2023-06-07

土の中の微生物が今注目される地球規模的ワケとは

目次

肉眼では見えないほど小さな生物、微生物。見えないだけに謎多き存在なのですが、「私たちヒトは、微生物に支えられて生きている」と専門の研究者は語ります。微生物は、土の中にも当然に存在し、土壌の生成や生態系の維持に大きな役割を果たしており、農業をする上でも無視できない存在です。そんな土壌微生物が、昨今、いままでになく注目を集めていることをご存じでしょうか。それは、いったい、なぜでしょうか。

研究で解明されていることは、たった1%

「微生物」とは、肉眼で捉えることができない小さな生物の総称です。例えば、「細菌(バクテリア)」「カビ」「原生動物」「藻類」等。よく知られている細菌といえば、「乳酸菌」「納豆菌」「麹菌」「ピロリ菌」等々です。微生物は、私たちの手、口、鼻、目、皮膚にも潜んでおり、腸の中には100兆個が存在していると言われています。それらはバランスを取り合って、私たちの健康を支えてくれているのです。他の生き物にも存在し、空気中や、あらゆる環境の中にも息づいています。ただ存在するだけではなく、その場で増え続け、何らかの影響を与えているのです。

 

現在、地球上の微生物については、どの研究者もこう言います。「99%は謎」。なぜなら、人間が研究室で培養できるのは全体の1%に過ぎないからです。ただし、技術の進歩により、研究が進みつつあります。とはいえ、DNAを抽出して遺伝子(ゲノム)情報を解析するまでは可能となっているものの、姿や機能はわからず、ほとんどが明らかになっていないのが現状です。

 

大きくわかっていることは、私たちは、「微生物に支えられて生きている」「微生物に生かされている」、さらには「微生物に支配されている」と研究者が語りたくなるほど、切っても切れない深いつながりを持つ最も身近な生き物ということです。

注目されている一番の理由は、劣化

土の中の微生物「土壌微生物」の働きについても同じくほとんどが解明されていません。微生物全体がほとんど謎に包まれているように、土壌微生物についても1%程度しか分かっていないといわれています。そこで現在、世界中の土壌微生物の学者たちが競い合い、全容を解明しようと試みています。

 

土の中で、微生物が最も多いのは、地表から数十センチの「表土」と呼ばれる部分です。その土の1gの中には、細菌だけで、4000種類程度、数十億個が存在することが1990年代に入り判明しました。一般的な畑では1haあたり生体重量約6tが生息していると考えられています。

 

微生物が豊富な土は、健康な土ということもわかっています。ですが、第二次世界大戦以降、農薬や化学肥料を大量に使用してきたことによって、土壌が硬くなったり、連作障害の原因が増したりと、世界中で問題のある土が増えてきていることが判明しています。その他にも様々な要因が重なったことで、国連食糧農業機関(FAO)によると、地球にある土壌の33%以上がすでに劣化しており、2050年までに90%以上の土壌が劣化する可能性が訴えられているのです。

 

それゆえ、近年は、持続可能な農業を目指し、農薬や化学肥料の使用を避ける必要性が叫ばれています。そこで、注目されているのが、微生物なのです。進歩した技術で判明した微生物の働きを活かし、病虫害を抑え、健康な土を作ろうとする動きが盛んになりつつあります。

農作物を病害から守るには多様性が不可欠

土壌微生物の大きな役割は、分解です。土から生まれた植物や動物の排泄物や死骸等すべての有機物を、様々な微生物が入れ替わり立ち替わり分解し、植物が吸収できる無機物へ分解します。それらを吸収して育つもののひとつが農作物ですが、育ちが良くなる土の条件は「土壌中の生物多様性」にあると言われています。「土壌中の生物多様性」とは、「拮抗」と「共存」によって生じる種類と個体数のバランスがよい状態のこと。拮抗とは、スペースを取り合ったり、餌を奪いあったり、積極的な場合、抗生物質を出して相手を溶解したりすることです。このようにしてバランスを保ちながら農作物の周辺で生息することで、病原菌を入らせず、病害から守ってくれることが知られています。

 

微生物の多様性が高く、それぞれが活発に活動していると、酸素も水もよく通し、pHも最適な数値を保ちます。土はやわらかく、ふかふかで、植物は根を伸ばしやすくなるため、栄養分を吸収しやすくなります。つまり、土の機能を大いに発揮して、畑の場合では健康な農作物を育ててくれるのです。

 

土の多様性を高めるために必要なことは、微生物の餌となる有機物を適度に与えること。そのひとつが、堆肥です。米ぬか、稲わら、籾殻、鶏糞、牛糞、おかくず、酒粕、油かす等々の有機物を独自の配合で混ぜ合わせた良質とされる堆肥づくりは、農家の腕の見せどころとなっています。

 

微生物の研究者たちは、機能等が徐々に解明されるなか、微生物を使った農薬の開発等、有益な利用の研究もおこなっています。今後、膨大な微生物の謎のうち数%が解明されるだけでも進歩の障壁を突破すると言われており、「微生物」というワードが世の中を沸かせ動かすことは確実でしょう。

 

私たちは、かつて微生物だった

2020年、世界的科学誌が注目する大きな発見がありました。日本の研究グループが、12年もの歳月をかけ、水深2533mの泥からの培養を成功させ、私たちの先祖を辿っていくと、「アーキア」という微生物に行き着くことを解明したのです。(国立研究開発法人産業技術総合研究所プレスリリース:真核生物誕生の鍵を握る微生物「アーキア」の培養に成功

 

微生物は、動物や植物の祖先である多細胞生物が10億年前に生まれるまでの約30億年間、地球の主役でした。そして、私たちは、かつて微生物でした。微生物とは、深いところで繋がっていたのです。今、微生物のおかげで健康を保ち、私たちは生きています。微生物によって生かされているといっても過言ではないでしょう。

 

それならば、ギブアンドテイク。土が劣化しているのであれば、土の中の微生物が再び生きやすい環境を取り戻す手助けをする。それができたら、微生物も私たちも、正真正銘、共に地球を支え生きていることになるでしょう。土を耕し、土の健康を守ることは、実は私たちの健康を守ることにもつながっているのですね。

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