広がっています。過去には度々水害に見舞われ、その度に水害・洪水を防ぐ治水施設の土木工事が進められてきました。

 

2019年10月12日、過去最大クラスの台風が首都圏を直撃し、記録的な大雨と暴風の影響により各地で甚大な被害が発生しました。しかし、 “ゼロメートル地帯“や都心部では、一部を除いて大規模な浸水被害は発生しませんでした。その立役者となったのが治水施設です。その具体的な内容を紹介します。

世界最大級の“地下神殿” 「首都圏外殻放水路」

首都圏外殻放水路は、洪水対策のために建設された世界最大級の地下放水路です。埼玉県春日部市の国道16号の直下に位置し、深さ50m、全長6.3kmにわたって広がっています。埼玉県内を流れる中川、倉松川、大落古利根川(おおおとしふるとねがわ)、18号水路、幸松川などの中小河川が洪水を引き起こした際、あふれた水の一部を水位にゆとりのある江戸川へと流すことができます。この地域は、台地に挟まれて「皿」のような地形をした“ゼロメートル地帯”で、水がたまりやすく、これまで数多くの洪水被害を受けてきました。川の勾配が緩やかで海まで水が流れにくいこと、都市化の進行で雨水が地中に染み込みにくくなったことが原因で、水位が下がりにくいところに豪雨が一気に流れ込むと洪水が発生しやすくなっているのです。

 

首都圏外殻放水路は、各河川から洪水を取り入れ、地下河川の「トンネル」へ流し込み、「調圧水槽」で水の勢いを弱めてから排水するように構成されています。洪水を取り入れるための「立坑(たてこう)」と呼ばれる垂直な坑道は5本存在し、深さ約70m、内径約30mにも及びます。これは、スペースシャトルや自由の女神がすっぽり入る大きさ。川の水が一定の水位を超えた場合、立坑を通じて放水路に水が導かれ、地底トンネルに流す仕組みになっています。

 

首都圏外殻放水路の調圧水槽や第一立坑は、一般の見学が可能です。調圧水槽には、幅78メートル、奥行き177メートルの空間に、古代ギリシャ神殿を思わせる高さ18メートル、幅2メートルもの巨大な柱が59本も立ち並んでいます。「地下神殿」とも称される壮麗な建築美が見られるスポットとして、SNSでも話題となっています。

2025年には国内最大級の地下「調節池」が完成予定

東京都内でも、豪雨時に河川の水位上昇を緩和するための「調節池」の整備が進められてきました。調節池は、ビルや住宅が立ち並び川幅を広げることが困難な地域で、洪水の一部を貯留するための設備として設けられているものです。東京都では、2021(令和3)年度末までに12河川27箇所で合計約264万立方メートルの調節池を稼動させています。

 

東京都で整備されてきた調節池には、掘込み式、地下箱式、地下トンネル式の3つの型式が存在します。掘込み式は地上部を掘削、または堤防の一部を切り開いて洪水を流入させる施設で、平常時には公園やビオトープとして活用されることもあります。地下箱式や地下トンネル式は、首都圏外殻放水路と同様に、地下で洪水を貯留する施設です。なかでも最も貯水量の多い「神田川・環状七号線地下調節池」は地下トンネル式で、内径12.5m、延長4,500mにも及ぶ巨大トンネルが神田川流域の洪水対策に役立っています。2019年の台風時には、約9割の容量まで水がたまり、河川の水位を約1.5mも下げる効果がありました。

 

現在、この神田川・環状七号線地下調節池と、同じ地下トンネル式の白子川地下調節池を連結させる「環状七号線地下広域調節池」の整備が進められており、2025年度の完了を目指しています。完成後の総延長は13.1km、貯水容量は合計143万立方メートルになり、これは25メートルプール約4,800杯分に相当します。

 

工事では、「シールド工法」という方法が採用され、シールドマシンという筒型の機械を用いて、内径12.5mのトンネルを1日で約4mも掘り進めているそうです。

実は全国にもある水害対策設備

日本は急流河川が多く水害に遭いやすい国です。そのため、首都圏以外にもさまざまな水害対策施設が整備されています。大都市近郊や河川の下流域を中心に、地下放水路や調整池が設置され、集中豪雨などの際に発生する多量の雨水を効果的に管理しています。「山王雨水調節池」を含む4つの施設で約3万平方メートルの雨水をためることができる「雨水レインボープラン博多」は、福岡県博多駅周辺を浸水させないために策定された対策です。「筑後川水系流域治水プロジェクト」や「八尾広域防災基地調節池」もその一例。

 

「筑後川水系流域治水プロジェクト」は、日本三大暴れ川の筑後川における抜本的な治水対策及び流域が一体となった防災・減災対策。「八尾広域防災基地調節池」は、豪雨時に雨水を一時的に貯留して浸水被害を軽減し、災害時には防災基地のヘリコプター駐機場として機能、晴天時には多目的広場として利用できる施設です。ほかにも、各自治体では堤防の整備や遊水地の造成など、独自の水害対策を進めています。これらの施設や取り組みは、地域住民を水害から守るために不可欠なインフラとなっています。

洪水対策工事で役立つトプコンの技術

洪水対策の施設を建設する際には、高精度な測量や設計が不可欠です。その際に役立つのが「トプコン」の製品。土木工事の各段階で利用できる先進的な測量機器やソリューションを提供しており、例えば洪水対策の貯水槽の施工時、掘削管理をする際に測量機を役立てることができます。

 

またトプコンの製品は、人手不足という土木工事業界で深刻な課題への解決にも一役買っています。技術的な専門性が求められる測量作業の簡易化や、ICT自動化施工システムによる建設機械のロボット化、クラウド上でのデータ一元管理システムを活用して、工事の効率化や「建設工事の工場化」を推進。急がれる災害対策に貢献していけるよう、邁進していきます。

トプコンの土木分野の製品・ソリューション