2022-11-18

健康志向で「長いも」が輸出の主力野菜に

目次

日本の農林水産物・食品の年間輸出額が、2021年に、1兆円を初めて突破しました。背景には、アジアを中心とする海外の所得が向上したことやインバウンドの増加により、日本の食の魅力が広まったことが考えられます。ジャンル別の順位は、上位より、日本酒等の加工食品、水産物(調整品を除く)、たばこや緑茶等の農作物、畜産品、水産調整品、穀物類、青果物(果汁含む)です。

 

青果物の輸出額は最も低いものの、2019年445億円、 2020年453億円、2021年570億円と、右肩上がりに推移しており、さらなる増額が期待されています。品目を見ると、りんご、ぶどう、いちごと果物が順に続きます。その次にランクインしているのが、意外かもしれませんが、「長いも」です。「かんしょ(さつまいも)」と近年は競り合っていますが、野菜の中では第1位(2021年)。なぜ長いもが人気なのでしょうか?キーワードは、「健康」。輸出先は? 使用方法は? 海外での人気の理由を解き明かします。

人気は日本で規格外の「太物」

 

長いもの輸出急拡大の契機は、1999年における国内での大豊作でした。相場の暴落が確定していたことで、生産者らが新しい販路を模索している時、台湾で長いもの需要が高まっているという情報を得たのです。台湾への輸出が成功し、さらに日本産の増加による価格下落を防ぐため、他国への販路拡大も目指しました。努力の結果、現在では、シンガポール、タイ、香港、そしてアメリカ、カナダ等へも輸出されています。2021年の輸出額は、計23.1億円(6773トン)。輸出先の第1位は、台湾(11.1億円/3481トン)。第2位は、アメリカ(7.6億円/2146トン)で、上位2か国が8割以上を占めています。

 

海外向けの主流サイズは、「太物」と呼ばれる3~4L。日本で好まれる1本の重さは800~1000gですが、海外向けは1本1400gが一般的です。日本で、太物は規格外として価格が安くなるのに対して、海外では2倍から4倍の値が付く場合もあります。太物の収穫量が増えても、輸出へ回せるという安心感も生まれました。

 

海外展開が軌道に乗った大きな要因は、品質管理といわれています。輸出開始当初は、中間業者の品質管理が不十分で腐敗が生じ、クレームが続出したとのこと。そのため、段ボールの強度を高めたり、長いもに傷が付かないよう専用シートを間に挟んだりといった対策が講じられました。現在は、品質管理はもちろんのこと、安全・安心であることを国際標準で求められるため、認証取得に向けての取り組みも行われています。

健康のためにスープやジュースとして

 

台湾での長いも需要の増加は、健康志向の高まりと薬膳料理が流行していたことにあります。そのブームが他国に移ると同時に、輸出先も増えていきました。

台湾では、自国産も販売されていますが、日本産が支持されるのは、見た目、色の白さ、キメ、食感、柔らかさ、美味しさ、どれをとっても日本産の方が優れており、高品質だからです。特に、外見は重要視され、商品の価値を決める最大条件とされています。アメリカでも、台湾の噂が海を渡ったことで、カリフォルニア州などアジア系住民が多く住む地域のスーパーマーケットで販売されるようになりました。鍵となるのは、やはり「健康」です。

 

料理で使われているメニューの主流は、薬膳スープです。山いも(長いも)は、生薬では「山薬(シャンヤオ)」(日本語では「サンヤク」)と呼ばれており、スープでは主役の食材となるのです。例えば、「山薬鷄湯(シャンヤオジータン)」は、「長いもと鶏肉のスープ」。鶏の骨から出る濃いダシに、食べやすい大きさに切った長いもと、ショウガ、ナツメ、クコの実等の薬膳の食材を加えて作ります。また、ミックスジュースも人気です。乳製品や豆乳とともにミキサーにかけ、砂糖等を加えて甘くした飲み物で、コンビニでは紙パック飲料として販売されているほどです。

 

長いもは、滋養強壮に効き、虚弱体質や老化症状の緩和、消化器系の吸収力を高める働きがあるとされ、日本以上に健康食材として珍重されているのです。

さらなる輸出拡大の鍵は、シャキシャキ、トロトロ!?

 

1999年より急拡大した長いもの輸出量は、2015年をピークに減少し、その後は横ばい傾向で伸び悩んでいます。台湾での人気は、今後も維持されると見られていますが、新たな食べ方の提案や販路拡大が求められています。例えば、長いもの消化酵素を含むといった機能性を活かした加工品等を生み出すこともひとつ。アメリカでは、日本食ブームを活かし、寿司店をはじめとする飲食店への新メニューの提案。また、健康的な日本食材としての調理方法をアジア系以外の人たちへアピールする等、取り組み次第ではさらに輸出を拡大できる余地はあると考えられています。

 

短冊状に切ってシャキシャキ、すりおろしてトロトロといった生食の食感を楽しむ習慣は日本独自のものです。この食べ方が、今後の輸出拡大の鍵となるのでしょうか。政府は、農林水産物・食品の新たな目標として輸出額を2025年までに2兆円、2030年までに5兆円にする目標を掲げています。

輸出により生産者の収入が30%アップ

 

長いもの旬は、11~12月。春から収穫の準備が始まります。まずは種を植える前に、トレンチャーというトレンチ(溝)を掘る機械で、幅約15cm~20cm、深さ約1mに耕し、5月下旬から6月上旬頃に種いもを植えます。つる性のため支柱立てやネット張り等をして、11月上旬から12月にかけて収穫。冬の間、畑の土の中で天然貯蔵して3月4月に収穫することもあります。1列の収穫本数は、1列360m程あるとしたら、約7,000本です。

 

日本の産地は主に北海道と青森県であり、この二道県が輸出の要です。輸出を開始してから約20年が経った現在、長いも生産者の収入は30%も上昇したといわれています。今後の栽培における課題のひとつは、どの産地でも懸念されている農家の高齢化。若者の就農意識を高めるためには、作業の効率化、省力化を図りつつ、上昇した収入を安定させる取り組みも待ったなしで行う必要があります。

そこに貢献できるのが、「自動操舵システム」。衛星測位によって農機の正確な位置を捕捉し、自動操舵によって農機の正確な運転を手助けします。トレンチャー耕や掘り取り作業の際に、高い技術がなくても低速でまっすぐに掘れるので、長いもを傷つけるリスクが減り、収量の増加を期待できます。

自動操舵システム

トプコンは、2006年よりスマート農業に取り組んでいます。

https://www.topconpositioning.asia/jp/ja/products/products/agriculture/