2023-01-10

エサを国産化へ。お米で育ったお肉や玉子が増加中

目次

輸入トウモロコシの価格が畜産コストを左右

私たちの食生活に欠かせない、肉類、牛乳、乳製品、玉子。これらを生み出す家畜のエサとして広く利用されているのが配合飼料です。原料は、5割弱を占めるトウモロコシを主に、麦、大豆粕など。国内の製造会社等で栄養素を調整しつつ配合・加工されています。その原料のほとんどを輸入に依存していることが、畜産コストに大きな影響を及ぼしているのです。

日本の輸入先は、約95%がアメリカです。2006年、アメリカ政府等がトウモロコシを使用するバイオ燃料の大増産を打ち出したことで、配合飼料の価格は2倍以上も急騰しました。以後、高止まりのまま推移し、2020年から再び急激に上昇したのです。他にも、中国で配合飼料の需要が急増したことと、南米で栽培する配合飼料用トウモロコシ等の不作が挙げられます。主要産地であるウクライナによる輸出の大幅減だけが原因ではないのです。

ある畜産農家によると、2022年には、1ヶ月のエサ代を300万程度と想定していたものの、600万円程も掛かってしまったとのこと。配合飼料の費用は、家畜の種類や用途によって異なりますが、経営コストの30~60%ほどを占めます。2022年は、半世紀の間で、最も厳しい状況に陥っているとの声も聞かれ、特に酪農家においては、離農を考える農家が増えているのです。だからこそ、国産飼料の生産と利用拡大が急がれます。現在の配合飼料の自給率は、25%。そのうちトウモロコシ等の濃厚飼料(タンパク質の多い飼料)の自給率は12%。100%へ少しでも近づくために何が必要か。私たちも考え、行動するときが来ています。

米がトウモロコシの代わりになる!?

国産飼料の原料として注目されているのが、米。主食用ではなく飼料用として栽培された米です。というのも、飼料米は、トウモロコシと代替可能なのです。飼料用には玄米を利用することが多く、トウモロコシと玄米の成分が似ており、栄養価がほぼ同等と判明しているからです。ただし、家畜の種類ごとに給与方法や配合の割合には注意が必要です。代替可能な範囲であっても、量を増やせば生産物に影響が出ることを留意しなければいけません。

現在、飼料用米を利用している畜産農家によると、以下のようなメリットがあるとのこと。

・「地元の米を利用していることがアピールできる。また、品質が良くなったり、特徴が出たりすることから畜産物のブランド化をすることができた」

・「水田活用を通して地域の活性化に貢献できて感謝されている。地域との結びつきが出てきたことに伴い、畜舎の臭いや出荷の騒音などに対する苦情が減った」他(農林水産省「飼料用米の利用に関するQ&A」より)

米で育った肉や玉子の味わいとは

国による飼料米栽培の推進によって、米をエサとして利用する畜産農家も増加しており、畜産物をブランド化した事例は全国で100ほどあります。「米」を魅力として畜産物の高付加価値化を目指す取り組みが年々増えているのです。

肉の場合、牛、鶏、豚の中では、豚肉の取り組みが最も多くみられます。例えば、すべての豚に米を与える畜産企業は、輸入トウモロコシの代わりに、粉砕した飼料用米を10~20%配合。成長するまでに、40~50kgの米を与え、相応しいブランド名を付け販売しています。一般飼料で育てた豚に比べると、脂肪が白く溶けやすく、オレイン酸の増加で甘みと旨味がアップしているとのこと。消費者のアンケートの結果からも、米を与えた方が、色、柔らかさ、香り、味のすべてで、高い評価を得られているとのことです。

玉子の場合も高評価を得られています。配合飼料に68%の飼料米を使用した玉子の色は、レモンイエロー。そもそも黄身の色は鶏が食べている飼料の色です。トウモロコシを多く含んだ飼料の黄身は黄色になり、米を多く含んだ飼料の黄身は、白っぽい黄色になります。飼料米の割合が高い玉子の味わいは、臭みが軽減されており、さらりと上品で、やわらかな甘みがあるとのこと。白身は、しっかりと盛り上がっているのも特徴。一般的な玉子とは見た目の明らかな違いによって、「米」という付加価値を意識できるのです。

エサも主食米と同じ水田で栽培可能

「きたげんき」「たちじょうぶ」「べこごのみ」「モグモグあおば」…、これらは、飼料米のブランド名です。飼料米には、通常、収量の多い専用品種が用いられます。畜産農家の負担にならないように、輸入トウモロコシと同等程の価格での販売が求められるので、収量の多い品種が必要なのです。

収量の多い品種の米は、主食米とは異なり、人が食べておいしいかどうかよりも、玄米や籾の収量が多いことや、たくさん実っても稲が倒れにくいこと、耐肥性が強い品種が求められます。栽培方法は、地域に適した品種を選び、多収のために倒状しない範囲での多肥栽培をおこなうのが基本です。収穫時には、多収のため単位作業時間あたりの刈り入れ籾量(もみりょう)が多いことや、茎が丈夫であることから刈り取りにくいので、走行速度を遅くすること等、コンバインに負担をかけない工夫が必要です

その他、栽培において、いくつかの違いはあるものの、飼料米を作る上での大きなメリットは、主食用と同じ水田で作れることです。しかも、高品質な米に向かない水田でも栽培が可能です。また、主食用米づくりに使用する機械を活用でき、新たな設備投資は不要。つまり、転換が比較的容易にできます。

飼料米における令和3年産の作付面積は、約11.6万ha。前年より約4.5万ha増加しています。国が推進していることもありますが、大きな要因として考えられるのは、高い需要があることです。今後は、持続可能な畜産のためにも、国産のエサである飼料米を支持する動きが益々高まることが予想されます。そうなれば、どの家庭の食卓にも、米で育った肉類や牛乳、玉子が並び、これらの価格の変動に一喜一憂しない日が来るかもしれません。

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