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渋沢栄一が100年も前に実践した活動は、SDGsにつながっていた?

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2024年7月3日、日本の紙幣デザインが20年ぶりに刷新されました。新たな一万円札には、「近代日本経済の父」と称される渋沢栄一の肖像が描かれています。渋沢は生涯で約500の企業設立に関わり、日本の経済基盤を築き上げました。

しかし、渋沢の功績は経済発展だけにとどまりません。彼は常に公益の重要性を強調し、約600の社会活動にも従事しており、2度にわたるノーベル平和賞候補にもなりました。彼の功績は、現在の持続可能な開発目標(SDGs)に通じていることで再評価されています。

SDGsという言葉が生まれる前に、渋沢栄一はどのように持続可能な社会を目指して活動したのでしょうか。その取り組みを紹介します。

 

「論語と算盤」で示されている渋沢のSDGsの精神

渋沢栄一の代表作『論語と算盤』は、彼の講演記録を編集者の梶山彬が再構成したものです。この書物では、「論語」が道徳や倫理を、「算盤」がビジネスや実業を象徴しています。渋沢は、「正しい道理の富でなければその富は完全に永続することができない。従って、論語と算盤という懸け離れたものを一致させることが今日のきわめて大切な務である」と述べ、道徳と経済活動の調和を強調しました。「経営者一人が大富豪になっても、多くの人々が貧困に陥るようではその幸福は続かない」とも語っています。

渋沢は「近代日本資本主義の父」と呼ばれていますが、彼自身は「資本主義」という言葉は用いず、「合本主義」を唱えていました。渋沢栄一記念財団によると、「合本主義」とは「公益を追求するために最も適した人材と資本を集め、事業を推進する考え方」を指します。彼にとっての「富」とは「公益」であり、「社会貢献なくして利益追求なし」という理念を掲げ、ビジネスには道徳が不可欠であると説いたのです。

私財の多くを教育に費やす

渋沢栄一は、生涯を通して私財の多くを教育機関の発展に費やしました。彼は商業教育の基礎を固め、小学校教育や女子教育にも関心を寄せ、数多くの学校への寄付活動を行いました。商法講習所(現在の一橋大学)や日本女子大学校(現在の日本女子大学)の創設に関わり、当時は教育の対象に含まれていなかった商業従事者および女性の教育にも力を注ぎました。

 

彼は『論語と算盤』の中で、「女性にも男性と同じ国民としての才能や知恵、道徳を与え、ともに助け合っていかなければならない。そうすれば、今までは五千万の国民のうち二千五百万しか役に立たなかったのが、さらに二千五百万を活用できることになるではないか。これこそ、女性への教育を活発化させなければならない根源的な理屈なのだ」と語っています。

彼のこの取り組みは、SDGsの目標4(質の高い教育をみんなに)および目標5(ジェンダー平等を実現しよう)に通じる精神を示しています。

社会福祉事業やインフラ事業にも貢献

渋沢は、多くの慈善事業団体の設立や運営にも深く関わり、精力的に社会貢献活動を行いました。彼が関与した団体は387団体に上り、寄付金額は現在の価値に換算して約37億円にのぼると言われています。実業家を引退した後も、亡くなるまでその関与を止めることはありませんでした。

 

例えば、身寄りのいない子どもや老人、病気で生活の手段を失った人々を保護する養育院の院長となったのは渋沢が35歳の時です。以降、亡くなるまで60年近くもの間、院長を務め上げました。また、関東大震災後には復興支援の一環として同潤会の設立に関与し、被災者のための住宅提供や生活支援を行い、都市部の復興と福祉の向上に大きく貢献しました。

 

これらの活動は、SDGsの目標1(貧困をなくそう)、目標3(すべての人に健康と福祉を)、目標10(人や国の不平等をなくそう)に通じるものでした。さらに、SDGsの目標11(住み続けられるまちづくりを)にも大きく関わる、近代日本のインフラづくりを主導したのも彼でした。渋沢栄一のこれらの貢献は、現代の持続可能な社会づくりに向けた取り組みの先駆けであり、彼の功績がいかに重要であったかを示しています。

 

トプコンが取り組むSDGs

渋沢栄一の精神は現代の企業にも受け継がれ、今は社会の一員として企業が果たすべき責任(CSR)、社会とともに成長していくための持続的開発目標(SDGs)といった考え方を多くの企業が取り入れています。

 

トプコングループも、社会とともにあゆむ企業の一つ。2023年には、ビジネスにおける重要な社会課題を「6つのマテリアリティ」として特定しました。これに基づき、企業活動とSDGsの連動を明確にすることで企業価値向上に努めています。当社グループの経営理念である「医(ヘルスケア)・食(農業)・住(建設)」の社会的課題を解決し、世界の人々の豊かな生活を実現することで、SDGsの達成に貢献し、持続的に成長できる企業を目指します。

1 技術革新による独創的な製品の提供

「医・食・住」の分野において、技術の高精度化を通じた最先端かつ独創的な製品の提供により、最適化と省力化の実現を通じて、社会的課題を解決し、人々の豊かな暮らしに貢献します。

 

2 DXソリューションの推進と加速

IoTとネットワーク技術を駆使したDXソリューションにより、生産性の向上と業務効率化を促進し、新規事業の創出や革新的なサービスの提供を推進します。

 

3 人権の尊重

自社のみならずサプライチェーンにおける人権への深い理解を通じて、差別のない社会の実現に貢献します。

 

4 地域社会との共生

事業に関わる人々(ビジネスパートナー)とともに、事業活動を通じて地域社会の課題解決と発展に努めます。

 

5 地球環境への負荷低減

気候変動や水問題、資源循環への対応を促進し、ステークホルダーとともに社会全体の環境負荷低減に貢献し、持続可能な社会の実現を目指します。

 

6 個を尊重し共創する組織

多様な価値観を認め、すべての個人が互いに尊重し新たな価値を創造する組織文化を醸成します。

 

トプコンはこれからも、社会とともに持続的に成長してまいります。

 

(参考文献)

トプコン「トプコンのマテリアリティとSDGs目標」

国立印刷局「新しい日本銀行券特設サイト」

公益財団法人 渋沢栄一記念財団

角川ソフィア文庫「論語と算盤」

同友館『「論語と算盤」の経営』

NHK出版新書『渋沢栄一 「論語と算盤」の思想入門』

NHK出版『100分 de 名著 渋沢栄一 論語と算盤』