2023-04-03

「水の世紀」に考える。水を巡って争わないための農業と生活

目次

21世紀は、「水の世紀」と呼ばれています。地球にある水との付き合い方を世界中の皆で考えなくてはいけない100年と問題提起されています。というのも、近い将来、水が不足し、水を巡る争いが激化すると予測されているからなのです。水は資源であり、生活に不可欠です。食料を生み出す農業にも欠かせません。では、なぜ水は不足するのでしょうか。同時にこの問題を解決するために、私たちが出来ることはあるのでしょうか。

 

地球規模での問題が水不足と関係

「20世紀は石油を巡って争う世紀だったが、21世紀は水で争うことになる」。1995年、世界銀行の環境担当副総裁だったイスマイル・セラゲルディン氏が警告しました。21世紀が「水の世紀」と呼ばれるようになった発端は、この発言といわれています。その発言から約30年が経とうとする現在、指摘された通り、水のある国と無い国が明白となり、水を巡る争いが深刻な問題になってきました。

 

現段階では、世界で12億人が安全な水を飲めなくなっていると算出されています。そのうちの90%以上は途上国。WMO(世界気象機関)は、2021年の予測として、2050年までに、世界の2人に1人が水不足の状態に陥ると公表しています。

 

水不足の原因は、二つあります。一つは、地球温暖化による気候変動です。2022年は、世界各地が干ばつに見舞われました。ヨーロッパでは、記録的な熱波の影響で、ドナウ川、ライン川の水位が「過去500年で最悪」と嘆かれるほど大幅に低下。中国最長の川、長江の水位も異常な高温と雨不足により最悪の状況に。アメリカでも、西部で起きた少雨の影響による干ばつ被害が過去1200年で最悪レベルとの報道がありました。

 

原因のもう一つは、人口増加です。国連は、2022年11月、世界の人口が80億人に達したと発表しました。今後、増加を続けると2050年の世界人口は97億人を突破すると予想されています。当然、人口が増加すれば、水の使用量は増えます。水不足の問題がこのまま解消されない場合、水を巡る争いは必至の事態です。

たった0.01%の水の大半が農業用水

そもそも地球は、水の惑星です。豊かな水があるのでは? と、疑問を持つ人も多いでしょう。もちろん「水」そのものは豊富です。けれども、私たちが利用できる量は、実のところ、0.01%に過ぎません。地球の水の大部分は海水であり、淡水は、わずか2.5%。この淡水の70%は氷や氷河であるため、地下水や河川、湖沼等に存在する淡水の量は、地球全体の水の0.8%。その大半が地下800mよりも深い地層にある地下水で、私たちが利用できる水は本当に限られているのです。地球の水が1.5リットルのペットボトル1本分だとすると、人間が使える水の量は、目薬1滴分と例えられているほどです。

 

水の使用目的を見ると、人類の生活に使用される生活用水、食料生産に使用される農業用水、工業生産に使用される工業用水が主にあげられます。この中で、使用量が最も多いのは、世界中で、いつの時代も、農業用水です。その割合は、全体の約70%になります。

 

では、農作物を生産するのに必要な水の量は、いったいどれほどなのでしょうか。例えば、日本で1kgの米を生産するためには、その3600倍の3.6トンの水が必要と算定されています。ごはん茶碗1杯(75g)の場合は、277.5ℓで、500mlℓのペットボトル555本分が必要です。大豆は、2500倍、小麦は、2000倍、とうもろこしは、1800倍。ちなみに、牛は、とうもろこし等の穀物で育つため、飲み水と合わせると、肉を生産するには、その20000倍もの水が必要とのこと。

 

食料を輸入している国で、もし輸入している食料を生産するとしたら、どの程度の水が必要かを推定する水のことを「バーチャルウォーター」(間接水)と呼びます。日頃の食事で口にする農作物が、どれほどの水を使用しているか。環境省のサイトにある「バーチャルウォーター量自動計算」で算出することができます。一度、確かめてみてはいかがでしょうか。

バーチャルウォーター量自動計算

日本は世界の水不足の影響を受ける!?

世界に目を向けると、水不足の問題は顕著ですが、日本に住んでいると水不足とは縁遠いと感じる人が多いかもしれません。日本は、多雨な国です。1年間に世界平均の2倍もの雨が降ります。ですが、人口一人当たり年平均降水総量は、世界的にみると少ないとのこと。それなのに、日本の水の使用量は、世界7位。その結果、1人あたりの水資源の量は世界平均の半分以下に過ぎません。最近では、豪雨が多いものの、全体的には少雨の年が増えています。また、都市化により、森林、水田、ため池等が減ったことで、雨や雪は保持されにくく、海へとすぐさま流出する量が増えていくばかりです。もし今以上に、雨量が少なくなり、水の使用量が増加すると、将来の水不足は避けられないといえます。

 

カロリーベースの食料自給率が約40%と低く、小麦、大豆、とうもろこし、肉等の多くを輸入に頼る日本では、大量のバーチャルウォーターを輸入していることになります。つまり、他国の水資源を利用することで食料を得ているのです。バーチャルウォーターの年間輸入量は、640億m3。国内で1年間に使用する水の量の80%に相当する量です。それゆえ、世界の水不足の影響を受ける可能性は十分にあります。

人類の叡知が水不足を解決か

今後、私たちが生活する上で行いたいことは、一旦立ち止まって地球の水事情を正確に把握することです。それとともに、今すぐに実践できる対策といえば、水を出しっぱなしにしないこと。つまり、節水です。加えて、気候変動をもたらす地球温暖化は、人間の活動が生み出した二酸化炭素を主とする温室効果ガスが原因です。それならばどうすれば良いかを考え、活動を一変させなければならないことは誰もが知る事実といえます。

 

農業用水については、様々な開発が今以上に求められることになります。例えば、水を無駄なく使用できるシステムや製品の開発です。トプコンの製品では、広範囲の生育状況を非接触で計測する「レーザー式生育センサー CropSpec」を活用することで、生育状況に合わせた水やりの最適化を実現できます。

 

農業や水環境等の専門家によって最も必要性が叫ばれているのは、水の利用を制御しながら作物を育てる灌漑農業です。安全な水が手に入りにくい国では、雨水を利用する天水農業が大部分を占めています。天水農業から灌漑農業へ、その土地に適した方法で大幅に切り替えられたら、世界全体の食料を安定的に確保できるといわれています。

 

その他、海水の淡水化、海水を使って耐塩性が強い作物(トマト、ジャガイモ、キャベツ、ブロッコリー、大麦等)を生産する農業技術の開発等、これらはすでに世界各地で進んでおり、いま現在、水を巡る紛争を起こさせないために人類が叡知を結集させているところなのです。これらのあらゆる対処法が国境を越え世界の隅々にまで行き渡り、水不足の問題を解決した暁には、21世紀が、水を巡る争いの世紀ではなく、水を巡る助け合いの世紀だったと、修正されるかもしれません。

レーザー式生育センサー CropSpec

トプコンが取り組むスマート農業についてはこちら