2024-04-24

いま改めて注目される、雑穀のポテンシャルとは?

目次

雑穀の素晴らしさや世界への貢献をたたえるインドの雑穀ソング「Abundance in Millets(アバンダンス・イン・ミレット=豊かな雑穀)」をご存じでしょうか。2024年の第66回グラミー賞において、最優秀グローバル・ミュージック・パフォーマンス部門にノミネートされた1曲です。インドのモディ首相が制作に関わり、オフィシャル・ミュージック・ビデオには、雑穀について熱く演説をする首相が登場しています。そんなモディ首相の提案により、2023年は、国連食料農業機関(FAO)が定めた「国際雑穀年」でもありました。なぜこれほどインドも世界も雑穀に注力するのでしょうか。それは、雑穀に、とてつもないポテンシャルがあるからなのです。

ヒエ、アワ、キビ…雑穀は約7000年間も栽培されてきた

雑穀とは、英語で「millet」。学術的な定義は、イネ科作物のうち、果皮が種子と付き一体化した小さい穎果を付けるヒエ(barnyard millet)、アワ(foxtail millet)、キビ(common millet)等を指します。但し、定義は、国や地域、時代背景によって異なり、国際雑穀年では、モロコシ、フォニオ、テフ等も対象作物になっていました。

 

ちなみに日本の食品メーカー等で作る一般社団法人日本雑穀協会によると、「主食以外に日本人が利用している穀物の総称」と定めています。つまり、精白された米、小麦は含まず、ヒエ、アワ、キビ、ソバ、キノア(キヌア)、アマランサス、ハトムギ、大豆、小豆、ゴマ、エゴマ、アマニ、ヒマワリの種、黒米、玄米、発芽玄米、トウモロコシ、小麦の全粒粉等々。

 

雑穀は、おおよそ紀元前5000年より栽培が始まったとされ、古代より世界各地で栽培されている作物です。起源は、主にユーラシア大陸とアフリカ大陸。ユーラシア起源は、アワ、キビ、ヒエ、インドビエ。アフリカ起源は、シコクビエ、トウジンビエです。現在もアジア、アフリカの乾燥・半乾燥地域に暮らす人にとっては主食であり、栽培も盛んに行われています。

国際連合食糧農業機関(FAO)の統計で2020年の雑穀の生産量を見ると、アジアが世界の50%以上、アフリカが45%。国別で見ると、インドが世界の41%、ニジェールが11%、中国が7%と続いています。

食の問題において重要な役割を担っている

雑穀の利点の一つは、高い栄養価です。ビタミンやミネラルが豊富で、タンパク質、食物繊維、オメガ6系脂肪酸等々を多く含むため「栄養穀物」とも呼ばれています。もうひとつの利点は、幅広い環境適応性です。「米」「小麦」「トウモロコシ」の三大穀物に比べ、干ばつなどの劣悪な気象条件に強く、灌漑のない環境でも栽培ができ、降雨量が少ない環境や痩せた土壌、寒冷地、高地でも育てやすいのです。害虫への耐性があり、肥料や農薬も不要です。

 

これらの利点は、世界の食糧安全保障への不安解消、飢餓の緩和に、重要な役割を果たすと期待されています。そのため、FAOは、この認識を広め、雑穀へ関心を向け、雑穀の持続可能な生産の促進と消費を拡大させることを目的に世界へ働きかけているのです。

雑穀栽培で7億8,300万人の飢餓をゼロへ

雑穀は、古代より世界中の伝統的な食生活を支えてきました。ところが、現代では、起源地域でさえ、三大穀物が人気を高め、雑穀よりも消費が伸びています。人口増加も手伝って消費が伸びれば、不足の一途。輸入に依存することとなり、行き着く先は食料問題の増幅、というのが現在のアフリカです。

 

国連によると、2023年12月現在、世界人口の1割にあたる7億8,300万人の人が毎晩空腹のまま眠りについているといいます。紛争や経済への打撃、異常気象、肥料価格の高騰などの要因が重なり、栄養が十分に行き届いていないのです。SDGsでは「飢餓をゼロに」という目標を掲げているにもかかわらず。

 

