2023-08-29

あらゆる工事に必要な「墨出し」とは?

目次

「墨出し」とは、建築や土木工事を行う際に、施工図の情報を現場に記す作業のことをいいます。その名の通り、墨を使って線や寸法を書き出すことから名付けられました。「図面の情報を書き出す」というと、「建物を建てる前に設計図を原寸大で現場に写し出す」というイメージを思い浮かべるかもしれません。しかし実際には、敷地の測量から基礎工事、躯体工事、仕上げ工事、そして配管や電気工事に至るまで、工事の着工から竣工までのあらゆる工程で墨出しは行われています。このような墨出し作業は、具体的にどのように実施され、工事にどのような影響を及ぼすのでしょうか。詳しく見ていきましょう。

墨出しはどうして必要?

建設工事は、特定の材料を、施工図どおりの位置に運んで設置するという一連の作業の繰り返しです。しかし、一つの作業を行う度に測量して、施工図から正確な位置情報を抽出していては、工事の進捗に影響が出るばかりでなく、多くのスタッフが参加する工事現場で混乱を招きかねません。誰もがスムーズに作業を進めるためには、明確な基準を予め示しておくことが必要です。ここで重要となるのが墨出しです。

正確な測量に基づき、基準となる場所からどれくらいの距離、高さ、角度なのかを、線を引いたり寸法を表示したりして示すことで、図面どおりに施工が進むのです。墨出しは、すべての工事の指針となるものなので、誤って書かれてしまうと、修正作業が増え、工事の品質に影響を及ぼします。墨出しの精度が、工事の進行や完成度に直結するのです。

また、墨出しは工事の効率性にも深く関わります。墨出しが正確に施されていることで、あらゆるスタッフがどのように作業を進行すべきかを容易に理解し、作業の流れがスムーズになります。修正作業も少なくてすみ、工期の短縮にも寄与します。つまり、墨出しは、品質保持と効率向上の両面で工事を支える重要なプロセスといえるのです。

墨出しはあらゆる工事の最初に行われる

一般的な建築工事は、まず敷地測量から始まり、建物の土台をつくる基礎工事、柱・壁・床を組み立てる躯体工事、見た目や生活設備を整備する仕上げ工事を経て完成します。各段階は、さらに細分化されており、墨出しは、これらほぼ全ての工程で最初に行われます。

例えば、敷地測量では、隣の敷地との境界を明確にし、柱や壁などの中心線や水平線を指定するために、特定の位置に木杭を打ち、墨で印を付けます。基礎工事では、鉄筋やコンクリートを打ち込むための型枠を設定する基準線を示し、躯体工事では、各階ごとに基準となる墨を下階から移し、高さの基準も明確にします。そして、仕上げ工事で、窓やドアの位置、内装や外壁の配置を示す墨出しを行います。

このように、各工程の開始時に墨出しを行うことによって、工事に関わる全てのスタッフが、施工図の情報を正確に具現化することができるのです。

縁の下の力持ちゆえ? 墨出し作業は専門用語のオンパレード

墨出しは、一つの工事中に何度も行われるため、それぞれの状況に応じた専門用語が用いられて区別されています。資材を設置すると隠れて見えなくなる墨出しは、まさに建築施工での縁の下の力持ち。そのため専門用語まで一般に出回ることはあまりありません。ここでは、その一部を紹介しましょう。

・親墨(おやずみ):柱や壁の位置を示すために最初に書く墨のこと。施工図に書かれた柱や壁の中心を通る線(通り芯)を親墨とするのが一般的。
・子墨(こずみ):躯体工事や仕上げ工事で、親墨(おやずみ)を基準にして柱、壁、建具、金物などの位置を示す墨のこと。
・陸墨(ろくずみ):水平を表す墨のことで、作業現場の基準となる高さを示す。陸墨から上に記す墨を「上がり墨」、下の墨を「下がり墨」という。
・逃げ墨(にげずみ):障害物があって墨出しができない場合に、少し離れた場所に、その距離とともに記す印のこと。「寄り墨」または「返り墨」ともいい、ヨリ1000(1メートル)、500返り(50センチ)などの形で示される。

トプコンの「コンスト楽ション」で墨出しの作業効率アップ&人員削減が可能に!

墨出しの歴史は古く、古代エジプトや中国でも既に行われていたとされ、日本でも飛鳥時代に建てられた世界最古の木造建築、法隆寺にも墨出しを行った跡が見つかっています。墨出しは、建築物の完成度を左右するとても重要な作業なので、代々その技や道具を引き継いできた熟練の職人だけが、墨出しを行ってきました。しかし、近年人手不足が深刻化し、正確な墨出しを簡単に行う手段が、建築業界が求める大きな課題となっていました。

そこで、トプコンが開発したのが、高精度位置出し機『楽位置』(らくいち)と、スマートフォン用建築現場向けワンマン位置出し誘導アプリケーションソフトウエア『楽墨』(らくずみ)による「建築施工向けのワンマン位置出しシステム」です。一人で簡単に位置出しや検査を行えるので、作業者の人員削減と作業時間の短縮に大きく寄与します。

さらに、2021年12月には、スマートフォン用位置出し座標抽出アプリケーションソフトウエア『楽座』もリリース。『楽座』を利用することにより、事務所での事前準備作業が不要に。現場で急な作業の変更があった場合でも、手持ちのスマートフォンに図面を読み込んで、必要な位置情報をその場で抽出することができるため、作業の手戻りを大幅に削減することが可能です。

今後もトプコンは、建築施工現場が抱える技能者不足の課題解決に向け、建築施工の生産性向上に貢献していきます。

トプコンの建築向け高精度位置出しシステム