2024-04-23

「建設業2024年問題」の解決に向けたICT化の取り組み

目次

日本は、少子高齢化や働くニーズの多様化に対応するために「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案」(いわゆる「働き方改革関連法」)を、2018年6月に成立させました。この中で、約70年ぶりに「労働基準法」が見直され、罰則付きの時間外労働の上限規制が設けられました。建設業は、2019年4月の施行開始から5年間の猶予期間が与えられましたが、その期間もついに終了。2024年4月から「建設業の2024年問題」といわれる、労働環境改善が求められていきます。この課題の解決の鍵を握るのが、情報通信技術(ICT)を活用した生産性向上。国土交通省が2016年から推し進め、2024年4月には2.0も発表された「i-Construction」の導入です。

 

本記事では、建設業がなぜ2024年問題に直面しているのか、そしてi-Constructionへの取り組みが、どのようにしてその解決策となり得るのかを解説します。

建設業界の労働時間と働き手の変遷

現在建設業界は、技能者不足が深刻化しています。国土交通省が2023年にまとめた「建設業を巡る現状と課題」によると、2022年度時点で建設業の年間実労働時間は、全産業平均と比べて90時間も長く、20年前と比較した減少幅も約50時間と小さい(全産業平均の減少幅は約90時間)ことが指摘されています。他産業では当たり前となっている週休2日制が実現できていない実態もあるようです。

 

その背景の一因となっているのが就業者不足です。同資料によると、2023年の就業者数平均は479万人で、1997年のピーク時から約30%も減少。年齢層では55歳以上の就業者が35.9%なのに対し、29歳以下は11.7%と少なく、その上2022年より2万人も減少しており、高齢化が進んでいることも分かります。

技能者の高齢化も切実です。60歳以上の技能者は全体の約4分の1(25.7%)も占めており、10年後にはその大半が引退することが見込まれます。これからの建設業を支える29歳以下の技能者の割合は全体の約12%程度に過ぎず、若年層の確保・育成のためには、働き方改革、担い手の処遇改善、生産性向上の3つを一体として進めることが急務なのです。その解決策の一つとして、国が進めているのが「i-Construction」の導入です。

i-Constructionとは?

i-Constructionは、建設業界の生産性を向上させるために、国土交通省が推進している取り組みです。調査・測量、設計、施工、検査及び維持管理・更新のあらゆるプロセスにICT(情報通信技術)を活用することで、建設現場の作業効率を高め、品質の向上、コスト削減、そして労働環境の改善を図ることを目指しています。

 

国土交通省は、2016年を「生産性革命元年」とし、ICTの活用を前提とする公共工事を大量に発注し始めることでi-Constructionの普及を目指しました。日経BP社発行の「建設テック革命」では、i-Constructionの生みの親である当時の国土交通大臣、石井啓一氏のインタビューが掲載されています。これによると国土交通省は、同省が発注する大規模工事を対象に、ICTを活用した「土工」(山を削る「切り土」や土を盛る「盛り土」のこと)工事を全国で584件実施しました。具体的には、工事に入る前の測量にドローンを活用して地形の三次元データを取得したり、ICT建設機械に三次元設計データを入力して、半自動で施工したりといった工事に取り組んだのです。

 

それまで二次元の図面を基に進めてきた工事から、三次元データを使用するにあたり、新たな基準も整備しました。その結果、データの整理も含めて2週間ほどかかっていた測量作業が、わずか数日で済むようになりました。熟練オペレーターでなければ難しい作業も、ICT建設機械を導入することで、少し練習するだけでできるようになったそうです。

石井氏は、IoTやAIといった革新的な技術を建設現場に取り入れることで、国内の労働人口が減っていくなかでも、それを上回るだけの生産性向上を実現し、経済成長を果たすことが可能だと語っています。

i-Constructionの今後の取り組み

国土交通省は、2025年度までに建設現場の生産性を20%向上させることを目指してi-Constructionを推進してきました。2023年12月に開催された「i-Construction推進コンソーシアム(第9回企画委員会)」で公開された資料では、今後3年以内に、橋梁・トンネル・ダムの工事にICTの活用を拡大し、産学官連携によるi-Construction推進コンソーシアムの設置や、広く官民で活用するためのオープンデータ化の検討、さらに、建設分野以外の最新技術を建設現場で活用するための方針も示されました。

 

そして2024年4月には、国土交通省の新たな建設現場の生産性向上(省人化)の取り組みとして「i-Construction 2.0」が策定されました。「施工のオートメーション化」「データ連携のオートメーション化」「施工管理のオートメーション化」を3本の柱として、2023年度比で2040年度までに少なくとも3割の省人化、すなわち生産性を1.5倍向上することを目指しています。達成するためには、国土交通省が発注する大規模工事だけでなく、地方自治体や小規模工事への普及が必要です。

i-Constructionにより、将来的には、人手不足の状況下でも生産性・安全性が最大限高まるような建設施工の自律化・遠隔化などが実現する社会を目指しています。日本政府が提唱する、AIやロボットなどの革新的な技術によって、人間がより快適に生活できる未来社会「Society5.0」の実現にも寄与するのです。

トプコンが取り組むi-Construction

トプコンは、i-Constructionの推進に積極的に取り組んでいます。建設現場を楽しく・やりがいのある、ワクワクできる職場へ変えていきたいという想いから「楽コン」をコンセプトに掲げ、DXソリューションによって建設現場の変革をサポート。全国4ヵ所にICT施工のワークフローを体験できるトレーニングセンタを配置し、ノウハウを提供しています。さらに地方自治体におけるi-Construction普及促進を図るため、自治体と連携し、地場の建設会社へ向けたi-Construction講習会や体験会なども行っています。

建設現場の変革は、今や待ったなし。現場作業員の負担を軽減しながら、プロジェクトの精度と効率を大幅に向上させるICT活用を今後の建設業界における新たな標準とするべく、トプコンはi-Constructionの推進に一層力を入れていきます。

 

<参考文献>
厚生労働省「働き方改革関連法の概要と 時間外労働の上限規制」

国土交通省「建設業を巡る現状と課題」

国土交通省「i-Construction」の推進

国土交通省「『i-Construction 2.0』を策定しました」

厚生労働省「働き方改革〜一億総活躍社会の実現に向けて〜」

国土交通省「i-Constructionの更なる展開」

トプコン「i-Construction(アイコンストラクション)とは」

・日経BP社「建設テック革命」

・日刊建設通信新聞社「建設人ハンドブック2023年版」