2024-01-24

レンズで物が大きく見えるのはなぜ?

目次

私たちの日常生活に欠かせないレンズ。眼鏡や顕微鏡、カメラ、望遠鏡などはもちろん、測量機や眼科の検査機器など、さまざまな機器で使われています。レンズを通して物を見ると、裸眼では見えにくい細部がクッキリと見えたり、遠くの物が大きく見えたりするのはどうしてでしょうか。今回は、レンズの誕生から現在の技術、レンズの仕組みについて詳しく解説していきます。

レンズの語源と歴史

レンズとは、ガラスやプラスチックなどの透明な物質でつくられた片面もしくは両面が球面になっているもののことです。球面が膨らんでいるものを凸レンズ、へこんでいるものを凹レンズといいます。「レンズ」という言葉は、ラテン語でレンズ豆を意味する「Lens」に由来しています。レンズ豆の形が凸レンズに似ていることから命名されました。ちなみに、レンズと機能が似ているといわれる目の水晶体のことも英語で「lens」といい、これもレンズ豆に由来しています。レンズ豆は、レンズに形が似ているから名付けられたのではなく、実際は逆でレンズがレンズ豆に似ているから名付けられたものです。

 

レンズの歴史は紀元前にまで遡りますが、最初は物を見るためではなく、太陽光を集めるためや、装飾品として使われていました。レンズが拡大鏡として広く使われ始めたのは13世紀頃からです。この頃に、片面が平らな凸レンズを使用したリーディングストーン(読書石)が登場し、文字を拡大して読むことができるようになりました。当時の人々も老眼に悩まされていたでしょうから、レンズの登場に助けられた人は多かったはずです。その証拠に、物をよく見るためのレンズは急速に広まり、同じく13世紀に眼鏡が発明されました。さらに、16世紀に顕微鏡、17世紀に望遠鏡が誕生しました。

レンズの仕組み

浮世絵で有名な葛飾北斎(1760〜1849)が描いた絵本『富獄百景』の中に、富士山が逆さまになって障子に映り、それを見て驚く人の姿が描かれた「さい穴(節穴)の不二」という絵があります。なぜ室内に富士山が逆さまに映ったのでしょうか。それは障子の向かい側にある雨戸に小さな穴(節穴)が開いていて、富士山に反射した光が節穴を通って障子に像を映し出していたからです。物体が発した、または反射した光は四方八方に広がって真っ直ぐ進む性質があります。従って、富士山の上部からの光は障子の下の方に届き、下部からの光は上方向に届くため、上下が逆になって映し出されたのです。この現象はピンホールカメラに応用されています。ピンホールカメラは単純な構造で像を投影できますが、得られる像はとても暗くなります。この像を明るく鮮明にするためには、より多くの光を集める必要があります。そのために活躍するのがレンズです。

光は、真っ直ぐ進む性質のほかに、水やガラスなどの透明な物体を通るときに屈折する性質も持っています。凸レンズは外側に膨らんでいるため、入射する光を内側に屈折させて1点に光を集めることができます。そのため、遠くのものでも近くに光を集めて大きく見ることが可能になるのです。一方凹レンズは光を拡散させるため、視野を広げることができます。老眼鏡は凸レンズ、近視眼鏡は凹レンズが使われています。顕微鏡や望遠鏡、カメラのレンズなどは、これらのレンズを組み合わせることで、肉眼では見えない物を大きく見せたり、広い視野を見せたりすることを可能にしています。

レンズを使えば視力はどれだけ上がる?

レンズを使うことで、人間の視力はどれほど向上させることができるでしょうか。視力に換算して比較してみましょう。一般的なメガネで補正可能な視力は1.0〜1.5程度です。望遠鏡の視力は、口径が大きいほど上がります。例えば、ハワイにある「すばる望遠鏡」の分解能(ものを識別できる力)を視力にたとえると1000で、約5km離れた位置からでも視力検査表の1.0を識別することができます。ただし、地球には大気があり気温が一定でないため、その温度差で光が屈折して像が歪んでしまうことから、実際の視力は100程度まで低下してしまうそうです。大気の温度差がない宇宙空間にある「ハッブル宇宙望遠鏡」なら、地上では困難な高い精度での天体観測が可能です。

 

現在、レンズは拡大鏡としての役割だけでなく、CD/DVDプレーヤーやコピー機、レーザープリンターなど、様々な光を使った製品でも活躍しています。レンズの技術は日進月歩で進化しており、近年では、ナノテクノロジーやコンピュータ技術を駆使した高度なレンズも開発されています。これらの技術をVR(仮想現実)やAR(拡張現実)と組み合わせることで、実際には存在しない物まで見ることができます。

 

トプコンの製品の中にも、さまざまなレンズが入っています。レンズを通して正確な座標をはかる測量機、レンズを通して眼の検査をする検査機器など、90年以上の歴史を通して培ってきた技術の結晶が詰まっています。

これからも、レンズの可能性は無限大に広がっています。私たちの生活を豊かにし、未知の世界を探求する手助けをしてくれるレンズのさらなる進化が期待されます。

 

参考

すばる望遠鏡の本体
すばる望遠鏡 観測成果