2023-02-24

指で読む文字「点字」にふれてみよう

目次

「人が外界から得る全情報の80%は目から得ている」という説があります。実際、私たちは様々なことを見た目で判断しています。裏を返せば、私たちの周囲は目から情報を得るもので溢れているということです。たとえば文字は、目で見なければ読むことができません。ただ、もし「目で読む」文字よりも先に「指で読む」点字が発明されていたら、目から得る情報度は今ほど高くなかったかもしれません。

 

近年、私たちの周りの環境は、バリアフリー(障害者や高齢者が障壁となるものを取り除く)ではなく、誰もが使いやすい環境をつくる「ユニバーサルデザイン」の考え方へと変化してきています。点字は、目が見える人も見えない人も、誰もが読むことのできる、まさにユニバーサルな文字です。

 

駅などで点字を見かけることは多いと思いますが、実は家電や調味料などの食品、生活雑貨などの中には点字が付いているものもあります。みなさんも家の中を探せば、一つくらいは見つけられるかもしれません。暗い中でも文字が読めたり、ものの場所を判別できたりする点字は、目が見える人にとっても有意義であるはず。「目が見えない人が読む文字」と決めつけず、点字の世界を少しのぞいてみませんか?

点字は元々目が見える人による発想から生まれた

 

点字が発明されたのは1825年。世界で文字が発明されたのが紀元前3000年頃なので、5000年近くもの間、世界には「目で見る文字」しかなかったことになります。長い間、目が見えない人は、誰かに頼って生活するのが当たり前だとされていて、専門の教育を受ける場所もありませんでした。

 

盲学校が世界で初めてフランスのパリにできたのは、今からたった300年ほど前の1784年のこと。点字が発明されるまでは、アルファベット文字を浮き彫りにした「凸字」が使われていたそうです。点字は、その盲学校の学生、ルイ・ブライユによってつくられました。

1809年に生まれ、3歳で失明してしまった彼は、10歳からその盲学校に通い始めます。そして、16歳のとき、6つの点だけでアルファベット、記号、数字を表す点字を完成させたのです。しかし、彼が全くの無から点字を生み出したかというとそうではありません。実は、点字の元となる「文字を点に置き換えて表記する」ことを考案したのは、目が見えるフランスの軍人シャルル・バルビエという人物。

 

戦場で夜でも触ってわかるようにと考案した暗号を、目に見えない人用に改良し、盲学校に紹介したのが始まりです。それは盲学生たちにとって、とても画期的なことでした。ただ、そのときの点字は12の点と線を組み合わせるもので、ひとつの指におさまらず、読むのに時間がかかりました。そこで、ブライユが長い時間をかけて試行錯誤をし、6点だけで表す現在の点字を考え出したのです。

 

ひらかな、カタカナに並ぶ文字、日本の点字が誕生

 

フランスで発明された点字が日本で使われるようになったのは1887年頃のこと。その後、日本の五十音を表す点字に改良され、1890年11月1日に国に認められました。

では、日本の点字はどのような仕組みになっているのでしょうか。点字は、横2列×縦3段の6点を1マスとし、指で触って読みます。上の段2点と真ん中の段の左側1点は母音を、真ん中の段の右側と下段の2点で子音を表現します。

 

たとえば「あ」は、左上の点1つで表現し、「か」は、カ行を表す右下の点を追加します。「が」は、「か」のマスの前に、濁音を表す真ん中右側の点をつけたマスを置き、2マス使って表現します。このように、点の位置に意味を持たせ、数字や句点、記号、楽譜まで、あらゆる文字を点字で表します。しばしば、点字は符号と表現されることがありますが、点字は、ひらがな、カタカナに並ぶ文字です。選挙で、点字で投票した票が白票とみなされかけたり、点字を読めない人が解読したりすることがあるそうです。日本の文字文化のひとつとして、点字に親しむ人がもっと増えれば、こういった状況はなくなるかもしれません。

 

点字ブロックに関する事故が多発

 

点字が、今私たちの周りに多く存在していることは先述しましたが、小さく突起した点のみで表記されているので、気づかない人が多いかもしれません。しかし、点字ブロックなら見たことがあるのではないでしょうか。点字ブロックは、正式名称を「視覚障害者誘導ブロック」といい、表面に付けた突起によって、危険箇所や進行方向を示します。うっすらとだけ視力がある人でも気づきやすいように、目立つ黄色が使われています。

駅のホームにある点字ブロックは、目が見える人にとっても、発着する電車との安全な距離を示してくれているユニバーサルなブロックといえます。しかし、突起部分はあくまで目が見えない人が利用するもの。点字ブロック上を、スマホを見ながら歩く「点ブロスマホ」をしていた人や、点字ブロック上に路上駐輪をした人が原因で、ブロックを頼りに歩く人が転倒するなどの事故が社会問題化しています。

 

点字ブロックが設置されている場所も、全国的に見るとまだまだ少ないのが現状。2022年4月には、踏切の位置に点字ブロックがなく、線路内に入ってしまった女性が電車にはねられて死亡する事故がありました。この事故を受け、今後は、踏切の手前や踏切内での点字ブロックの整備が検討されています。

年齢・性別・障害の有無に関わらず、誰もが安全に住みやすいユニバーサルな環境を整えることは一朝一夕ではできません。しかし、一人ひとりの心の中の垣根を取り除いていくことで、実現は一歩早まるはずです。点字ブロックや点字の整備が遅れたことで起こる事故がなくなるよう、私たちも意識していきたいですね。