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建設業の人手不足対策!限られた人材で生産性を高める次世代の戦略とは

目次

建設業界は技能職が2004年から2023年の20年間で約91万人も減少するという深刻な人手不足に直面しています。この厳しい現実を打開するため、さまざまな対策が緊急の課題となっています。特に、建設業界では2024年4月から「働き方改革関連法」に基づき時間外労働上限規制がひとつの大きな転機となり、単に人材を補充するのではなく「より少ない人員でより高い価値を生み出す」持続可能なモデルへと舵を切っています。

今回は、建設業の人手不足対策の鍵となる「人材確保と育成」「労働環境の改善」「業務効率化による生産性向上」の三つの観点から、建設業界の持続可能な未来に向けた新たな道筋を探ります。

 

建設業の人手不足の現状

建設業の就業者数は、ピーク時の平成9年(1997年)が685万人なのに対し、令和7年(2025年)1月時点では477万人まで減少しており、この28年間で208万人もの減少となっています。

特に技能者の減少が顕著で、現場では深刻な人手不足が続いています。現在、建設業の技能者のうち、60歳以上の割合が約4分の1を占める一方で、29歳以下は全体の約12%にとどまっています。建設業が引き続き「地域の守り手」として役割を果たしていくためには、将来の建設業を支える担い手の確保が急務です。

厚生労働省では、特に若者や女性の建設業への入職や定着の促進などに重点を置きながら、担い手の処遇改善、働き方改革、生産性向上を一体的に進めることで、中長期的に人材確保・育成を図ることが重要とし、国土交通省と連携して施策を推進しています。

建設業界において人手不足が深刻化している原因は、主に以下の問題が挙げられます。

・高齢化の進行

・インフラ需要の高まり

・デジタル化や自動化の遅れ

・若者の建設業離れ

加えて、2024年4月からは時間外労働の上限規制が始まったことで、ますます人手不足への対応が一層急務となってます。

若者が建設業を敬遠する理由としては、企業と若手社員との認識のギャップにあるとの指摘もあります。若者の離職理由について深掘りした記事もありますので、興味のある方は以下をご覧ください。

 

若者の建設業離れは当たり前?離職の理由は企業と若手の認識ギャップにあった

 

対策1:人材確保と早期育成

若者が離職する理由を踏まえると、建設業の企業が取り組むべき最初のアプローチは、まず時代に即した意識改革によって、効率的な働き方へのアップデートを図ることです。

働き方改革関連法の猶予期間が終了した通称「2024年問題」により、建設業界の労働時間管理が厳格化されました。長時間労働の是正に向けた取り組みが不十分な企業には、最終的に罰則が科される可能性もあります。若者の離職を防ぐためには、企業は労働時間の適正な管理が不可欠です。ここで重要となるのが業務の効率化による労働時間の短縮です。結果として、若者が働きやすい環境づくりが進み、人材確保につながります。

また、建設業における人材教育や人材開発は、技術的なスキルやリーダーシップ能力育成にもつながる重要な取り組みです。

この対策の一環として、厚生労働省と国土交通省が連携し、「中小建設事業主等への支援」事業を実施しています。これは、離転職者、新卒者、学卒未就職者等を対象に、訓練カリキュラムの策定から、職業訓練の実施、訓練生募集など、就職支援をパッケージで業界団体が実施するものです。令和7年度はこの事業に4.9億円、また人材確保や人材開発の支援などに関し、建設事業主等に対する助成金として69億円の予算案が組まれています。

そのほか、建設機械等の運転技能に加え、パソコンスキル講習等と組み合わせた建設分野におけるハロートレーニング(職業訓練)の実施に1.3億円が充てられています。この取り組みには、ハロートレーニングや建設分野の職業訓練受講者に対するリーフレットを活用したCCUS(建設キャリアアップシステム)制度の周知も含まれています。

CCUSとは、建設技能者の資格や現場での就業履歴等を業界横断的に登録・蓄積し、技能・経験に応じた適切な処遇につなげることを目的とした取組です。この制度により、建設技能者の処遇改善を進めることで、若い世代の建設技能者がキャリアパスを描きやすくなります。建設技能者を雇用・育成する企業が伸びていける建設業を目指し、定着していくよう建設業団体と国土交通省が、官民一体となってCCUSの普及・利用促進に取り組んでいます。

 

対策2:労働環境の改善

建設業は、社会資本の整備を通じて国民生活に貢献するという重要な役割を担っています。一方で、他産業に比べ労働時間が長く、休日数が少ないことが課題となっています。労働者の健康確保やワークライフバランスの改善、そして将来の担い手を確保するためにも休日数の増加など、より働きやすい職場環境の早急な整備が求められています。

若手就業者の離職を防ぐためには、給与面の改善も重要な要素です。仕事内容や労力、そして能力や保有資格に賃金が見合っていないと感じる若手も少なくありません。納得感のある給与体系への見直しは差し迫った課題であり、長く働いてもらうためにも、モチベーションを高めるキャリアプランを明示する必要があります。

