2022-11-01

トプコンの測量技術が、南極の氷上滑走路建設に貢献

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大海原や砂漠のような、目印のない茫漠たる空間を旅するとき。あるいは土地の境界を定め、治水等のために高低差を把握したいとき。人類は長い間、北極星や太陽、月といった天体、風、海流、木や山などを手がかりに、自分の現在地、進む方角、距離、土地の面積、傾斜などを割り出していました。

この知見は、数千年の時を経て、現代の「測量技術」へと磨き上げられます。かつて測量機メーカーとして産声を上げたトプコンは、その進化の大いなる一翼を担うグローバルカンパニー。その活躍フィールドは、都市や山間部にとどまらず、今や地球上の最果ての地である南極にまで及んでいます。

今回は、南極の氷上滑走路建設にあたってトプコンが前代未聞の測量作業を見事成功させた物語。名機「GNSS受信機HiPerHR」は、雪と氷に隔絶された異空間でも確実な結果を出し、建設プロジェクトの前進に貢献しました。

滑走路の設営は食料補給、機器運搬、人の搬送など、様々に役立っている

南極基地に暮らす人々の悲願「車輪脚の航空機を通わせたい」

「南極」とは、南極点を中心とした南極大陸と、周辺の島嶼部や海域を含むエリアの総称。地球上でもっとも寒冷な地域のひとつとされ、南半球の夏である12月〜1月には一日中太陽が沈まない「白夜」、冬の時期である6月〜7月には一日中太陽の昇らない「極夜」があります。

陸地の大部分は、3,000万年の間に降り積もった雪が圧縮されてできた、厚い氷の層(氷床)に覆われています。生息する動植物が少なく空気も澄んでいるため、環境問題や気象についての観測や研究に好適で、現在は世界中の多くの国々が南極大陸や周辺の島に基地を置いています。

研究員などが基地に居住するために必要な物資の輸送には、従来、「宗谷」や「ふじ」のような南極観測船か、砕氷船に先導された貨物船などが使われてきました。スピードやコストの面では航空機輸送が望まれますが、荒れた氷上で離着陸できる航空機といえば、降着装置にスキーを付けた小型機に限られます。小型機は積載量が少なく、主たる補給線にはなり得なかったのです。

南極における観測・研究の意義と重要性が増す現代、安定的な基地の維持運営には、確かな補給ルートが文字通りの生命線です。「車輪脚の普通の飛行機が使えれば、もっと安全かつタイムリーに大量の物資が補給できるのに」。それは、南極に基地を持つすべての国々と、実際に基地で暮らすすべての人々の悲願。しかし南極に車輪型の航空機を離着陸させるには、氷の大地に完全平面の滑走路を建設しなくてはなりません。でも、どうやって?実現を阻むのは、極限の酷寒、南極横断山脈を吹き下ろす強風、変わりやすい天候、複雑に分布する地下の氷の密度……。

未知のブルーアイス領域へ、トプコンのソリューションが挑む

完全な平面を実現するには、まず完全な測量を行うことが不可欠です。氷上滑走路建設に向けて準備が始まったとき、プロジェクトを担当したAntarctic Logistics & Expeditions社は、南極の特殊な環境でもバグらず、高精度な結果を出す測量ソリューションを求めて、トプコンヨーロッパのGeoPositioning部門バイスプレジデントIan Stilgoe氏に協力を要請しました。

Stilgoe氏は、「氷上滑走路建設をめざすブルーアイス関連のプロジェクトにトプコンのテクノロジーが採用されたことは、トプコンとしても個人としても非常に嬉しく思いました。それは、未知の世界へ踏み出して弊社の製品を極限で実際にテストする、素晴らしいチャンスでした」と振り返ります。

※自然界でいう「ブルーアイス」とは、南極や氷河などにある、圧縮されて非常に硬くなった特殊な氷。空気やホコリなどの不純物を含まず、光が当たると青く見える。日本語では「蒼氷」とも。

