2023-03-10

生産者と消費者がダイレクトに支え合う「CSA」とは

目次

良質な食料の安定供給が求められている現在の日本。ですが、食料を生み出す農家は収入が安定しにくいことからも、新規就農者数が大きく増加せず、後継者不足が深刻な問題となっています。この課題を解決するために私たちが、消費者としてできることは、農業や農村をサポートすることといわれています。

 

これは、行政や農業団体だけに任せるだけではなく、より多くの人が関わる新たな連携によって農業を支え、ひいては日本全体の食を支えることが、結果的に自分自身の食の安心へつながるからです。そこで、最近、注目されはじめたのが、新しい連携の一つ、「CSA」。「Community Supported Agriculture」の略で、欧米を中心に広がっている農業生産システムです。日本では、農業の可能性を広げてくれると期待する声がようやく出はじめています。CSAとは、どういった内容で、どのような仕組みで成り立っているのでしょうか。

 

特徴は消費者による前払いシステム

 

CSAは、1986年のアメリカで、生産者と消費者が連携する活動として始まり、発展してきました。現在のアメリカでは、7000以上の農場でCSAが導入され、フランス、イタリア、スペイン、ポルトガル、ブラジル、中国、韓国等、約30ケ国以上へも広がりを見せています。CSAの正式名称である「Community Supported Agriculture」は、「地域支援型農業」と訳されますが、「Community」とは、既存の地域社会のことではありません。「農業には価値があり、農業を持続可能にする必要がある」といった考え方を共有できる生産者と消費者が、流通業者を介さず直接つながる団体と捉えるのが良いとされています。

 

一番の特徴は、消費者による前払いシステムです。消費者は、数ケ月あるいは一年といった期間、農場や都心部の拠点(カフェやマルシェ等)で定期的に受け取る農作物の代金を、契約時に前もって支払います。生産者は、その代金で種苗等を計画的に購入することができ、営農を安定させられるという仕組みです。

運営形態や実践方法に決まりはありません。様々な価値観に対応する多様なCSAが存在しています。運営形態は、一つの生産者と多くの消費者が協力して運営するところもあれば、複数の生産者がCSAを立ち上げるところ、消費者が運営し生産者に依頼するところ、運営会社が生産者と消費者を募集するところもあります。受け取り以外の交流、例えば、消費者による援農、農家が提供するイベント、直接話し合える意見交換会等々も盛んに行われ、お互いの理解を深めたり、関係性の維持を図ったりする仕組みが多く考えられています。

小規模有機農家へのメリット大

 

CSAが広がっている層は、有機栽培に価値を置く人たちです。日本の場合、高価になりがちな有機作物ですが、仲介業者を省くことで、消費者は新鮮で安心安全な作物をスーパーマーケット等より安価に、しかも定期的に入手可能となります。

 

有機栽培をする生産者は小規模事業者が多く、新規就農時は作物を上手く栽培できても、営業活動をする時間が持てなかったり、営業が上手くできなかったりするため、収入が安定しないことが多々あります。その場合、既存のCSAへ参加すれば、営業の負担が省け、栽培に集中することができるメリットがあります。

 

農業は、特に露地栽培では、天候の不順によって収穫量や価格が変動することから、生産者の収入を不安定にさせていますが、CSAは、確実に買い手があることで一年間の収入を見込め、安定した農業を可能にするのです。消費者にとっては、収穫物に加え、収穫不良のリスクもシェアすることになるものの、農作業をせずとも農業を支えているという実感は、こういう点から得られるといえます。

若手が社会を良くするためにCSAを活用

 

実は、CSAの源流は、日本の「産消提携(TEIKEI)」にあるといわれています。産消提携とは、生産者と消費者がつながり、顔と顔の見える関係の中で、農産物を直接取り引きすることです。日本に有機農業運動が広がる過程で、1970年代中頃に自然発生したとされています。その後、産消提携が大きく普及することはなかったものの、理念のみを受け継ぎ、時代に合わせて形を変え活動する団体が全国で展開されています。日本のCSAは、その一つともいえるかもしれません。

 

とはいえ、日本では1990年代にCSAがはじまったものの一向に普及しませんでした。ところが、近年、SDGsという世界規模で目指す目標が認知されるとともに、また、農業の後継者問題が深刻を増すなど、メディアで取り上げられる機会が増え、注目されはじめたのです。その大半は、若手農家や若手起業家による取り組みです。

 

例えば、神戸市西区の有機農家がグループを結成して生まれたCSA「BIO CREATORS」。有機野菜が当たり前に食卓へ並ぶ社会を目指し、CSAという野菜の買い方を提案することを主に、有機農業の発展と農業課題の解決のために、自分たちにできる範囲で取り組んでいます。

 

CSAのメリットを活かし、他の要素を掛け合わせる「CSA×○○」という新たな動きも出て来ました。ビジネスの力でバランスの取れた優しい世界を目指す株式会社4Natureが始めたCSA LOOP」は、「CSA×コンポスト」という仕組みです。消費者が定期的に野菜を受け取る際、野菜の栽培に使ってもらうため、家庭で出る生ごみを堆肥化させたコンポストを生産者へ渡すものです。コンポストがCSA野菜となり、CSA野菜がコンポストとなる。まさに循環。生産者と消費者の関係に加えて、目に見えるコンポストと野菜を通しても「つながり」を実感することができ、CSA単体よりも、支え合う関係が深まると考えられています。

 

日本の普及には支援組織の存在が必要

 

欧米では、現在、新型コロナウイルス感染症の拡大により、従来以上にCSAを盛り上げる動きが活発です。ロックダウンで飲食店が休業を余儀なくさせられ、同時に、生産者も大きな打撃を受けたことが影響しており、消費者が農家を支えたい気持ちがより強くなっているのです。

 

もともと欧米のCSA普及の背景には、CSA全体をサポートする組織の存在があります。CSA発祥の地であるアメリカには、代表的な支援組織の「非営利団体Just Food」があり、主な役割は、生産者と消費者へ向けた情報提供、両者の契約を促す仲介、CSAの認証です。

 

日本でも生産者を支えたい人が増えつつある中で、CSAが発展していくためには、CSA全体を支援し、生産者、消費者の両者へメリットを啓蒙していく組織の必要性があげられています。

 

トプコンは、新規就農者であっても熟練者と同じ精度で作業ができ、作業効率を上げられることを目指して、「農業の工場化」を掲げDXソリューションを提供しています。企業として、CSAの導入を希望する生産者の支えとなれる製品やソリューションに今後も取り組んでいきます。

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