2022-11-01

テキサス・レンジャーズ新本拠地とトプコン ── 遠隔監視でスタジアム建設の安全をサポート

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野球ファン、特にMLB(米国 メジャーリーグベースボール)のファンの方なら、試合中の7回表終了時にスタンドの観客が大合唱する「Take Me Out to the Ball Game」(邦題: 私を野球に連れてって)という歌をご存じでしょう。

歌詞の冒頭は「私を野球に連れてって。大観衆の中へ連れてって。そして私にピーナッツとキャラメルポップコーンを買ってね」という若い女性の可愛いお願い。作られたのは100年以上も前ですが、スタジアムで野球を観戦する楽しさとワクワク感を絶妙に表現した名曲として今も親しまれています。

今回のお話の舞台は、テキサス州アーリントンで2020年に完成した、テキサス・レンジャーズの新本拠地球場「グローブライフ・フィールド」です。実はココにも、トプコンのソリューションが大きな足跡を残していたのです。

日本人メジャーリーガーも熱風を浴びた、灼熱スタジアム

かつて上原浩治選手やダルビッシュ有選手も所属した、アメリカンリーグ西地区所属の人気球団「テキサス・レンジャース」。1994年から本拠地としていたテキサス州アーリントンの「グローブライフ・パーク・イン・アーリントン」は、古き良き時代を彷彿とさせる煉瓦作りの外観が人気でした。1995年にはドジャースの野茂英雄選手が日本人初のオールスター戦に出場・好投するなど、日米野球ファンの記憶に残る球場でもあります。しかし屋根のない構造のため、デーゲームではテキサスの灼熱の陽射しと熱風が容赦なく選手と観客を襲います。さらに観客席の安全性にも問題が指摘されていました。

2016年、球団と地元アーリントン市の官民パートナーシップのもと、現行の本拠地スタジアムのすぐ南側に、新球場を建設する計画が発表されます。球団側は当初「2021年までにオープンさせたい」としていましたが、後にこれを「2020年完成」と繰り上げ。2017年9月に建設は着工しました。

工事中のグローブライフ・フィールド

強い屋根を作るために、トプコンはまず地中を制する

このとき大きな注目を集めたのが「新スタジアムには開閉式ルーフを設置する」という発表でした。「灼熱地獄」とまで評された暑さ対策として、エアーコンディショニングとそれを可能にする屋根に、もはや異論の余地はありません。しかしルーフを設ければ、建物はそれだけ重量が増し、躯体全体や基礎部分に要求される強度が上がります。快適性を高めた新スタジアムの建設には、まずしっかりとした地下外壁工事に着手する必要があったのです。

巨大で頑健なスタジアムを支えるには、まず地下深く掘削し、地下水や土圧にも耐える堅牢な地下外壁を設置しなければなりません。しかし地質や地下水の状態は複雑に分布・拡散しており、そのうえ常に変化していて一定ではないのです。掘削中や地下外壁建造中に地中の状態が急変すれば、思わぬ大事故に繋がる恐れもあります。工事中は、見えない地中の変位計測を常に続ける必要があり、従来はそのために多くの人員と時間を要していました。

とはいえ、グラウンド総面積が約12,000㎡もある巨大スタジアム建設で、人員を密に配置して常時計測作業を続けるのは、コストだけでなく安全管理の面からも現実的ではありません。何か良い解決策はないものか……。

このとき登場した助っ人ソリューションが、日本に生まれ日本が誇る、トプコンの「Measuring Station  MS05AXⅡ」だったのです。

わずか3台で球場全体から、地中まで計測が出来る
「Measuring Station  MS05AXⅡ」

摂氏50℃の環境にも耐える、タフな無人監視システム

MSシリーズは、設計・製造・アフターサービスまでのすべてを日本国内で行う、超高精度測定用モニタリングシステム。初号機は2010年(平成22年)に誕生、この製品は後継機として2014年(平成26年)に生まれました。コンパクトな筐体に機能的にまとめられたユーザーインターフェイスも自慢で、2019年には「グッドデザイン賞」を受賞。数々のインフラ設備や工事現場で活躍してきた名プレーヤーです。

灼熱のテキサスでも、トプコン製品は何のトラブルも起こさなかった

レンジャーズの新スタジアム建設には、MS が3台投入されました。計測現場を無人化しても遠隔操作で24時間自動監視でき、その情報はオンラインで結ばれた現場事務所と本社事務所が共有可能。自動アラームも設定でき、地中のわずかな変化も見逃さずに工事の安全をサポートします。

また、保護等級IP65に準拠するクラス最高水準の防塵・防水性能と、氷点下20℃から摂氏50℃の環境まで対応可能なタフさもこの機器の強力な武器。灼熱のテキサスをものともせず、工事作業の守護神を務めました。

そして2020年3月。テキサス・レンジャーズの新本拠地球場 「グローブライフ・フィールド」がオープンしました。総工費は10億ドル(日本円で約1,100億円)とも、12億ドル(約1,315億円)とも言われています。当初は3月に大谷翔平選手を擁するロサンゼルス・エンゼルスとの開場試合が予定されていましたが、新型コロナウイルス感染症のため残念ながら延期。その後も開幕当初は観客を入れての試合が叶いませんでしたが、10月には有観客でのワールドシリーズが開催されました。

スタジアムに「私を野球に連れてって」が響く日を願って

MLBの30球団はそれぞれに、個性豊かなフィールドやアトラクションが自慢の本拠地球場を持ち、野球そのものを楽しむ人にも、スタジアムの雰囲気を楽しみたい人にも、特別な時間と足を運びたくなる理由を提供しています。MLBが、地元ファンのみならず世界中から観客を集めている秘密。それは世界最高峰の選手たちによる豪快なプレーだけでなく、スタジアムの空間全体に溢れる、スケール感やエンターテインメント性にあるのかもしれません。

テキサス・レンジャーズの新本拠地球場 「グローブライフ・フィールド」は、開閉式ルーフを設置したことで、野球だけでなくコンサートやさまざまな催しなど、多種多様なイベント会場としての活用が期待されています。また新球場の隣には2019年までの本拠地球場「グローブライフ・パーク・イン・アーリントン」も現存し、今後もフットボールなどのフィールドとして利用されます。

さらに、この2つのスタジアムのすぐ隣には、NFL(米国 ナショナル・フットボール・リーグ)「ダラス・カウボーイズ」の本拠地スタジアム「AT&Tスタジアム」もあります。テキサス州アーリントン地区は、スポーツ観戦の好きな人なら「もう移住したい!!」と思うほど、エキサイティングなエリアなのです。

ちなみに、「グローブライフ・フィールド」の設計を手がけた設計事務所HKSは、北海道日本ハムファイターズの新本拠地球場として2023年(令和5年)オープン予定の「北海道ボールパーク」の設計施工も担当しているそうです。

2020年の春以降、世界中の多くの人々が、子どもたちが、「連れてって」ほしい場所、「連れてって」あげたい場所を我慢しています。少しでも早く旅行・スポーツ・エンターテインメントの自由が私たちに戻ることを、再びみんなが大声で歌えることを、みなさんとともに、トプコンも心から願っています。

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