2023-09-12

日本のトンネル工事技術が世界トップレベルといわれる理由

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「トンネルを抜けるとそこは雪国だった」とは、川端康成『雪国』の有名な冒頭の一節です。実際、同じような経験をしたことがある人は多いかもしれません。高速道路を走行したり、新幹線に乗車したりしていると、何度も長いトンネルをくぐり、日本には本当に山が多いことを痛感します。しかし、これらのトンネルは、長い歴史のなかでは比較的新しいもので、日本初のトンネルは、1631年につくられた長さ300m程度の導水用トンネル「片倉隧道(ずいどう)」(長野県佐久市)とされています。

 

世界では紀元前2200年頃には既に、バビロンで交通用のトンネルがつくられたことを考えると、日本はかなりの遅れを取っていたことになります。それが現在では、日本のトンネル工事技術は世界トップレベルと評されるほどに成長しました。どうしてそのような飛躍が可能だったのでしょうか。その変遷を辿ってみましょう。

日本でトンネルが普及しなかった理由は?

日本の国土の約70%は山岳地帯です。人々が各地を行き来する際には、山を越える必要性があったことが容易に想像できます。しかし、日本では水を通したり採鉱したりするために山を掘ることがあっても、人が通るためにトンネルをつくることはありませんでした。日本には、古くから山岳信仰があり、山を貫通させてそこを通る行為には抵抗があったのです。そのため、日本ではトンネルではなく、峠を超えて移動する手段を用いていました。難所も多かったことでしょう。

 

例えば、大分県耶馬渓(やばけい)には、「青の洞門」と呼ばれるトンネルがあります。ここは、断崖絶壁の難所で命を落とす人が多かったことから、禅海和尚が1764年に完成させたトンネルです。約30年の歳月をかけて和尚自らノミだけで掘り続けたといわれています。山岳信仰を破ってでも人命を守りたいという和尚の強い信念が伺えます。

 

明治時代に入ると、日本における山岳信仰の影響力は次第に衰え、本格的に人々の通行を目的としたトンネルの建設が行われるようになりました。この時期に鉄道や自動車が普及し始めたことが大きなきっかけとなりました。

 

ちなみに「トンネル」という言葉は、フランス語で「樽」に由来し、あの福沢諭吉が初めて日本で紹介したといわれています。それまでは「隧道」という用語が使われていましたが、昭和40年頃、ほとんどが「トンネル」という語に統一されました。

道路のトンネルは日本列島より長い!?

日本の道路には全国に1万ヵ所以上ものトンネルがあります。それらのトンネルを1本につないだ総延長距離はなんと5000km以上! 日本列島の長さが約3300kmなので、日本列島よりも長いトンネルが掘られていることになります。さらに、鉄道用のトンネルはJRだけで3494ヵ所あり、総延長距離は(令和2年時点)2400km以上。道路用ほど長くはありませんが、単体で見ると鉄道用トンネルの最長が青函トンネルの約54kmに対し、道路用の最長は関越トンネルの11kmです。順位で見るとベスト20を鉄道用が独占しています。現在、リニア用に15kmを超えるトンネル工事が数多く進められていることから、今後さらに鉄道用のトンネルが上位を独占するでしょう。

 

道路と鉄道のトンネルの長さの違いには理由があります。道路は車が走るため、ある程度の坂道にも対応できますが、鉄道はそうはいきません。車が山上付近に短くつくることができるのに対し、鉄道の場合は、勾配をゆるくするために山の下部にトンネルを掘らなければならないことが多いのです。さらに、車は排気ガスを排出するため換気の観点からも短いほうが望ましいとされています。

トンネル工事の経験値が日本の技術力を押し上げた!

いずれにせよ、鉄道用と道路用のトンネルを合せると、日本列島を優に往復できる距離です。さらに地下鉄や下水用の水路なども合せると、初めて日本でトンネルがつくられてから約400年間で、相当な数と長さのトンネルを掘ってきたことになります。

 

日本が本格的にトンネルをつくり始めた頃は、トンネル先進国であったヨーロッパの技師に設計を頼っていました。日本人技師だけでトンネルを完成させたのは1880年で、山科〜大津間にある大阪山隧道(665m)です。続く1884年には、福井・滋賀県境に1352mの柳ヶ瀬隧道を完成させました。その後、日本はヨーロッパよりもはるかに多いトンネルをつくることで技術力を磨いてきました。日本は火山や断層破裂帯が多く、地質が非常に複雑で、掘った後に周りの地山が変形してきたり、湧水やガスが噴出してきたりと、工事を行う条件に恵まれているとはいえません。

 

土木工事には、理論よりも体験の蓄積が重視される「経験工学」という考え方があります。特にトンネル工事では顕著で、どのような工事のときには、どんなことが起きるのか、そのためにどのような技術を用いる必要があるのかという経験値を積み重ねてきました。約20年をかけて本州と北海道をつなげた「青函トンネル」は、世界トップクラスの技術が集結した事例です。また、異なる断面や大きさのトンネルをつなげる技術や、断面の大型化も日本が開拓してきました。空間的余裕のない新幹線の複線トンネルも、日本が世界に誇るべき技術が投入されています。

トンネルのつくり方には4つの工法がある

トンネル建設においては、岩盤などの固い地盤を掘る際に使われる「山岳工法」、軟弱な地盤をシールドマシンで掘り進める「シールド工法」、地表から掘削して構造物を埋設してから埋め戻す「開削工法」、海や川の底に溝を堀って、地上であらかじめ作っておいたトンネルを沈めて上部を埋め戻す「沈埋工法」の4つの主要な工法があります。できあがったトンネルを見ているだけでは、その差は分かりませんが、周りの環境や効率などを考え、最適に工法が採択されます。

高い技術をもとにつくられてきた、日本のトンネル。しかし2032年には、日本の道路トンネルの約半数が建設後50年を超えるという状況から、老朽化した部分のメンテナンスが続々と求められてくるという新たな問題が立ちはだかっています。これに対応するため、トプコンはi-constructionの普及を推進し、人材不足の解消や生産性の向上に寄与しています。

これからもトプコンでは、建設業界の課題を解決するために、新たな技術開発と既存技術の最適化に邁進してまいります。

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