氷上の測量では、「GNSS受信機HiPerHR」が活躍しました。GNSSとは「Global Navigation Satellite  System(全球測位衛星システム)」の頭文字を取ったもので、地球の軌道上に存在する人工測位衛星を使って高精度な位置情報を取得する技術。GNSSは現在世界6カ国が運用しており、日本の「QZSS準天頂衛星システム/みちびき」、欧州の「Galileo」、中国の「BeiDou/北斗」などがあります。カーナビゲーションや携帯電話の位置情報でおなじみの「GPS」もGNSSのひとつで、アメリカが運用しています。

人工測位衛星は現在、GPSやBeiDouが各約30機、みちびきが4機など、システムごとに信号の異なるものが混在し、地球軌道を周回しています。GNSSは、その4機以上から距離情報を得て自分の位置を割り出しますが、「HiPerHR」はすべての衛星とすべての信号に対応したフルスペック受信機で、より多くの衛星を利用できるため、非常に高精度な位置情報を算出できます。

「滑走路の建設予定地だけでなく周辺の山々を含む広大なエリアを効率よく調査するため、「HiPerHR」をスノーモービルに取り付けて、南極横断山地を縦走しました」と語るStilgoe氏。

「HiPerHR」のボディは堅牢なマグネシウム合金製で、防塵防水性能JIS保護等級IP67と、高い耐久性・耐環境性能を備えています。また、デジタル無線を内蔵したポータブル型の測量機でありながら、外部GNSSアンテナも接続でき、分離型受信機としても使用可能。筐体も中に秘めたテクノロジーも、南極の極限環境をも凌駕する高い能力が確認されました。

有機的に繋がるテクノロジーで、情報の精度と可能性を高める

Stilgoe氏は続けます。「氷上滑走路は、南極の中でも積雪が発生しない場所を特定して建設しなければなりません。また、南極の氷は雪が圧縮されてできているため多くの気泡が入っています。滑走路建設には、氷の密度を高めるための気泡を押し出す作業が必要で、それをどこで行うかの場所選びも重要です。一方、南極は広大な広さがあり目印とする目標物も乏しいため、正確な位置情報を取りながら各地点の状況をきめ細かく把握するのは、本来とても難しい作業です。しかし、「HiPerHR」とともに「トータルステーションGT」、「MAGNET」などのトプコン製品を投入したことで、全体が有機的に繋がりました」。

「また、スノーモービルに固定したフィールドコントローラーの背景にBingMapsを使用したのは、氷河上での自分たちの位置確認にとても役立ちました。南極では空気中の不純物が少なく視界が良すぎるため、山を測量すると実際よりもずっと近く感じてしまい、距離感や判断を誤りやすいからです」。

測量と同時に、ALE気象観測ステーションの設置も行いました。これで、今後12か月にわたって気象データの収集・分析・送信が行われます。そして十分なデータが揃ったところで、氷上滑走路の建設準備が始まります」。

トプコンのポジショニングテクノロジーは《南極から砂漠まで》

この氷上滑走路建設のための測量プロジェクトが行われたのは、南極の短い夏の季節。24時間太陽が照り続ける白夜の下、南極の氷の大地は、1,000〜2,000mの氷厚こそ変わらないまま、表面がわずかに溶け、あちこちに危険なクラックやパドルと呼ばれる水溜まりを生じていました。

「私たちが担ったのは、未知なる極限環境での大変な仕事でした。しかし、トプコンのテクノロジーが極限の気候の中でどのように作動するかを知ることができたのは、大きな収穫です。今回のプロジェクトに参加できたことを非常に誇りに感じています」と、Stilgoe氏。

トプコンは自社HPなどで、いくつかの自社製品を《南極から砂漠まで。あらゆる環境下で、広大な地形をミリ単位で精密に測定》と紹介しています。その「南極」が、今回の氷上滑走路建設プロジェクトでした。では、「砂漠」は?「砂漠」も、もっと言えば「宇宙」も、このシリーズのどこかで登場します。どうぞ見つけて、ご一読くださいね。

※Stilgoe氏の南極での活動内容の全貌と貴重な写真の数々は、彼の個人ブログ「Topconlife」で詳しくご覧いただけます。