2024-03-12

日本で初めて月面着陸に成功した小型月着陸実証機「SLIM」とは?

目次

宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、2024 年 1 月 20 日午前 0 時 20 分(日本標準時)、小型月着陸実証機「SLIM (Smart Lander for Investigating Moon)」が、月面に着陸したことを発表しました。これにより、日本は月への軟着陸を成功させた世界で5番目の国となりました。着陸目標からわずか55メートル地点に着陸する「ピンポイント着陸」の達成は、世界初の快挙です。本記事では、人類の月面着陸の歴史と、SLIMがピンポイント着陸を成功させた技術について解説します。

旧ソ連とアメリカによる宇宙開発競争時代

世界で初めて人工物が月面に到達したのは1959年、旧ソ連の無人探査機「ルナ2号」です。この時は月面に衝突するという形での到着でしたが、7年後の1966年に「ルナ9号」が、初めて軟着陸に成功します。一方、人類が初めて月に降り立ったのは、1969年7月20日、アメリカの「アポロ11号」の着陸時です。当時、旧ソ連とアメリカは冷戦下にあり、熾烈な宇宙開発競争が繰り広げられていました。アメリカは、ジョン・F・ケネディ大統領の「人間を月に着陸させ、安全に地球に帰還させる」との演説を受け、「アポロ計画」をスタートさせました。そして「アポロ11号」に乗ったアームストロング船長ら乗組員が月面に着陸し、観測機器を設置後、無事地球に帰還したのです。その後もアポロ計画は合計6回の有人月面着陸を成功させました。アメリカは今でも人類を月面に着陸させた唯一の国です。

再燃する月探査の熱

アメリカと旧ソ連は、両国だけで20回近く月面着陸を成功させましたが、アメリカは1972年のアポロ17号、旧ソ連は1976年のルナ24号を最後に、月探査を一時中断しました。しかし、21世紀に入ってから月探査は世界的に再び盛り上がりを見せています。月面への軟着陸は高い技術が必要で、朝日新聞の調査によると、21世紀に入ってからの軟着陸成功率は40%にとどまっています。月には重力があるため機体が月面に引っ張られ、一度失敗すると着陸をやり直すことが難しいとされています。21世紀に入り、中国、イスラエル、インド、日本、ロシア、米国の計10機の探査機が着陸を試みましたが、成功したのは中国の3機とインドの1機のみです。2013年12月14日には中国の「嫦娥(じょうが)3号」が、37年ぶりに月面軟着陸に成功し、その後も3回連続して成功を収めています。2019年には、通信などの面で着陸難易度が高いといわれる月の裏側への着陸に成功し、翌2020年には、月の土を地球に持ち帰ることに成功しました。さらに中国は、今年中に嫦娥6号の打ち上げを計画しており、月の裏側からのサンプルを採取する予定です。また、2023年8月23日には、インドの無人月面探査機「チャンドラヤーン3号」が世界で初めて月の南極付近への着陸に成功しました。

日本の高い技術力を示した「SLIM」

このような中で、世界で5カ国目に月面着陸を成功させたのが、日本の小型月着陸実証機「SLIM」です。SLIMの大きな目的のひとつが、目標地点から誤差100m以内に着陸する高精度の「ピンポイント着陸」を実現することでした。従来の探査機は、目的地から数キロ以上離れた大雑把な範囲でしか着陸できませんでした。しかし、天体に関する知見が増え、探査すべき内容が具体的になってきている現代では、「降りやすいところに降りる」のではなく、「降りたいところに降りる」技術が、将来の太陽系科学探査において重要とされています。SLIMでは、カメラを月表面に向けて撮影した画像を、あらかじめ内蔵された月面の地図のデータと照合することで、自身の位置を高精度に測定して降下するという、非常に高い技術が用いられました。この成功は、宇宙開発への新たな一歩として、日本の宇宙技術の高さを世界に示すものとなりました。

 

トプコンでは、SLIMが着陸時に月面との正確な距離を測る光波センサー「レーザーレンジファインダー」の重要構成品であるレンズユニットを提供しました。1980年代から宇宙開発をサポートするトプコンが、SLIMのプロジェクト成功にわずかながら貢献できたことを誇りに思い、これからも尖った技術を磨いてまいります。

 

(参考文献)
一般社団法人 日本航空宇宙学会「小型月着陸実証機 Smart Lander for Investigating Moon (SLIM) の月面着陸に関する声明」

朝日新聞デジタル「月面着陸の成功率は40% 今なお難しい失敗の歴史、日本初なるか」

月探査情報ステーション「月探査年表」

中国国際放送局「中国 月面探査機「嫦娥6号」2024年頃に打ち上げへ」

・日本文芸社「眠れなくなるほど面白い 図解プレミアム 宇宙の話」

・ナツメ社「知れば知るほどロマンを感じる!宇宙の教科書」

トプコン「当社光学ユニットを搭載した小型月着陸実証機「SLIM」が月面着陸に成功」