2023-07-13

「目」の慣用句から垣間見る、目でわかる心情とは?

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「目は口ほどに物を言う」「目は心の窓(鏡)」などのことわざがある通り、目には人の感情が如実に現れます。口でやさしい言葉をかけられても、目が笑っていない人の本心は分からないと感じることがあります。逆にぶっきらぼうな言葉遣いであっても、目に温かさを宿している人にはなぜか安心感を覚えた経験もあるでしょう。目のまばたき一つ、視線の方向一つに、その人の心情や状況が表れてしまうものです。

 

「目力がある」「目が泳ぐ」「目くじらを立てる」「目を見張る」「目を皿のようにする」「目が光る」など、目の動きや様子で、人の心情や状態を表現することもしばしばあります。今回は、そんな「目」という言葉を使った表現に焦点を当て、その言葉が生まれた背景や意味を探ってみましょう。

人間は霊長類のなかでも視線の動きが分かりやすい

人の目にはどうして感情が現れるのでしょうか。その理由の一つが、霊長類の中でも人間は、白目の部分が目立つためだと考えられます。多くの動物は白目がなかったり、少なくなっていますが、人間の場合は白目が多いため、顔を動かさなくてもどこを見ているか分かりやすくなっています。

 

このおかげで、人間は他人とアイコンタクトを取ることができます。声を出さずに他人とコミュニケーションが取れるアイコンタクトは、人間が狩猟生活をしていた時代にとても重要だったと考えられ、そのために人間は白目の部分が進化したという説があります。一方で、ほかの動物は、視線の動きで敵に逃げる方向を悟られないように白目は進化しなかったともいわれています。どちらの説も定かではありませんが、何らかの進化の結果、人間は白目が目立つようになり、視線の動きを容易に読み取れるようになったのです。

無意識でも動く視線や瞳の大きさで感情が読み取れる

視線は自分で意識的に動かすことができますが、無意識に動くこともあります。例えば、突然何か音が聞こえた際、「見よう」と意識しなくても、視線が勝手に動いているのではないでしょうか。また、人は目を大きく見開くことはできても、瞳(黒目の中央の部分)の大きさを自分でコントロールすることはできません。

 

「種の起源」で有名なダーウィンは、約150年前の著書『人及び動物の表情について』で、心の奥底にある無意識にある感情が、神経系のしくみなどによってうっかり体の表面に現れ、同時に「表情を読み取る力」も進化してきたと説いています。目に感情が現れるようになったからこそ、人間は相手の心情を知りたいときに目を見ることが多くなったのかもしれません。


視線の動きや目の形で感情を表す慣用句が多く存在!

目に心情が現れやすく、私たちが相手の目から情報を読み取ることが多いということは、目の慣用句が多いことからも分かります。これらの慣用句には、ある感情を抱いたときの目の特徴が端的に表されています。以下に、いくつかをピックアップしました。

 

・目が泳ぐ
自信がないときや嘘をついているときに、視線が定まらなくなることから、人が不安や緊張、困惑しているときの状態を表す。

・目を瞠る(みはる)
信じられないほど素晴らしいものを目の当たりにしたときに、目を大きく開けることから、驚きや感嘆の感情を表す。似た表現で「目を丸くする」もある。

・目を皿のようにする
細かい部分にまで注意を払う際に、視線を広く開くことから、注視する様子や何かを探している状態を現す。

・目が光る
情熱や活力があるとき、人の目が生き生きと輝くように見えることから、喜びや興奮、決意などの強い感情を示す。

・目くじらを立てる
怒ったときに、目くじら(目尻)がつりあがって見えることから、ささいなことを取り立ててとがめる様子を表す。

※参考文献/大辞林、新明解国語辞典(三省堂)、全訳古語辞典(学研)

 

「目力」は、意識的に養うことも可能?

目に関する表現では、「目力がある」という言葉もよく耳にします。「目力」とは、目の表情や視線が与える印象のこと。視力や眼力(事物の善悪を見分ける能力)とは異なり、その人の思いや魅力が現れた目の表情のことをさします。目力がない人のことを「目が死んでいる」と表現することから、目力がある人は、生き生きとして生命力に溢れ、目を見つめると惹きつけられるような感情を覚えます。これは、無意識下にあるポジティブな心情がまさに目に現れている状態といえそうですが、ほかにも目力を強くする要素があります。

 

例えば、目がパッチリとして黒目が大きく見える人、相手の目をしっかりと見て話す人、澄んだ目をしている人などは、目力が強い印象を与えやすいようです。これらの要素は、ある程度意識して改善したり強調したりすることができます。具体的には、アイメイクで目を際立たせる、相手の話を聞くときは視線を合わせる、目が疲れたら適切なケアをする、などといった方法です。

 

目は、良くも悪くも相手に様々な情報を与えます。自分の目や話相手の目に気を配ることで、円滑なコミュニケーションにつながるかもしれません。