そこで、救世主になりうるとして「雑穀」の見直しが叫ばれるようになりました。最も訴える一人が、インドのモディ首相です。飢餓撲滅と貧困抑制を目標に、国連へ「国際雑穀年」を提案し、雑穀ソングのアイデアを打診したのは前出の通り。

 

モディ首相は、2014年の首相に就任して以来、雑穀は痩せた土地でも育つことから、雑穀の生産と消費拡大に力を入れてきました。というのも、インドでは、経済成長し、生活が向上したことで、小麦や米の消費が伸び、また、都市化が進み、伝統的な雑穀の作付けが減少傾向にあるからなのです。

 

国際雑穀年は、すべての人々が栄養ある安全な食べ物を手に入れ、健康的な生活を送ることができる世界を目指すことを提唱しました。原点回帰とまでいかないにしても、雑穀へ関心をあの手この手で高めていく対策は今後も講じられるでしょう。

国内市場約200億円の9割が輸入という現実

日本はというと、日本最古の作物「ヒエ」と「アワ」は、稲作よりも前に栽培が行われていました。後に、米より中心となる時代もありましたが、戦後における食の欧米化により、栽培面積はかつての1000分の1にまで激減。ところが、1990年頃の健康ブームにより、底をついたかと思われた需要が復活したのです。現在は、農水省が2016年に雑穀の生産統計を廃止したため、生産状況を把握できなくなっていますが、岩手県、北海道では生産が盛んに行われています。白米に混ぜて炊く等、日常的に雑穀を好む人が増えていることもあり需要は多く、休耕田を活用する等、積極的に雑穀を栽培・販売する農家が各地で増えつつあります。

 

現在の国内市場は、約200億円規模。ますます拡大すると予想されています。2024年に入ると、大手菓子メーカーが雑穀・精麦市場に参入すると発表。「日々の食事からウェルネスを実感できる商品」を提案していくとのこと。そんななかで、海外からの輸入に依存している割合が9割という日本の現実は考えるに値するでしょう。

 

今後、日本に求められる動きは、雑穀の利点である環境適応性を活かすことといわれています。気候危機の影響に備え、国の食料自給率を高めるためにも、雑穀の価値を再認識し、生産と消費を進めていくときに来ているといえます。雑穀を可能な限り自国で栽培するために作業の効率化や簡略化を図るのであれば、スマート農業に頼ることも手です。

 

「国際雑穀年」は2023年度で終わったのではなく、始まったのです。というのも、雑穀のポテンシャルは未開の部分が多いとのこと。各国が研究を進めていくことで、さらなる驚き、そして健康や問題解決への糸口をもたらしてくれることを心より願います。

 

トプコンは、2006年よりスマート農業に取り組んでいます。

<参考資料>

『Abundance in Millets』 [Official Music Video]

産経新聞「インド首相関与の〝雑穀ソング〟異例のグラミー賞ノミネート 夫婦熱唱 今年『国際雑穀年』」

毎日新聞「余録 2024年グラミー賞にノミネートされた…」

国立研究開発法人 国際農林水産業研究センター「雑穀の日」

日本農業新聞「[論説]雑穀の栽培 拡大検討の余地はある」

国連World Food Programme「国連WFPの概要」

公益財団法人大宅壮一文庫「雑穀」

雑穀研究会 「雑穀とは」

International Year of Millets 2023 | Food and Agriculture Organization of the United Nations

FAO駐日連絡事務所「国際雑穀年2023 」

International Year of Millets: Unleashing the potential of millets for the well-being of people and the environment

農林水産政策研究所 伊藤紀子 「 [主要国農業戦略横断・総合]プロ研資料 第8号 第5章 アフリカ ―コメの需給と関連政策―」

研究員 草野 拓司 「アフリカにおける穀物の需給動向と生産における課題-トウモロコシとコメに焦点を当てて 国際領域」

日本特産農産物種苗協会『特産種苗No. 31 』【特集】〈あわ、ひえ、きび、もろこし種子の生産・供給〉

国際農研「雑穀セミナー 開催報告」

森永製菓株式会社のプレスリリース「お客様の更なるウェルネス実現を目指し 雑穀市場、精麦市場に新規参入「国産十六雑穀」「国産もち麦」2月1日(木)新発売 」