目次
「見える化」とは、実態や情報を目に見えるかたちで分かりやすく示すことです。もともとはビジネスや製造の現場で使われていた専門用語ですが、今では辞書にも載るほど一般化し、行政資料やニュース記事などでも頻繁に使われています。身近な例としては、家計簿やダイエット記録がその代表です。レシートの写真を撮るだけで自動的に費目を仕分けし、月ごとの支出をグラフで可視化してくれる家計簿アプリ。ダイエットでは、スマートウォッチや健康管理アプリが、体脂肪率や睡眠の質までリアルタイムで記録し、“今の自分の状態”を数値で見せてくれます。
そして今、ビジネスの世界ではこの「見える化」を、さらに高度に、リアルタイムかつ立体的に実現する技術「デジタルツイン」が注目されています。いったいどんな技術で、どのような未来を見せてくれるのか。まずは「見える化」の原点から、紐解いていきましょう。
「見える化」の始まりと進化
「見える化」という考え方は、もともと日本の製造業の現場で、生産性を高めたり、品質を安定させたりするために生まれました。なかでも代表的な例が、1970年代にトヨタ自動車が確立した「かんばん方式」です。「かんばん」とは、部品名や数量、納入日時などを記載したカードのようなもので、部品の箱に取り付けて使われていました。部品を使うたびにこの“かんばん”を取り外し、集めて元の工場へ戻すと、その枚数に応じて必要な分だけの部品が作られます。これにより、「作りすぎ」を防ぎ、「在庫だらけ」の無駄な状態にならないようにしていたのです。「誰が見ても今の状況がひと目で分かる」ことが、この仕組みの最大の強みでした。当時はすべてアナログの紙でしたが、今ではこの“かんばん”もデジタル化が進み、電子的に管理されるのが主流となっています。

近年では、IT技術の進歩により、「見える化」の対象はさらに広がっています。たとえば、「ダッシュボード」と呼ばれる画面には、売上や在庫、作業の進捗状況などがリアルタイムで表示され、関係者がすぐに状況を把握できるようになっています。また、作業状況の把握だけでなく、生産数量や稼働率、廃棄コストといった数値を、目標に対する進捗を定量的に評価するための指標(KPI)をデータ化し、追跡する「KPI(重要業績評価指標)モニタリング」も一般化しています。こうした仕組みを活用することで、数字の裏にある課題や兆しを早期に発見し、業務の改善につなげることができます。
このように「見える化」は今や、製造現場の改善だけでなく、さまざまな業界で企業の経営判断や業務全体の最適化にも欠かせない存在となっています。
「見える化」を加速させたデジタルツインとは?
デジタルツインとは、現実の世界で集めたデータを基に、仮想空間上に再現する技術です。「デジタルツイン」という名前は、センサーやカメラ、ドローン、レーザースキャナーなどを使ってリアルな世界の情報を取得し、それをもとに現実とそっくりの“デジタルの双子”を作り出すことに由来しています。デジタル空間では、単に今の状態を“見える化”するだけでなく、シミュレーションや予測にも活用できます。たとえば、現場で起きそうな問題を事前に検知し、改善策をシミュレーションで試すといった使い方も可能です。これにより、リスクの低減や意思決定の精度向上につながるのが、デジタルツインの大きな特長です。
少し昔の話になりますが、1995年の映画『アポロ13』を思い出す人もいるかもしれません。宇宙でトラブルに見舞われたロケット「アポロ13」を救うため、NASAの技術者たちは、地上でそっくり再現したレプリカを使い、解決策をシミュレーションしました。この“現実の状況を地上で再現し、問題解決に活かす”という発想は、後にデジタル技術と結びつき、「デジタルツイン」の原型となったともいわれています。実際、デジタルツインという概念の背景には、NASAの宇宙開発、特にアポロ計画での取り組みがあるという説が広く語られています。

現在、デジタルツインは製造業をはじめ、都市開発、交通インフラ、エネルギー、農業など、幅広い分野で導入が進んでいます。たとえば、アメリカの航空エンジンメーカーでは、ジェットエンジンに多数のセンサーを取り付け、飛行中の稼働状況を常に監視。異常の早期発見やメンテナンスの効率化に貢献しています。都市開発では、街全体を3Dマップで再現し、人や車の流れをシミュレーションすることで、防災や交通計画、まちづくりの精度向上に役立てられています。また、橋やトンネルなどのインフラ設備においては、センサーで老朽化の進行を監視し、デジタルツインで劣化を再現。修繕のタイミングを予測する予防保全に活かされています。さらに農業の分野でも、気象データや作物の成長記録をもとに、「スマート農場」を構築する取り組みが進んでいます。
建設の「見える化」を加速するトプコンの取り組み
建設業界でも、デジタルツインの導入が進みつつあります。なかでも「見える化」を加速させる大きな鍵となっているのが、BIM(Building Information Modeling)との組み合わせです。BIMとは、コンピュータ上で建物を立体的に組み立てながら設計していく手法です。これまで2次元の図面で表現していた設計情報を3Dモデルで再現し、そこに材料、工期、コストなどの情報をリンクさせることで、設計から施工、維持管理までを一元的に管理できるのが特長です。施工プロセスをデジタル空間で再現できるため、リアルタイムで現場の状況を把握するデジタルツインと組み合わせることで、計画と実際を照らし合わせながら、効率よく施工を進めることが可能になります。

デジタルツインの活用事例としては、2025年10月に竣工したトプコン山形の工場建設工事における取り組みが挙げられます。同工事では、BIMモデルと現場の施工データを連携させることで、施工プロセスの「見える化」が図られました。
具体的には、ICT建機である油圧ショベルの刃先の軌跡から取得した根切り出来形データをBIMモデルに取り込み、施工途中の地形状態をバーチャル空間上で再現しています。この情報を基に、地足場の検討や施工計画の確認を行うことで、それまで設計段階での活用にとどまっていたBIMの利用を施工フェーズへと拡張し、建設プロセスの進化を具体的に示した事例となっています。

さらに、ICT建機の掘削状況を遠隔から把握し、施工の進捗をリアルタイムで確認するなど、デジタル技術による「見える化」が現場レベルで実用段階に入っていることを示す好例といえるでしょう。
(参考文献)
J-Stage「かんばん方式の研究と課題」
NTT技術ジャーナル「「デジタルツインで実現するスマートシティ」
JAXA「JAXA、スペースデータ「宇宙デジタルツイン」に関する共創活動を開始」
秀和システム「図解入門 よくわかる最新BIMの基本と仕組み[第2版]」
日経BP「建設DX デジタルがもたらす建設産業のニューノーマル」
日経BP「建設DX2 データドリブンな建設産業に生まれ変わる」
幻冬舎メディアコンサルティング「製造業のDXを3Dで実現する」
大林組「季刊大林No.61 デジタルツイン」
日本能率協会マネジメントセンター「KPIマネジメントの再構築 見える化とコミュニケーションが導くPDCA改革」