国土交通省が推進する、「建設業働き方改革加速化プログラム」では、こうした課題の解決に向けて、次のような働き方改革を強化する施策がまとめられています。

週休2日制導入

長時間労働の是正のための施策のひとつに挙げられるのが、「週休2日制の導入」です。国道交通省の調査によると、週休2日以上を実現している企業は全体で8.6%にとどまり、週休の平均日数が1日以下の企業も存在しています。国土交通省では、2024年4月からの時間外労働規制を適用に伴い、公共工事を中心に計画的な週休2日を推進しています。

適正な工期設定を推進する

国土交通省の調査では、工期日数が不足している現場は少なくありません。工期に余裕がない場合、作業員の早出や時間外労働、休日出勤が増え、長時間労働につながります。降雨・降雪・台風などの自然要因なども考慮し、不測の事態にも対応可能な適正な工期設定が求められます。

技能や経験にふさわしい処遇

技能や経験にふさわしい処遇や、給与が実現できる施策も重要です。国土交通省は、建設業者にCCUSへの加入を推進しています。CCUSでは、作業員の能力を客観的に評価することができるため、技能や経験に応じた適正な処遇の実現に役立ちます。

作業員の処遇や給与体系を改善し、働きやすい環境を整えることで満足度が向上すれば、離職率の低減や入職希望者の増加にもつながると期待されます。

対策3:業務の効率化による生産性向上

国土交通省は、2040年度までに建設現場での生産性を1.5倍向上させることを目指しています。これは将来的に現場の人員が約3割減少することを見据えた取り組みです。その一環として、同省では2024年4月に建設現場のオートメーション化を推進する「i-Construction 2.0」を策定しました。

「i-Construction 2.0」は、深刻化する人手不足に対応し、建設現場での働き方を抜本的に変革することを目的としています。省人化による生産性の向上に加え、作業環境の安全性向上、職場環境の整備と多様な働き手の確保、給与水準の底上げや休暇率向上を目標に掲げています。これらの目標は、日本の建設業界における人手不足の問題に対応し、持続可能なインフラ整備・維持管理を実現するために不可欠です。

「i-Construction 2.0」の特徴は、データ連携のオートメーション化、施工管理のオートメーション化といった施行プロセスの自動化を積極的に推進している点にあります。デジタル技術を活用することで、少人数でも安全かつ快適に働ける生産性の高い建設現場を目指し、業界のイメージ改善と若年層の確保もつながることが期待されます。

また、建築分野においてもBIM(Building Information Modeling)の導入が進められており、設計(バーチャル)と施工現場(リアル)を3次元データで連携させることで、デジタルツイン化による効率的な管理を目指しています。

トプコンが提供するICTソリューション

トプコンでは、3次元デジタル測量機やICT自動化施工システムをはじめとするソリューションで、設計と施工の工程をつなぎ、建設現場のDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進しています。

ICTとは「Information and Communication Technology(情報通信技術)」の略称で、建設業においてはITを活用した情報共有や伝達の手段を指します。例えば、図面や工数をスマートフォンやタブレットを使って共有したり、現場を遠隔地から監視できるよう、現場にカメラを設置したりする方法が考えられます。その他にも、資料や画像をデータ化してオンラインで共有する、ドローンを用いて測量するなど、多様な方法があります。

建設業にICTを取り入れることで、従来ならヒューマンエラーが起こりやすかった複雑な作業や、工数の多い業務の改善が可能になります。また、職人の高齢化と後継者不足といった課題に対しても、、ICTの活用により、熟練の技術と知識を持った職人にしかできなかった業務の機械化が進み、技術継承の支援につながります。

測量や設計などにICTを取り入れることで、ケアレスミスや誤差の発生を防ぎ、より正確な作業ができ施工の品質も向上します。

さらに、作業時間の短縮や業務プロセスの効率化も期待でき、労働者の負担を軽減や、「長時間労働が多い」という業界イメージの改善や新規雇用の促進にも効果が見込めます。

トプコンの事例

株式会社トプコンオプトネクサス(福島県田村市)の新工場建設において、建物の設計から施工、完成後の管理までを3Dのデジタルモデルで一元管理するBIM(Building Information Modeling)を用いて設計。このBIMモデルを基盤に、敷地測量や基礎工事など各工程においてデジタル施工技術を導入しました。その結果、現場作業の省力化や生産性の大幅な向上が確認され、BIMと現場の連携に向けた実践的な取り組みが進展しました。

また、トプコンの最新ICT機器を配備した世界4か国(日本・米国・イタリア・マレーシア)のトレーニンセンターを通じて、ICT施工による建設プロセス全体を体験・習得できる実践的な学習環境を提供、地域に根ざした人材育成を推進し、建設業界の技術力向上や都市インフラの整備に貢献しています。

特に日本では、4拠点(白河・関東・神戸・北九州)にトレーニングセンターを展開し、建設業や農業分野における人手不足という課題に対して、デジタル化や自動化を活用した生産性の向上と人材不足の解消に取り組んでいます。

 

参考

総務省統計局「労働力調査(基本集計) 2025年(令和7年)1月分結果」
https://www.stat.go.jp/data/roudou/sokuhou/tsuki/

東京労働局受給調整事業部「建設現場で必要な労働者派遣法の知識」
https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/var/rev0/0147/3765/20137383646.pdf