2023-01-19

農業のために、米袋をファッションアイテムへ

目次

玄米を米の産地から消費地の精米工場等への輸送用、また、精米した白米を各家庭へ届ける際の一部に使われているのが、クラフト紙で作られた米袋です。使い終わった米袋は、以前は廃棄が一般的でしたが、2000年代初頭より新たな形へ生まれ変わらせる動きが出始めています。

特に、バッグへのアップサイクル(※)は拡がりを見せています。「米袋バッグ」と呼ばれ、自分用として制作することに留まらず、販売者も多数います。人気のポイントは、比較的安価ゆえ気軽に使えることや、ロゴを活かした個性の光るデザイン。さらには、SDGsの観点から時代に適したファッションアイテムとしても注目されています。米袋バッグの現状や人気作家を探っていくと、農業や農家にとってもプラスに働いていることもわかってきました。

※アップサイクル:従来は捨てられてきた廃棄物に、デザインやアイデアといった新たな付加価値を持たせることで、別の新しい製品に生まれ変わらせること。

クラフト紙の米袋が丈夫であることも人気の理由

米袋バッグは、ネットで検索すると、約 1,170,000 件の結果が出て来ます(2022年10月現在)。種類は、多くがトートバッグです。ネット上では販売もされており、販売元の中心は、フリマサイトやハンドメイド通販サイト。若者に人気がある衣料品や雑貨のセレクトショップも取り扱っています。ふるさと納税の返礼品とする自治体もあります。

ナチュラルな印象の薄茶色のクラフト紙と、そこへ印刷された産地名、米のブランド名、農園名等のロゴを活かして、「おしゃれ」なデザインへ昇華させたバッグは、年齢を問わず支持されているのです。値段は、700円台~3000円台。大手百貨店でも催事で販売されているほどとなれば、認知度の高さが伺えるのではないでしょうか。

米袋がバッグとして人気の理由は、丈夫であることも挙げられます。クラフト紙の米袋は、米の重さに耐えうる強度が求められていますので、大変丈夫です。大半の輸送時に使用される30kgの場合は、重包装用のクラフト紙を3枚重ねることが一般的とのこと。5kgや10kgの場合は2枚重ねることによって厚みを作り、強度を高めているとのことです。

法律が米袋のアップサイクルを流行らせることに

米袋バッグが初めて登場した時期は定かではありませんが、使用済み米袋の積極的な再利用の動きが出始めたのは、2004年以降と推測されます。これは米袋としての再利用ではありません。この頃は、「エコ」の言葉が一般に広く浸透し、「ロハス」の言葉がテレビや雑誌で語られ始め、環境を守る世界共通語として「MOTTAINAI」が国内外で注目を集めた頃にあたります。

転換点は2014年頃と考えられます。新潟の南魚沼で「米袋」の再利用を考えるコミュニティが立ち上がり、バッグの試作を開始したり、徳島の社会福祉法人によるリメイクしたバッグの商品化が地方新聞で紹介されたりしました。その後、2015年にSDGsが国連で採択され、17の目標が認知されていく中、米袋バッグメディアに取り上げられる回数が増え、現在に至ります。

そもそも使用済み米袋を再利用する動きが出始めた理由には、米袋に関する法律の存在があります。袋に表示された農産物検査の証明を消すことなく再び米を入れて流通させると、農産物検査法違反で1年以下の懲役又は100万円以下の罰金が科せられるのです。そのため、農家は大半の米袋を廃棄せざるを得なかったのです。日本全国の米袋の廃棄数は、いったいどれほどのものか。米袋は、30kgのタイプだけでも、毎年1億袋を優に超える数が全国の生産地で使用されていると米袋販売会社は伝えています。

農家もオーダーする米袋バッグ作家とは

このような背景下、現在では人気作家も登場しています。その一人が、関西を拠点に活躍する「BOCCA(ぼっか)」さんです。2020年から制作をスタートしており、大阪や神戸の百貨店から催事への出店依頼が後を絶たない作家です。制作数はスローペースを宣言しており、一人ですべてを制作しています。数字としては小さいものの、2020年100個、2021年200個、2022年9月現在で200個と年々増えています。主なバッグの種類は、保冷シートを取り付けた保冷バッグ「米袋鞄保冷TYPE」(米2合や米粉付き)税込3,850円。人気の理由は、デザイン性と機能性に優れている点です。

BOCCA:https://www.instagram.com/bocca_bocca_okome/

 

作り方は、農家から使用済みの米袋を送ってもらうことからスタートします。濡れたタオルで汚れをふき取り、アイロンで皺を伸ばし、バッグの型に裁断。天気を気にせず使えるようにと撥水効果のある柿渋を塗り重ね、乾かし、縫い合わせ、持ち手やチャック等を取り付けたら完成です。

一人の作家の想いが未来の農業を救う!?

BOCCAさんの最たる人気の理由といえるのが、農家への想いです。米袋バッグ制作で一番大切にしていることは、「農家さんをワクワクさせたいという想い」です。農家さんやお米屋さんの利益のために作ることを大切にしており、大きなイベントで米袋バッグを販売する際は、米袋元のお米や米粉等を付けて販売するように心がけておられます。

米袋バッグの制作を開始したときの想いは、子どもを産んだことがきっかけで芽生えました。「未来の子どもたちの周りに、たくさんの植物や食べ物があってほしい」という気持ちを抱いたのです。しかし、当時のBOCCAさんにはこのような心境がありました。

「そう思っても何もできない自分がいました。日々自然と向き合う農家さんを見つめることが未来の環境を考えるきっかけになるのではと思うようになって。すぐに農業を始めることはできないので、まずは農家の応援をできないだろうか、という想いに至りました」

現在、注力しているのが、農家とのアップサイクル企画。農家は、米に荷物専用封筒を付けて販売。消費者は、封筒に食べ終わった米袋を入れて投函すると、BOCCAさんの元へと届き、バッグに仕上げてもらえる流れです。消費者からのオーダーも増える今、時には、お子さまが絵を描いた米袋を送って下さることや、米袋バッグを学校へ持参してもらっていることもあります。

このような流れを通じて、BOCCAさんは今後の将来を以下のように思い描いています。

「子どもの頃から、お米を選んだり、お米を楽しんだり、そんなふうになってほしいですね。欲を言えば、農家さんに憧れるきっかけになってもらえたら嬉しく思います」

BOCCAさんは、農家を、百貨店を、そして将来を担う子どもを動かすことで、単に制作販売するだけではなく、米袋バッグそのものが、農業と農家の応援につながるアイテムであることを証明してくれているのです。

持続可能な農業には様々な課題があることから、多様な支えが必要です。トプコンも農家と農業を応援するために、「農業の工場化」を実現するDXソリューションを提供しています。DXソリューションによって農作業の品質向上や効率化を図り、持続的な米づくりに貢献していきます。

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