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安田尚壱
めめ眼科 院長
埼玉医科大学卒業後、埼玉医科大学総合医療センターで初期研修、順天堂大学医学部附属浦安病院眼科に入局。順天堂大学医学部附属浦安病院や国立国際医療研究センター国府台病院などで経験を積み、2024年5月、千葉県船橋市に「めめ眼科船橋」を開院、院長となる。
ものを見る力を表す「視力」。私たちが一般的に「視力が良い」「視力が悪い」と表現する場合、それは主に「遠見視力」や「中心視力」を指しています。遠見視力とは、遠くの物を見る能力、中心視力とは、中心窩(ちゅうしんか)と呼ばれる目の部分で見る能力です。学校や健康診断などで行われる視力検査では、通常5m離れた場所から「C」のようなマーク(ランドルト環)の切れ目を見分けられるかという能力を検査しており、これにより遠見視力と中心視力が評価されます。
しかし、視力には、動体視力や立体視力など、この検査では測定できない能力も存在します。詳しく見ていきましょう。

スポーツや運転時に必要な「動体視力」
動体視力とは、動いているものを見る力のことです。学校や健康診断などで行うランドルト環による視力検査は、検査対象者も検査表も静止していることから、動体視力と区別するために静止視力検査と呼ばれます。動体視力にはKVA(Kinetic Visual Acuity)とDVA(Dynamic Visual Acuity)の2つの種類があります。KVAは、遠くから近づいてくる物体を見る能力のことで、ランドルト環を使った動体視力計で測定します。
DVAは目の前を横切る物体を見る能力であり、眼球運動の正確さが求められ、同様に動体視力計で検査されます。1997年の真下一策氏(スポーツビジョン研究会代表、井上記念病院外科部長)の発表によると、動体視力は特に野球などのスポーツにおいて重要で、優秀な選手は高い動体視力を持っていることが多いと示されています。また、車の運転時にもとても重要な能力とされています。しかし、高齢になると低下する場合が多く、70歳以上が運転免許を更新する際には、高齢者講習で動体視力検査が実施されています。自身の能力が低下していることを自覚することが目的で、検査をきっかけに、速度を控えめにする、意識的に注視点を遠くに向けることなどが期待されています。
スポーツ時に重要な「瞬間視力」と「周辺視力」
スポーツ選手の「見る力」は、スポーツビジョンと呼ばれます。スポーツビジョンで、静止視力や動体視力と並んで重要視されているのが、瞬間視力と周辺視力です。瞬間視は、目の前に一瞬だけ現れる情報を素早く認識する能力を指します。例えば、野球の打撃やテニス、サッカーなどの球技でのボールの動きや、ボクシングで相手のパンチを一瞬で捉える際に求められる能力です。

周辺視力は、視野の中央ではなく周囲にある動きや物体を認識する能力です。スポーツでは、視線を固定したときにどこまで認識できるかという「視野の広さ」に加え、あるものを見ながらも周囲の状況を把握できる「有効視野」の広さも大切だといわれています。瞬間視や周辺視を含むスポーツビジョンは、パイロットや外科医、警察官、消防士などの様々な職業、日常生活でも役立つ能力とされています。特に、車の運転中に視野の端で歩行者や他の車両の動きを捉える際にはスポーツビジョンが求められ、トレーニングにより鍛えることが可能です。
空間認識と奥行きを捉える「立体視力」

そのほか、静止視力と区別される視力に「立体視力」があります。立体視力とは、物体の奥行きや距離を正確に認識する能力のことで、両目で物体を立体的に見る機能を指します。私たちが両目で物体を見るとき、それぞれの目に映る像には微妙な差(視差)が生じます。この視差を脳が統合して3次元構造として再構築することで、物体の深さや距離を感じ取ることができます。立体視力は日常生活のさまざまな場面で重要な役割を果たします。例えば、階段の上り下りや物を手に取る動作では、正確な距離感が求められます。また、運転時には前方の車両や障害物との距離を適切に判断するために、スポーツではボールや相手との間合いを測るために不可欠な能力です。立体視力には個人差があり、加齢とともに低下しやすいとされています。しかし、特定のトレーニングや視覚訓練によって向上させることが可能で、鍛えることで日常生活でのバランス感覚の改善や転倒リスクの軽減につながります。
この立体視力の原理は、映画などの3D映像にも応用されています。左右の目に異なる角度から撮影された映像を見せることで、観客は映像に奥行きや立体感を感じ、より臨場感のある体験を楽しむことができます。
視力は単に「良い」「悪い」と評価されるものだけではなく、さまざまな能力がそれぞれ異なる役割を果たし、私たちの安全やパフォーマンス向上に寄与しています。これらの視力を意識し、専門家の指導のもと適切なトレーニングを行うことで、視覚能力を高め、より豊かな生活を送ることができるでしょう。
(参考資料)
愛知工業大学リポジトリ「スポーツビジョンのトレーニング効果」
J-STAGE「高齢者の労働安全衛生-なにを、どのように支援すべきか-」
速読情報館『動体視力などのスポーツビジョンを鍛える!日常でできるトレーニング方法を紹介』
講談社『一流選手になるためのスポーツビジョン トレーニング』




