2023-12-27

米離れの課題を解決する救世主は、クラフトビール!?

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ここ数年、日本のクラフトビール業界が売り上げを伸ばしています。背景として挙げられるのは、おおよそ三つ。2018年、酒税法改正によりビールの定義が広がり、多種多様な個性派ビールが製造可能になったこと。それによって20~30代のビール愛好家がクラフトビールに惹き付けられたこと。さらには、アメリカ等への海外輸出に各メーカーが力を入れたこと。そんなクラフトビール人気のなか、お米を使ったビール「ライスビール」に注目が集まっています。「地元」を大切にするクラフトビールづくりに「農家は不可欠」との声もあり、米離れ、農家不足といった課題の打開策となり得るのではないかと期待されているのです。

日本人好みの副原料が主役をつとめるライスビール

ビールの主な原料といえば、「(大麦の)麦芽」、「ホップ」、「水」(ビール酒造組合「ビールの造り方」)。米は、香味を調整するための副原料のひとつとして使われています。同じく副原料であるスターチ(でんぷん)の補充原料として使われ、役割は、すっきり感の生成。米による「軽さ」が日本人の味覚に合うことから、日本の大手メーカーの名の知れ渡った銘柄にも使われています。これは、日本でおなじみの海外のビールにも使用されていることをご存じの方は相当なビール通でしょう。とは言っても、一般的なビールの場合、米は完全なる脇役。一方でクラフトビールでは、主役として扱われているのです。原材料として、麦芽の次に堂々と表記されていることが多く、「ライスビール」というジャンルを確立しているほどです。

ライスビールは、新潟の醸造所が「コシヒカリ」を使って約25年前の第一次地ビールブーム時に製造を開始。現在では、南は沖縄・石垣島から、北は北海道まで、地元が誇る米を主役に選ぶケースが増えています。米を多く使えば、柔らかでふくよかな甘みを感じられ、フルーティな味わいに。工夫を凝らすことで個性を出すこともできます。魅力は、寿司や白身魚といった淡泊な料理との相性が良いことでしょう。

ごはんや米で課題解決 サステナブルな社会を実現

最近では、サステナブルな社会や米の課題解決を目的としてライスビールづくりに着手する例も出てきています。カレー店が、食品ロスを防ぐために、多く廃棄される「炊いたお米」をビールへアップサイクル。また、電機メーカーでは、炊飯ジャーの開発に用いる「試験米」をサーキュラエコノミー(循環型経済)の実現を目指してアップサイクル。ごはんを冷凍し、「糖化」という工程で麦芽とともに投入しているとのこと。どちらも、食品ロスを防ぐため活動するフードテック企業とタッグを組むことで、現代ならではのビールの価値を創出しているのです。

米農家を支援するために、米の新たな消費拡大を願い、ビールをつくる人たちも現れました。例えば、地元のブランド米を活用したお菓子等を開発する北海道の米穀店は、クラフトビール製造にも挑戦。50%まで精米した玄米を珈琲豆のように焙煎して使用し、もみ殻でろ過したライスビールをつくることに成功しました。青森の醸造所は、スマート農業によって農薬使用を極力抑えて栽培された「スマート米」を使って試験的に製造しました。ライスビールは、飲む楽しみだけではない役割を担いつつ醸造されるクラフトビールとも言えるのです。

醸造所数は700超。人気の理由は、自分らしさと日本らしさ。

クラフトビールとは、日本では明確な基準や定義はないものの、「小さな醸造所でブルワー(醸造家)が造るこだわりが詰まった個性的なビール」のことです。2018年の酒税法改正により、「ビール」の定義として麦芽比率の下限が50%に引き下げられ、香りづけや味付けを目的とした副原料も大幅に認められるようになりました。その結果、クラフトビール市場は急速に発展。2023年現在の醸造所数は、全国で700か所を超えています。

苦味を抑え、多種多様な味わいを持ち、味の変化等も楽しめ、まったりくつろぐ「チル」にマッチしたクラフトビールは、「とりあえずビール」と注文せず、苦味やガブ飲みを嫌う若い世代に刺さりました。インパクトのあるパッケージをファッションやカルチャーとして捉え、自分流に選ぶ楽しみを味わえる点やSNSで紹介したくなる点も人気に拍車をかけたと言えます。

日本のクラフトビールの勢いを上げている要因は、海外進出もあります。国が、日本の酒類として日本酒とともにクラフトビールの輸出にも力を入れており、その甲斐あって、輸出は年々右肩上がり。主要な輸出先は、クラフトビール先進国のアメリカで、支持されるビールは、個性的なフレーバーです。決め手となるのは、日本固有の原料。「米」(うるち米、古代米、酒米)はその一つです。和食人気が海外で高まる中、「日本らしさ」を追求するクラフトビールがさらに求められることは間違いないと考えられます。

クラフトビールで農業を身近に感じる若い世代が続出!?

クラフトビールは農業と深く関わりがあります。各地の醸造所は「地元」を大切にしており、地方では、地元の農家あってのビール醸造という意識も強くあります。地元の食材を積極的に使用することによる地域活性化を目的にしている醸造所も多く、突き詰めていけば、ビールを自分たちの手でつくるのなら、原料も自分たちの手でつくりたいという考えへ至り、行動する醸造家も。そのようにビールづくりを始めたり、農業を始めたりする醸造家には若い世代も登場しています。

ビールの種類(ラガーやピルスナー等といったビアスタイル)は、細かく分けると100種類以上ありますが、そのひとつで、ベルギーが発祥の「セゾン(フランス語で「季節」の意味)」は、かつての農家が農作業中の喉の渇きを癒すために自分たちで冬期に仕込んで夏期に飲んでいたというアルコール度数が低いビアスタイルです。「ファームハウスエール」とも呼ばれています。このビールの醸造所を「ファームハウスブルワリー」と呼び、こちらを目指す人たちも出てきています。

醸造所でなくとも、ホップや大麦づくりを週末に楽しむビール愛好家も増えつつあり、ビールと農業と密接な関係を身近に感じられるようになったことは、クラフトビール人気のおかげでしょう。

クラフトビール先進国のアメリカでは、醸造所が1万件に迫るとされ、その勢いを感じると、日本はまだまだ伸びる余地があると言われていますし、望まれています。日本全体の強みは、米栽培でしょう。米を栽培する地域ごとに個性的なライスビールを味わえるようになれば、国内外のビール愛好家が醸造所を巡り、まさに地域活性化、地方創生。自国でも味わいたいとなれば、海外への輸出もますます増加することになります。ライスビールの原料をつくりたいがために要となる農業を志す若い世代が増えるとも考えられます。そんな若手農家の経験不足を補うためにスマート農業は大いに貢献することになるでしょう。そして…。このように、米の新たな希望や可能性を想像しながら、ライスビールを味わう時間をまずは楽しんでみてはいかがでしょうか。

 

トプコンは、2006年よりスマート農業に取り組んでいます。
トプコンのスマート農業

日本の醸造所数
https://kitasangyo.com/pdf/e-academy/osake-s/osake_s_2302.pdf
https://beer-cruise.net/beer/beer_num.html
https://www.alwayslovebeer.com/craftbeer-microbrewery-brewpub/

アメリカの醸造所数
https://newscast.jp/news/9048287