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英国の「青い芝」を日本へ
芝とともに歩んだ日本のゴルフ場史と、その管理技術

目次

ゴルフというスポーツは、ゲーム性の面白さはもちろん、豊かな自然の中でプレーできることも大きな魅力となります。そして、その舞台を形づくるうえで欠かせないのが、コースを覆う芝です。しかしゴルフ場の芝は、単に景観を彩るためのものではなく、競技そのものを成り立たせる重要な基盤となります。ボールの転がりや止まり方、ショットの難易度は、芝の状態によって大きく左右されます。

日本のゴルフ場における芝の管理は、サンドグリーンや自然草地の時代を経て、日本の気候に適した芝品種の導入、管理作業の機械化、そして近年のICTによる精密管理へと段階的に進化してきました。

本記事では、当時の日本のゴルフ場が「英国の青い芝」を目指し、技術と工夫によってそれを再現してきた歴史をたどります。

始まりは「芝のないゴルフ場」

日本におけるゴルフ場の歴史は、1903年、六甲山上に開場した神戸ゴルフ倶楽部から始まります。当初のコースは、自然の草地を刈り込んだもので、グリーンには芝ではなく、砂を突き固めたサンドグリーンが用いられていました。現在一般的にイメージされるような「芝のコース」は、まだ存在していなかったのです。

日本で初めて芝を用いたグリーンが採用されたのは、1906年に横浜・根岸競馬場内に設けられたホールとされています。競馬場の芝を転用したこの試みは、日本における芝グリーンの先駆けとなりました。1914年に設立された東京ゴルフ倶楽部では、ティーからグリーンまで芝で構成されたコースが整備されました。これが芝を前提としたゴルフ場管理の本格的な始まりです。

1930年代に入ると、洋芝であるベントグラスを用いた芝グリーンが導入されました。しかし、日本の夏の暑さや、冬の霜柱によりうまく根付きませんでした。日本の芝管理は、完成された芝を維持する以前に「芝を成立させることそのもの」に試行錯誤する段階から出発したのです。

日本の気候と折り合う芝を探して

地域差はあるものの、日本で洋芝のみで芝グリーンをつくることには技術的な難しさがあります。こうした背景から、日本のゴルフ場では自国の気候に適応した芝草に注目が集まりました。その中心となったのが、日本に自生する「和芝」です。

代表的な「高麗芝」は、葉幅が比較的細かく、密度の高い芝草で、景観性やボールのライの均一性に優れています。現在ゴルフ場で用いられている高麗芝は、在来種をそのまま利用しているわけではなく、用途に適した形質を持つ個体を選抜・増殖した改良系統が主流です。また、高麗芝を矮性化した姫高麗芝を用い、刈込みや施肥を徹底することで、高麗芝によるグリーン、いわゆるコウライグリーンを成立させているコースも存在します。

一方、「野芝」は高麗芝より葉幅が広く密度は低いものの、踏圧に強く、回復力に優れているため、フェアウェイやラフを中心に採用されてきました。特に夏季の高温多湿環境でも生育が安定し、洋芝に比べて病害リスクが低い点が評価されています。

これら和芝はいずれも暖地型芝草であり、冬季には生育が停止し、地上部が褐色化します。この「冬枯れ」は景観やボールの視認性に影響するため、日本の多くのゴルフ場では着色剤を用いて緑色を維持する管理が行われています。

和芝は決して万能な芝ではありませんが、洋芝と和芝を適材適所で組み合わせる日本独自の芝グリーンを成立させる重要な基盤となりました。

作業を標準化した機械化

芝品種の選択によって芝が成立しても、ゴルフ場の芝は自然に維持されるものではありません。日々の管理作業の積み重ねによって、はじめて競技に耐える状態が保たれます。

グリーン管理の基本は、刈り込み、ローリング、施肥、灌水、そして更新作業です。

グリーンは生育期にはほぼ毎日刈り込まれ、刈り高さは数ミリ単位で管理されます。ローリングは芝面を締め、ボールの転がりを安定させるために行われます。施肥や灌水は芝の生育状況や季節に応じて調整され、過不足は生育不良や病害の原因となります。また、エアレーションや目砂散布といった更新作業は、土壌の通気性や排水性を保ち、芝の健全な生育を支えるために欠かせません。

戦後から徐々に普及してきた芝刈機や散布機、トップドレッサーなどの機械が1960年代以降、本格的に導入されたことで、これらの作業は効率化と標準化が進みました。機械化は、広大なゴルフ場において一定の品質を維持するための前提条件となったのです。

判断を可視化するICT

近年、日本のゴルフ場では、芝管理にICTを本格的に取り入れる動きが現実のものとなっています。その背景には、管理面積の広大さに加え、人材不足やプレー条件の均一さに対する要求の高まりです。芝の状態を「見て判断する」だけでは対応しきれず、作業の理由をデータで説明できる、再現性の高い管理方法が求められるようになりました。

代表的な事例の一つが、RTK-GNSS(リアルタイム・キネマティックGNSS)と慣性航法センサーを組み合わせた芝刈り作業です。国内の複数のゴルフ場では、これらの技術を搭載した芝刈り機が導入され、フェアウェイ管理に活用されています。RTK-GNSSに慣性航法センサーを組み合わせることで、樹木の陰や起伏の多い地形でも走行精度を維持し、あらかじめ設定した刈込みルートを忠実に再現することが可能になります。その結果、刈り残しや重複刈りを防ぎ、作業時間や燃料消費を抑制し、フェアウェイ全体の見た目や刈高を均一に保つことができます。

ドローンによる空撮と植生解析も導入されています。ドローンでコース全体を撮影し、NDVIなどの植生指数を算出することで、芝の活力度を面として把握することができます。肉眼では均一に見えるフェアウェイでも、データ上では生育のばらつきや初期ストレスを確認できることがあります。これにより、施肥や薬剤散布をコース全体に一律で行うのではなく、必要なエリアに絞って実施するなど、より合理的で的確な判断が可能になります。

GNSS測位技術は、こうした芝管理の精密化を支える基盤技術です。広大で起伏に富んだゴルフ場を正確に把握し、設計図面や管理計画を実際の現場に正確に反映することで、どこでどんな作業を行ったのかが明確になり、管理内容を共有しやすくなります。芝管理は、感覚と経験に支えられた世界であり続けながらも、ICTによって「同じ品質を保ち続ける」ための新しい段階に入りつつあります。

 

トプコンが提供する高精度なGNSS受信機は、ゴルフ場に限らず、農機や建機にも搭載され、高精度な位置情報を基に走行や作業を正確に制御しています。これにより作業効率の向上と品質の均一化が実現され、さまざまな現場で自動化や高度化を支えています。トプコンは、最新のポジショニング技術を通じて、人々の生活基盤をこれからも支えていきます。

 

<参考文献>
『コース設計の歴史』日本ゴルフコース設計者協会

『I-GINS(アイジンズ)搭載 フェアウェイ用芝刈機』西部造園

『ACSL、国産ドローンSOTEN(蒼天)を活用した ゴルフ場の芝の生育・維持管理のための植生調査に成功』ACSL