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近年、日本国内で「インフラツーリズム」と呼ばれる観光スタイルが注目を集めています。インフラツーリズムとは、ダムや橋、トンネルといった社会インフラの土木建造物を観光目的で訪れることです。普段立ち入れない場所に入れる特別な体験ができる点が魅力で、インフラの役割や重要性に対する理解が深まり、災害対策の啓発にもつながります。また、インフラ施設を観光資源として活用することで、地域経済の活性化にも貢献しています。国土交通省でもインフラツーリズムを推進しており、2016年にポータルサイトを開設し、年間300〜400件にのぼる見学会の情報を提供しています。
そこで今回は、日本国内でおすすめのインフラツーリズムスポットを「ダム」「橋」「トンネル」の3つのカテゴリーに分けてご紹介します。

黒部ダム
ダム:雄大な景色が楽しめ初心者にもおすすめ
ダム観光は、インフラツーリズムの先駆けである「ダムツーリズム」として以前から人気を集めていました。国土交通省でも民間ツアー会社と連携してダム内の見学や周囲の観光を楽しめるダムツアーを実施しています。ダムに訪れるともらえる「ダムカード」には、ダムの写真や形式、貯水池の容量のほか、建設時の技術に関するちょっとマニアックな情報までが掲載されており、コレクターの間で人気が高まっています。ダムの多くは自然豊かな場所に位置しているため、ダムの機能美と大自然が調和した風景は、インフラツーリズム初心者にもおすすめの観光地として親しまれています。
秋から冬にかけては、紅葉や雪景色が加わり、幻想的な風景を楽しむことができます。ただし、冬季は積雪の影響で、一部のダムで見学が制限される場合があるため、事前の確認が推奨されます。たとえば、日本最高の堤高を誇る「黒部ダム」の観光シーズンは4月中旬〜11月末頃までで、観光放水は6月下旬から10月中旬頃までです。5月頃までは、ダムから残雪の立山連峰が望め、道路を除雪した際に現れる巨大な雪壁「雪の大谷」を巡るツアーも開催され、多くの観光客が訪れます。黒部渓谷の雄大な景観を楽しめるトロッコ電車も人気ですが、冬季は積雪のため運行休止となります。今シーズンは、2025年1月から2月の土・日曜と祝日に、黒部峡谷の「新山彦橋」までをトロッコ電車で行く冬季限定ツアーが開催され、車庫や黒部川電気記念館機関の見学も楽しめます。
橋梁:高所のスリルと大パノラマを楽しむ
ダムと同様に橋梁も、海や川、渓谷などの自然と調和する美しい光景を楽しめるスポットが多く、日本各地で見学ツアーが数多く開催されています。
本州と四国を結ぶ「瀬戸大橋」は、鉄道道路併用橋として世界最長クラスを誇り、日本の20世紀遺産としても知られる橋です。見学ツアーでは、通常は入れない橋台の内部や管理用通路を通り、塔頂部まで登ることができます。海面から約175mもの高さにある塔頂部から見渡せる360度のパノラマは圧巻で、瀬戸内海の美しい景観が広がります。高所でのスリルとともに、橋の構造や維持管理の工夫について学ぶことができ、まさにインフラツーリズムの醍醐味を味わえます。

瀬戸大橋
また、北海道にある「白鳥大橋」は、東日本最大の吊り橋で、船で主塔のある人工島まで向かい、海面から約100mの「中間梁」と呼ばれる場所まで登るクルーズツアーが開催されています。普段は入れない橋の内部を進み、主塔の頂上へと向かう非日常体験ができ、高度な建築技術を観察する機会としても貴重です。登頂後には、工場群が立ち並ぶ室蘭の独特な景観が広がり、その光景も大きな見どころとなっています。
トンネル:地中深くに眠る技術の結晶を探検
インフラツーリズムの中で近年注目を集めているのが、資材運搬や点検用に整備されたトンネルです。地下構造物や海底トンネルを巡る見学ツアーは、通常では得られない特別な体験を求める観光客にとって非常に魅力的です。
その代表的なスポットの一つが「東京湾アクアライン」です。海底トンネルの緊急避難通路を歩けるツアーでは、避難経路の内部を歩きながらトンネルの防災技術や安全対策の工夫について学べます。また、アクアラインの「海ほたる」からは、東京湾を一望する絶景が広がり、海底トンネルならではの構造や眺望が楽しめます。

東京湾アクアライン
また、2023年度に完成した四国最長のトンネル放水路「新日下川放水路」も、新たな見学地として注目されています。見学者向けの特別な通路を通り、ガイドの案内で巨大な放水路に潜入することで、水害対策やトンネル工事の技術を間近で理解できる貴重な体験ができます。日下川は、河床の勾配が約1/3000と非常に緩やかで、大雨の際に水が仁淀川に流れ込みにくく、浸水被害が多発していました。そのため過去に2本の放水路トンネルが整備されましたが、2014年8月の台風による甚大な浸水被害をきっかけに、新日下川放水路が計画され、2015年の計画立案から約9年の歳月をかけて完成しました。
インフラを支えるトプコンの技術
日本各地のインフラツーリズムが注目される中、これらの施設を支えるための測量・維持管理技術も欠かせません。例えば、ダムや橋、トンネルの安全を確保するためには、構造物の変位や傾きなどを正確にモニタリングし、迅速に対処することが重要です。
トプコンは、インフラの維持管理に特化した高精度の測量機器やデータ管理ソリューションを提供し、インフラ施設の安全性と持続可能性をサポートしています。
「NET05AXII / NET1AXII」「MS05AXII/MS1AXII」によるモニタリングシステムは、高精度な測距・測角性能によって変位を高精度に測定し、リアルタイムで変化を記録・管理できるため、橋梁やトンネルの建設現場や運用後の安全管理に幅広く活用されています。こうした技術により、維持管理にかかる負担を軽減しつつ、インフラの耐久性を確保しています。

NET05AXII / NET1AXII

MS05AXII/MS1AXII
他にも、3Dスキャナーと点群データの活用ソリューション、地表面の変位をモニタリングするソリューションなど、インフラの維持管理に役立つ製品やソリューションをそろえています。
インフラツーリズムで見学する施設を支える、精密な技術にもぜひご注目ください。
(参考文献)
国土交通省「インフラツーリズム拡大の手引―改訂版―」