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サラダに、スープに、添え野菜として。家庭の食卓によく並ぶブロッコリーは、実は農家にとっても”優等生”ということをご存知でしょうか。育てやすく価格も安定しているブロッコリーは、水稲の裏作(米の収穫後、次の米づくりまでの期間に栽培すること)にも導入しやすく、高収益化が図れると近年注目を浴びています。
導入が増える一因は、水稲栽培で使用している農機や農具をブロッコリー栽培にも活用できることから。秋冬の収穫であれば水稲の農閑期に栽培が行えるなど、冬場の水田を有効活用できる点も人気を後押ししています。しかし、一般的な農地ではなく水田で栽培すると、土を耕し、盛り上げて畝を作る適期が限られており、特に畝立ては技術が要求されるという難点も。そこで、各地では水田裏作でのブロッコリー栽培を行う際、農機を自動化するスマート農業化も進んでいす。今回は水田でのブロッコリー栽培におけるスマート農業との相性やその活用法についてご紹介します。
ブロッコリーの需要が拡大中。筋トレブームも追い風に
米の消費量が減少する一方で、野菜の需要は増加傾向にある日本の農業。米づくりの閑散期を有効活用して収益アップを図る一つの方策が、野菜を栽培する水田裏作です。裏作に向いた野菜といえば、これまでキャベツやニンジン、タマネギ、ジャガイモなどが中心でしたが、近年注目されているのがブロッコリーです。
農林水産省によると、ブロッコリーの2022年産の出荷量は15万7,100トン。2012年産が12万2,000トンと、10年前に比べて28%増。また、総務省の家計調査でもブロッコリーは2000年代に入ってから年々消費量が増え、2022年の1世帯当たりのブロッコリー購入量は4,850グラムと、2012年が3,761グラムだったのに比べて29%増と、消費も需要も急拡大しています。
では、なぜブロッコリーの人気が高まっているのでしょうか?国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)によると、緑黄色野菜人気の高まりや、サラダ・スープといったメニューが食卓に並ぶ機会が増えたことによる食の洋風化を挙げます。また、“筋トレにはブロッコリー”という昨今の風潮も大きな理由に。野菜の中でもブロッコリーは筋肉を育てるのに必要なタンパク質やビタミンB6などの栄養素が多く含まれているため、筋トレブームも追い風になり、消費量が伸びていると考えられます。
2026年には指定野菜に認定。今後ますます消費拡大に期待
日本の人口減少により多くの野菜の出荷量が減り続ける中、この10年で出荷量が3割ほど増加したブロッコリー。それをうけ、農林水産省は消費量が多く国民生活に重要な「指定野菜」にブロッコリーを追加し、2026年から適用すると発表しました。
現在、指定野菜はキャベツやダイコン、トマトなど14品目が指定されており、新規の追加は実に半世紀ぶり。ブロッコリーは現在、指定野菜に準じる35品目の「特定野菜」ですが、特定野菜から指定野菜へ格上げされる野菜もブロッコリーが初めてです。ブロッコリーの価格は比較的安定していますが、今後は指定野菜に認定されたことで安定的な生産を促すため、価格が著しく下がった場合に生産者に支払われる補助金が現在よりも手厚くなるともいわれています。
なぜ、ブロッコリーが水田農業に適しているのか?
今後ますますの需要拡大が期待できるブロッコリーですが、なぜ水田を利用した栽培においても有望品目の一つに選ばれているのでしょうか。一つ目の理由は、水稲栽培で使用している農機や農具の多くをブロッコリー栽培にも活用できることです。ブロッコリー用にわざわざ専用の農具を購入する必要が少ないため、導入の初期投資が抑えられるというのはかなりメリットが高いといえます。
そして、二つ目の理由が栽培時期と収穫時期。ブロッコリーを10~3月に収穫する秋冬どりにすれば、稲の収穫が終わり次第ブロッコリーを播種し、2月頃には収穫が可能に。ちょうど水稲の農閑期にあたる冬期をブロッコリーの労働時間にあてることができます。そして、三つ目が収益性の高さ。ブロッコリーは1年を通して安定した需要があり、価格も安定している収益性が高い作物であるため、農閑期の水田を有効活用できるだけでなく、収益アップも見込めるからです。
水田でのブロッコリー栽培の成功の鍵はスマート農業にアリ!
水田を活用したブロッコリー栽培の場合、課題となるのが排水対策と畝立てです。ブロッコリーをはじめ、多くの野菜は湿害に弱く、水田転作畑での野菜栽培は排水対策が必要不可欠。いかに水田の水を素早く排水するかが重要になり、特に排水の悪い水田は畝を高く立てる高畝栽培を行うのがポイントになってきます。
しかし、水田でのブロッコリー栽培は、米の収穫後から9月下旬までには圃場の準備から始まり、肥料散布、耕起(土を掘り起こし反転させる)、畝立て、定植までを素早く終わらせる必要があり、耕起・畝立ての作業適期が限られています。また、ブロッコリーは粘土の多い水田であれば定植前の耕起回数が多いほど生育量が高まるとの研究結果も出ています。そういった背景を踏まえると、ぜひ活用したいのがスマート農業です。
トラクターを使って耕起や畝立てを行う場合、時間がかかったり、畝が曲がってしまうと生産性の低下につながります。まっすぐきれいな畝立てを素早く実現させるには、従来なら農家の経験に基づく高い技術が必要でした。
GNSS(全球測位衛星システム)を利用した自動操舵システムを開発するトプコンは、すでに所有しているトラクターに後付けできる自動操舵システムを開発。高精度に位置を捕捉し、事前に設定したコース通りにトラクターを操作することができます。扱いに不慣れな操縦者であっても作業を効率よく、精度高く行えるようになります。
米の価格が低迷している今の時代、水田でのブロッコリー栽培の導入は収入増の一つの切り札になる可能性も。スマート農業も取り入れ、効率性もアップすれば、持続的な農業の実現に一歩近づくかもしれません。
トプコンは「農業の工場化」をコンセプトにDXソリューションを提供。スマート農業へチャレンジする農家の皆さんを応援しています。
〈参考資料〉