公開日:

省人化を実現し、防除時間も大幅削減!
天敵を活用した病害虫対策「天敵農薬」とは?

目次

化学農薬だけに頼らない害虫駆除の方法として、近年注目されているのが「天敵農薬」です。ここでいう天敵とは、病害虫を捕食したり寄生したりすることで、その数を減らしてくれる昆虫などのことです。これらを圃場やハウス内に放つことで、害虫の発生を抑制するのが天敵農法による防除方法です。なお、「天敵農薬」と呼べるのは、農薬取締法に基づき、農薬として正式に登録されたものだけに限られます。実際の生産現場では、天敵農薬の導入により、化学農薬の使用回数が大幅に削減されたという事例もあります。環境に優しく持続可能な農業への移行が求められる中で、天敵農薬は現代の農業に適した手法の一つといえるでしょう。こうした農法とともにスマート農業の技術を交えながら、これからの農業のあり方を探ります。

虫をもって虫を制す。今、注目される「天敵農薬」

たとえば、ナスやキュウリ、トマトなどに被害をもたらすコナジラミ類やアザミウマ類。これらの害虫に対して天敵として利用されているのが、体長約4ミリのタバコカスミカメというカメムシの一種です。ハウス内に放飼されたタバコカスミカメは、本能的にコナジラミ類やアザミウマ類を捕食し、高い防除効果が得られます。実際にタバコカスミカメを導入した農家からは「農薬散布の回数が大幅に減った」「生産効率が上がった」といった報告も寄せられています。

また、春先のイチゴ栽培では、アザミウマ類による被害が問題となるケースがあります。この時期、受粉のためにハチなどの訪花昆虫を利用することが多く、化学農薬を散布しにくいという事情があります。また、アザミウマ類は増殖するスピードが早く、体長が1〜2ミリと小さいため、薬剤がかかりにくく、化学農薬での防除を難しくしている理由の一つです。このようなイチゴ栽培においては、近年では防除策としてアカメガシワクダアザミウマという天敵昆虫の活用が広がっています。

国内導入は1911年から。意外に歴史が長い天敵農薬

日本における天敵を利用した防除の研究と実用化は意外に古く、国内の代表的成功例としてよく知られているのが、1911年に始まった柑橘類の害虫イセリアカイガラムシに対するベダリアテントウの導入です。これは、海外から天敵昆虫を導入して害虫を抑える、古典的生物防除の先駆けとなりました。

その後、日本で初めて天敵農薬として正式に登録されたのは1951年です。雲州みかんの害虫であるルビーロウカイガラムシに寄生するルビーアカヤドリコバチが、国内初の天敵農薬として登録されました。さらに1970年には、リンゴや梨に寄生する害虫クワコナカイガラムシを防除する天敵・クワコナカイガラヤドリコバチが登録され、これが日本で初めて本格的に製造販売された天敵農薬として広く知られるようになります。

こうした取り組みを背景に、天敵を「農薬」として扱うための登録制度や、商業的な製剤化に向けた環境整備が徐々に進展し、1990年代半ば以降、天敵農薬は本格的に普及し始めました。現在では天敵農薬の種類も増え、2021年11月時点では23種53銘柄が農薬として登録されています。

 

環境に配慮した農業を天敵農薬で実現

天敵農薬が画期的な防除手段として注目される一方で、生物そのものを農薬として利用する点や、海外由来の天敵も含まれることから、生態系への影響を懸念する声もあります。しかし、天敵農薬も化学農薬と同様に、農薬取締法に基づく厳格な審査を受けており、効果や安全性について科学的な根拠が確認されたものだけが農薬として登録されています。そのため、適正な使用基準を守る限り、過度に不安視する必要はないと考えられています。

このような前提のもと、天敵農薬を導入するメリットはいくつかあります。まず、環境や人への安全性が高い点です。天敵は自然界に存在する生物であり、人畜や有用な動植物への影響が比較的少なく、収穫物への残留毒性の心配もほとんどありません。また、環境負荷が小さいうえ、使用回数に制限のないものも多く、特に栽培期間の長い果実・野菜類でも、シーズンを通じて防除に利用しやすいとういう利点があります。

次に、省力化につながる点です。天敵を圃場やハウス内に放飼してしまえば、その後は自然の捕食・寄生の働きによって害虫の発生を抑えてくれます。化学農薬のように人手を何度もかける必要がなく、農作業にかかる人手や時間といった負担を大きく軽減できます。

さらに、対象以外の生物への影響が小さく、薬剤抵抗性の問題が起こりにくい点も挙げられます。化学農薬は散布した範囲にいる生物に少なからず影響を与える可能性がありますが、天敵農薬では基本的に特定の害虫だけが防除の対象となります。また、化学農薬を使用し続けると、それに対して抵抗性を持つ害虫が発生するリスクがありますが、天敵農薬は自然の捕食・寄生関係を利用するため、化学農薬のような意味での「抵抗性」が害虫に生じるリスクはありません。

一方で、天敵農薬にもデメリットはあります。防除対象が化学農薬に比べて限定的であり、複数の病害虫が同時に多発する状況では、天敵農薬だけでは十分に対応できない場合があります。また、製造コストや導入コストが比較的高くなりやすい点もあります。ほかにも、効果を最大限に発揮するためには、放飼のタイミングの見極めが重要であることなど、使用者側に一定の習熟が求められる点も課題です。

しかし、天敵農法など、さまざまな防除方法をうまく組み合わせることで、環境負荷を抑えながら、高い生産性を目指すことも可能です。さらに、作業の省力化にもつながるため、デメリットを補って余りあるメリットがあるといえるでしょう。

 

今の時代に求められる農業とは?

天敵農薬は、環境負荷を抑えながら害虫をコントロールできる、自然に寄り添う防除技術として、サステナブルな農業を目指す今の時代に求められる選択肢の一つです。また、こうした技術と高い親和性を持つのがスマート農業です。

ロボット技術やICTなどの先端技術を活用したスマート農業は、今や全国各地で導入が進み、その裾野がさらに広がりつつあります。トプコンではスマート農業にいち早く着目し、取り組んできました。長年培ってきた光学技術やGNSS技術、各種センサーやネットワーク技術を活かして、農機のシステムやレーザー式生育センサーによる作物の生育状況の見える化など、スマート農業の実現を支えてきました。

農業を取り巻く環境は年々めまぐるしく変化しています。その中で、自然に配慮しつつ、生産者が持続的に農業を続けられる技術を取り入れることは、もはや不可欠といえるでしょう。そして何より、こうした取り組みが食と農の未来を切り開いていくと考えられます。

トプコンは「農業の工場化」をコンセプトに、DXソリューションを提供し、スマート農業に取り組む農家を支援しています。

>>「農業の工場化」により生産性と品質の向上に貢献

 

【参考資料】
一般社団法人日本植物防疫協会「導入天敵の歴史的経過とその意義」

日本生物防除協議会「天敵製剤とは?」

農林水産省消費・安全局植物防除課「IPMから見た生物農薬」

長崎県庁「促成イチゴのアザミウマ類に対する天敵資材『アカメガシワクダアザミウマ』の放飼時期と防除効果」

独立行政法人 農林水産消費安全技術センター_「生物農薬の登録状況について」

農林水産省「総合防除(IPM)の推進をめぐる現状と課題」