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ダイバーシティは古代からのトレンド!?
時代を超えて求められる多様性の力

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2024年9月、アメリカのテレビ業界で最も権威のあるエミー賞で、真田広之さんが主演およびプロデューサーを務めたドラマ『SHOGUN 将軍』が、史上最多となる18部門で受賞を果たしました。この作品の成功には、アメリカの映画業界でダイバーシティ(多様性)重視が進んだことが大きく影響しています。以前なら日本を舞台にした作品でも、白人俳優やスタッフ、英語のセリフが主流でしたが、本作では、日本人役には日本人俳優が起用され、セリフの大部分は日本語で、英語の字幕がつけられる形式が採用されました。また、撮影スタッフにも多くの日本人が参加しており、これにより違和感のない日本の時代劇を世界に向けて発信することができたのです。

 

多様性を重視することは、創造性や意思決定の質の向上、経済成長など多くのメリットをもたらすとされています。これは、古代文明から現代に至るまで、人類社会の発展に重要な役割を果たしてきました。以下では、歴史的背景やダイバーシティの具体的なメリットについて解説します。

ダイバーシティは古代から尊重されていた

「ダイバーシティ(多様性)」は、性別、人種、年齢などの人々の違いを指し、近年、日本国内でも広く注目されています。千葉県では2024年1月に「千葉県多様性が尊重され誰もが活躍できる社会の形成の推進に関する条例」が施行され、同年6月には「ちばダイバーシティ宣言」も発表されました。また、同年4月に放送されたドラマ『不適切にもほどがある!』では、令和時代の多様性がテーマとして扱われ、話題を集めました。

 

しかし、多様性という概念は決して新しいものではありません。グローバル化が進む現代に生まれた価値観のように思えますが、実は古代から多様性が社会の発展に大きく貢献してきたのです。古代の大帝国や覇権国家は、異なる民族や文化を受け入れることで、社会や経済を発展させ、長期間にわたって繁栄を維持しました。その最たる例がローマ帝国です。ローマ帝国が、東ローマ帝国を含めて1,500年にわたって続いた理由のひとつには、異なる民族や文化を統合し、優れた人材が実力を発揮できる環境を整えたことが挙げられます。五賢帝のひとりであるトラヤヌスは、属州である現在のスペイン出身でしたが、ローマ市民としての権利を享受していました。また、ローマ帝国では、奴隷であっても財を成し、主人の許しを得れば解放され、ローマ市民になることが可能でした。こうした制度が、多様な人材が活躍する場を提供し、帝国の安定と発展に寄与しました。

 

日本にも、他文化を積極的に受け入れたことで発展してきた歴史があります。古代には、朝鮮半島や中国大陸から渡来した人々がさまざまな文化や技術をもたらしました。豪族である蘇我氏は、仏教を日本に導入し、外国文化や技術を取り入れることで国の発展を推進しました。江戸幕府を開いた徳川家康も、ウィリアム・アダムス(日本名:三浦按針)やヤン・ヨーステンといったイギリスやオランダ出身の外国人を顧問として起用し、彼らの知識や技術を日本の政策に活かしました。

ダイバーシティが再定義された1960年の転換点

このように、多様性は古代から国家の発展にとって重要な要素でしたが、現代のダイバーシティの概念は、さらに広範なものへと進化しています。従来の定義はジェンダーや人種の違いに焦点を当てていましたが、現在では個人の特性や属性、さらには性的指向や障がいなど、多様な要素にまで拡大されています。

 

ダイバーシティの概念が大きく発展したのは、1960年代のアメリカです。この時期、公民権運動や女性解放運動が起こり、マイノリティや女性の権利向上を求める声が高まりました。これに応じて、法的強制力を持つ「アファーマティブ・アクション」(積極的差別是正措置)が導入され、雇用や教育における差別是正が推進されました。この政策は、マイノリティや女性が採用・昇進の機会を得るための重要な一歩でした。

 

1980年代から1990年代にかけては、企業の社会的責任(CSR)や倫理的観点から、ダイバーシティがさらに重要視されるようになりました。多様な背景を持つ従業員を受け入れ尊重することが企業に求められると同時に、多様性のある組織は活力やイノベーションが促進されるという認識が広がりました。1990年代以降になると、ダイバーシティは単なる倫理的取り組みから、競争優位性の源泉とされ、多様性を活かした経営戦略が重要視されるようになりました。

 

一方、日本では1980年代まで、ダイバーシティという概念はほとんど語られていませんでした。しかし、1986年の男女雇用機会均等法の施行を契機に、女性の職業進出が促進されるようになりました。さらに、2000年代に入ると、日経連(日本経営者団体連盟)の「ダイバーシティ・ワーク・ルール研究会」が発足し、日本におけるダイバーシティ推進のための研究と提言が行われ、日本型ダイバーシティの概念が発展していきました。

ダイバーシティのメリットとは?

多様な人材を受け入れ、一人ひとりの能力を最大限に発揮できる環境を整えることは、社会の発展において非常に重要です。このような取り組みは、組織内でも同様に大きな効果をもたらします。近年、多くの企業や団体では、「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)」という考え方が注目されています。これは、単に多様な人材を受け入れるだけでなく、その人々が能力を発揮できるような組織文化や環境を整えることを目指す取り組みです。

 

D&Iの重要性は、近年さらに高まっており、その背景には国際的な取り組みであるSDGs(持続可能な開発目標)が影響しています。2015年に国連総会で採択されたSDGsは、2030年までに達成すべき17の目標を掲げており、その中には「5.ジェンダー平等を実現しよう」「10.人や国の不平等をなくそう」「16.平和と公正をすべての人に」といった、ダイバーシティに関連する目標が含まれています。

 

また、国連事務総長のアントニオ・グテーレス氏は、SDGsの報告書の中で「ジェンダーに基づくステレオタイプ、例えば『女性はこうあるべき』『男性はこうあるべき』という固定観念が根強く残っており、これを排除することが他のゴールの達成にも寄与する」と述べています。つまり、ダイバーシティの促進は、ジェンダー平等だけでなく、社会全体の持続可能な発展において重要な役割を果たしているのです。

 

日本企業においても、少子高齢化による労働人口の減少や、市場のグローバル化に伴い、多様な人材を活用することが重要な経営課題となっています。D&Iは、企業が競争力を維持し、グローバル市場での成長を促進するための重要な戦略として認識されています。

国籍や性別を問わずグローバルに活躍できる環境を

トプコンは、早くからD&Iの推進に力を入れており、多様な人材が活躍できる環境づくりを重視しています。現在、トプコングループの海外売上高比率は約80%、従業員の約70%が外国籍であり、世界約30か国・地域に拠点を置いてグローバルに事業展開を行っています。

 

トプコンでは、国籍や性別を問わず全ての社員を「トプコニアン」と呼び、適材適所の採用を行い、それぞれの強みを活かせる職場環境を提供しています。文化や背景の異なる社員が集まることで、世界市場において多様なニーズに応えることができます。今後も社員一人ひとりの意見やアイデアを大切にし、イノベーションを生み出す企業文化をさらに強化していく方針です。

 

トプコンのダイバーシティ

(参考文献)

朝日新聞「ハリウッドで描いた「本物の日本」 ドラマ「SHOGUN 将軍」、主演・プロデューサーの真田広之」

NHK「“SHOGUN”大ヒットのワケ JAPANコンテンツ新時代」

CORE「ダイバーシティ&インクルージョンの基本概念・歴史的変遷および意義」

國學院大學「ダイバーシティ(多様性)概念の歴史的変換についての一考察」

日経BP「多様性って何ですか?」

文藝春秋「歴史を活かす力」