2024-02-20

エッフェル塔は20年で解体される予定だった!

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2024年の今年、オリンピックが再びパリの地で開催されます。五輪史上最もサステナブルの大会を目指し、観客の移動は公共交通機関、自転車、歩行者のみに制限するそうです。そのため、主な競技はパリ中心部で開催され、パリの歴史的文化遺産も会場として使用されます。パリの観光名所であるエッフェル塔の隣にもスタジアムが建設され、ビーチバレーやブラインドサッカーなどの競技が開催される予定です。

 

パリオリンピックは、フランスで前回開催された夏季オリンピックから100周年という節目に開催されますが、エッフェル塔もまた、フランス革命から100年を記念して建設されました。それまで世界一だった高層建造物の記録を大幅に更新し、パリの空に新たなシンボルとしてそびえ立ったのです。どのような技術が使われ、その後の建設業界にどのような影響を与えたのでしょうか。その変遷をたどります。

エッフェル塔が建設された歴史的背景

エッフェル塔は、1889年のパリ万国博覧会(パリ万博)のモニュメントとして建設されました。この年は、フランス革命から100周年を記念する重要な節目であり、パリ万博は、その祝典の一貫として、また1871年の普仏戦争敗戦からの国の復興を象徴するものとしての意味合いも含まれていました。そのため、目玉となるモニュメントの建設は、フランスの技術と美的センスを世界に示す大きな役割を持っていたのです。

 

建設にあたってはコンペティションが開催され、それを勝ち取ったのが、アレクサンドル・ギュスターヴ・エッフェルの設計でした。エッフェル塔は、設計者であるエッフェルの名前にちなんで名付けられたのです。その頃世界では、各国で高層建築物が建造され、その高さ競争が繰り広げられていました。当時最も高い建造物は、1884年にアメリカ合衆国ワシントンD.Cに建てられた高さ169mのワシントン記念塔でしたが、エッフェルの設計は、その高さを大きく上回る約300mもの高さを誇る鉄塔でした。その斬新な提案は、満場一致で採用されたのです。

高層記録を大幅に更新した理由とは?

エッフェル塔が建設されるまで、世界の建造物は石や煉瓦造が主流で、高層化するほど、その重みに耐えるため下層部分の壁を厚くする必要がありました。しかし、下層部の壁が厚くなり過ぎると、部屋として利用する空間が狭くなるため、高層化には限界があります。たとえば、エッフェル塔と同年に建設されたイタリア・トリノのモーレ・アントネッリアーナは、煉瓦造だったため高さは167.5mが限界でした。エッフェル塔を提案したギュスターヴ・エッフェルは、建築家ではなく土木技師であったため、鉄骨を使用した鉄橋の建設に多く携わっていました。また、1886年に竣工したアメリカの自由の女神像の内部を支える鉄骨の設計にも関わっています。彼はこの経験を活かし、軽量で圧縮や引張に強い鉄材を用いることで、圧倒的な高さを誇る鉄塔の建設を実現させたのです。また、塔には水圧式エレベーターが設置され、57.6mと115.7mの高さに展望台が設けられ、パリの景観を一望できるようになりました。

20年で解体される危機を脱出!

エッフェル塔が計画された当初は、パリの伝統的な石造りの景観にそぐわないとして、多くの猛反対意見に直面しました。新聞には、著名な建築家や小説家、芸術家たちからの反対声明も発表され、地元住民からも、鉄塔が倒れてしまわないかという不安の声が上がりました。実業之日本社「費用・技術から読み解く 巨大建造物の世界史」によると、塔の総工費は基礎工事を含め約780万フランにも上り、これは当時の一般市民の年間家賃約300〜500フランと比較すると、約2万年分にもなる非常に高額なものでした。全国賃貸管理ビジネス協会が発表する「全国家賃動向 2024年1月調査」では、東京都の総平均家賃が約7万6,000円であることから、現在の東京都で建設したと仮定すると約182億円となります。しかし、その工費は、エッフェル塔が開業した年に観光客による入場料で657万フラン以上を回収し、1905年までの総収益は1億495万フランを超える大成功を収めました。景観を害するといわれたその外観も、「鉄の貴婦人」と称賛され、トーマス・エジソンからも高く評価されました。

※フランは2022年にユーロが導入されるまでは、フランスの法定通貨でした。

本来、エッフェル塔は元々パリ万博のために建てられたものだったため、20年後の1909年には解体される予定でしたが、ギュスターヴ・エッフェルは、観光目的だけでない塔の活用法を次々に考えます。頂上に気象観測所が置かれたり、空気力学の研究に役立てられたりしたほか、1904年には無線電信局が設置され、第一次世界大戦では軍事通信に利用されています。その後も電波塔や広告塔としての役割も果たし、2015年には風力発電の施設も設置されるなど、エッフェル塔は時代とともに進化し続け、パリの象徴としてその地位を不動のものにしています。

工期の画期的な短縮も実現

エッフェル塔の建設は、工期の面でも画期的でした。建設は順調に進められ、部品は工場で精密に製造された後、現地で組み立てられ、着工からたったの2年2ヶ月で完成しました。このプレハブ工法は、現代建築における標準的な手法への先駆けとなりました。当時の技術でこれを実現した精度と速度は、今日でも称賛されるべき偉業です。また、建設には高所作業のための足場など、多くの特別な機器が用いられました。安全管理にも注力し、死者を出すことなくプロジェクトを完遂したことは、労働者の安全を最優先した建設管理の礎となりました。

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(参考文献)

・講談社現代新書「高層建築物の世界史」

・実業之日本社「費用・技術から読み解く巨大建造物の世界史」

全国賃貸管理ビジネス協会「全国家賃動向」