2022-11-10

コレクターも存在!芸術的な大工道具「墨壺」とは?

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「弘法筆を選ばず」ということわざがあります。弘法大師(空海)が書の名人であったことから、一流であれば、どんな道具を使っても素晴らしい結果を収められるたとえで使われます。しかし、これは自分の不出来を道具のせいにしてはいけないと戒めることわざであって、決して「一流は道具を選ばない」という意味ではありません。     

実際、弘法大師は高級な筆を使っていたことが歴史的資料で分かっています。特に、自分で道具を作ることができるなら、優れた職人ほど道具へのこだわりは強くなるでしょう。大工道具でいえば「墨壺(すみつぼ)」がそのひとつ。1300年以上もの長い歴史がある道具でありながら、大量生産が始まったのはほんの150年ほど前から。それ以前は、大工自身の手によってのみ作られていました。そのため現存している個人製作の墨壺の数は圧倒的に少なくとても貴重でコレクターもいるほどです。     

 

しかし、DIYなどで実際に触れたことがなければ、墨壺の存在を知らない人は多いかもしれません。墨壺とはどういう道具なのか、どんな歴史があるのかを紐解いていきます。

墨壺なら長い距離でも直線が引ける

 

墨壺とは直線を引く際に用いる大工道具です。糸を巻きつけた車(糸車)と、墨汁を含ませた綿(池)が備わっていて、糸の先端には小さな錐(きり)、すなわち軽子(かるこ)が付いています。巻き尺を使ったことがある人は多いと思いますが、仕組みはそれと少し似ています。巻き尺は、目盛りが記された布や金属製のテープが容器の中に巻き込んであり、先端が中に入り込まないように加工されています。墨壺では、テープの部分が糸、加工されている先端が軽子です。巻き尺と同じように、自動で糸が容器に収まるものもあれば、手で巻いて収めるものもあります。     

 

 

大きく異なる点は、墨壺の容器は細長く、糸車と軽子までの距離が離れていて、間に池があること。墨綿のある池の中を糸が通過してから引き出されるため、糸に墨が付くのです。この糸を2人がかりで床や壁、材木の上にピンと張り、持ち上げて離すと黒い直線を引くことができます。この作業を建築用語では「墨を打つ」と表現します。直線を引くなら定規を当てる方法が一般的ですが、それでは1回に定規の長さ分、せいぜい1メートル程度までしか引けません。墨壺なら、数メートルに及んでも、床に凹凸があっても直線を引くことが可能なのです。

墨壺は縁の下で活躍する最たる道具

 

それでは、どういう場面で墨壺が使われるのでしょうか。最も多く活躍する場面が建築工事の墨出し作業です。墨出しとは、建築現場で設計図を実寸で起こす作業のこと。地面や床に墨を打つだけでなく、壁にも床から水平あるいは縦に墨を打ちます。     

     

墨出しは着工から竣工までのあらゆる工程で行われ、このときの線や印を基準に作業が進められていきます。墨を砂利の上に打たなければいけない場合は、砂利が動く可能性があるため、コンクリートで下地を固めてから墨出しを行います。墨出しで使用する墨、つまり墨壺の墨綿に含ませる墨汁は、習字で用いられるものとは異なり、雨などで濡れても消えない建築用のものが使われます。

 

墨出しは、誤って打ってしまうと欠陥建築の原因にもなりかねないとても重要な作業です。しかし、墨出しの痕跡は、建築が進むと壁や床材などで隠され、一般の目に触れられることはありません。まさに縁の下の力持ちといえる作業に墨壺が活躍しているのです。

 

1300年以上もの間伝統的な構造を踏襲

 

墨壺がいつから大工道具として用いられるようになったかは定かではありません。607年に建立された世界最古の木造建築物である法隆寺に墨壺が使われた形跡があるため、少なくとも1400年以上前には墨壺が存在していたことが推測されます。しかし、現存している最古の墨壺は正倉院に納められている8世紀のもの。以降1300年以上の間、墨壺は後部が割れているもの(尻割れ型)、四角張ったもの、しゃもじや動物の形をしたものなど、全体の形状は異なるものの、糸車や池があるという基本的な構造は変わっていません。どの時代でも、木製で墨綿を置く池部と糸を収納していく車部という性質の異なる仕組みをひとつの木材に盛り込み、自身の手に馴染んで使いやすい墨壺を大工各々が作りました。     

     

幾何学模様や鶴、亀などの装飾を施す大工も大勢いたようですから、ちょっとした墨壺自慢対決なるものがあったかもしれません。明治時代に入ると、墨壺づくりを専門とする職人が現れ、市販品が出回るようになりましたが、それでもしばらくの間は手製の墨壺を使う人のほうが多かったといわれています。まさに当時の墨壺は大半が一点モノ。コレクターが現れるのも合点がいきます。やがて墨壺の素材が、木材からプラスチックに変わっても基本的な構造は踏襲されていました。現在最も市販で出回っている墨壺が現れたのは1980年頃。なんと、つい最近まで古来の伝統の形が守られていたとは感慨深いものがあります。

 

トプコンが墨出し作業をサポート

 

トプコンでは、墨出し作業効率を圧倒的に向上する高精度位置出し機『楽位置』(らくいち)と位置出し誘導アプリケーション『楽墨』(らくずみ)、座標抽出アプリケーション『楽座』(らくざ)による「ワンマン位置出しシステム」を発売しています。

墨出しを行うためには、従来曲尺や下げ振りなどのアナログな道具を用いて、距離や水平を測る必要がありました。また、墨壺による墨出しは、通常2人がかりで糸を張って行うもので、正確に引ける直線は数メートルほど。ワンマン位置出しシステムなら、基準となる2ヵ所を指定するだけで、出したいポイントまで自動で誘導します。出せる距離も、器械を中心とした直径100メートルの範囲まで。施工効率を3〜4倍アップさせ、墨壺とともに、あらゆる工事に重要な墨出し作業を陰から支えています。

スマホで操作できるため、測量に不慣れでもOK。3次元設計データをダイレクトに活用することで、誰でもひとりで簡単に位置出しが行える。超小型の360°プリズム「キャンディーミラー」の採用で、片手で手軽に移動できるのも魅力です。

「楽位置」紹介ページ

「楽墨」紹介ページ

「楽座」紹介ページ