2023-11-22

眼鏡作りのエキスパート「眼鏡作製技能士」って何?

目次

日本は近視大国ともいわれるほど、多くの人々が眼鏡を利用しています。「眼鏡DB2021」(眼鏡光学出版)によれば、日本の眼鏡装用人口は約7,971万人で、国民の半数以上が眼鏡を使用していることになります。視力を補正するだけでなく、ファッションアイウェアとして、また、太陽光やブルーライトを防ぐアイテムとして利用している人も多いでしょう。

 

今は、インターネットで格安の眼鏡を入手できる時代ですが、一人ひとりのかけ心地や見え心地にこだわった眼鏡を作るには、専門的な知識と高度な技術が不可欠です。そんな中、2022年11月、その技術や知識を評価する国家資格「眼鏡作製技能士」が新設されました。どのような資格なのでしょうか。新設された背景や資格の重要性について、詳しく解説していきます。

眼鏡作製技能士とは?導入に向けた苦節の日々

眼鏡作製技能士とは、厚生労働省によって新たに設けられた国家検定資格で、眼鏡作製において、顧客に最適な提案・販売・ケアを行うエキスパートのことを指します。これまで、眼鏡作製者(眼鏡士)の技術や知識を評価する資格は、公益社団法人日本眼鏡技術者協会が認定する民間資格しか存在しませんでした。国家資格制度が必要であるという議論は、1960年から行われていましたが成立させることができず、2001年に認定眼鏡士制度という形で民間資格制度をスタートさせたのです。しかし、その後も国家資格制度の導入は業界から切望され続け、2011年に眼鏡技術者国家資格推進機構を設立。様々な調査や議論が繰り返され、実に10年以上の歳月を経て国家資格の設立に至ったのです。

世界の40カ国以上では眼鏡作製の資格制度を導入

どうして眼鏡士にそれほど国家資格が切望されていたのでしょうか。その背景のひとつに、海外との比較があります。実は、先進国の中で眼鏡士に対する国家資格を持たない国は、とても珍しいのです。例えばドイツでは、13世紀から続く「ドイツ国家公認眼鏡マイスター」という伝統ある国家資格を設けています。眼鏡士としての最高職位の称号で、取得までに10年の修行が必要であり、人生で3回までしか受けられない厳しい試験です。また、アメリカでは「オプトメトリスト」という国家資格を持った検眼医が、目や眼鏡の相談を行い、その処方箋がなければ、眼鏡を作ることができません。海外では既に、個々に合った眼鏡を作るために高い技術や知識が必要であることが、随分前から認められているのです。

 

眼鏡作製は、単に視力が1.0や1.2になるように調整するだけではありません。眼鏡をかける人が日常生活で遠くを見ることが多いのか、手元を見ることが多いのかなどを考慮し、その人が生活するうえで理想的な見え方になるような眼鏡を作ることが必要です。眼鏡の形状についても、単に似合うだけではなく、長時間つけていても疲れないように、顔の形に合わせたミリ単位の調整が欠かせません。もし、「眼鏡をかけていたら余計目が疲れた」という経験があったとしたら、その眼鏡は、自分に合っていないのかもしれません。


眼科医と眼鏡店が連携して眼疾患の早期発見へ

国家資格の導入で最も着目したいのが、眼鏡士と眼科専門医との連携が規定されたことです。①目の状態が疑わしい場合、②幼児・学童に作製する場合、③遠用あるいは近用眼鏡を初めて作製する場合には、眼科医が記載した眼鏡処方箋が必要となります。45〜79歳を対象とした眼鏡技術者国家資格推進機構「累進眼鏡の使用実態調査報告書」(2014年5月)によると、眼鏡を購入する際、「眼鏡店だけで視力の測定を実施した」と回答した人が84.7%にも及びました。多くの人が、目が見えづらくなっても、眼科医の診断を受けずに眼鏡を作ろうとしていることがうかがえます。しかし、眼鏡をかけて視力が改善されたら、さらに眼科を受診しようとしなくなるため、重大な疾患を見逃すリスクにつながります。眼鏡士が眼科医療機関の受診を勧めることで、眼疾患の早期発見につながる可能性があります。


国家資格の新設で日本の眼鏡事情はどう変わる?

現代社会では、高齢化に伴う目の衰えや、スマートフォン等の普及による特に子供の視力の低下の影響が議論されるなど、様々な対応が求められています。顧客のニーズが多様化・高度化するなかで、適切な眼鏡作製には、今後より高度な技能や専門的知識が必要になるでしょう。国家資格の新設は、このような技能を持つ人材を多く輩出する役割を果たします。国家資格を持つ眼鏡士が登場したことで、購入する側の私たちにとっても、より良い眼鏡を作るためのサポートが期待できます。眼鏡作製技能士は、一般社団法人 日本メガネ協会が運営する公式サイト「かけごこち」で検索できます。今後、国家資格を持つ眼鏡士が増えることで、さらに高品質の眼鏡を作製・購入できるようになることが期待されています。

※参考文献(一部)眼鏡作製技能士検定の特例講習会公式テキストより