2023-05-18

日本のインフラは今や”高齢化社会”って本当?

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インフラとは、広辞苑(第6版)によると、「産業や社会生活の基盤となる施設。道路・鉄道・港湾・ダムなど産業基盤の社会資本、および学校・病院・公園・社会福祉施設等の生活関連の社会資本など」のこと。Infrastructureの略で、ラテン語の「下部」を意味する「インフラ」と、構造を意味する「ストゥルクトゥーラ」が語源だといわれています。

 

ローマ帝国の時代から、インフラは国を支える重要な役目を担っていたのでしょう。しかし、私たちは普段、これらインフラを利用しているという意識はほとんどありません。鉄道や道路はまだしも、ダムや堤防、水道設備などは、恩恵を受けながらもその実態を知らない人のほうが多いのではないでしょうか。さらに、これらインフラが”高齢化”を迎えていることも、あまり知られていないかもしれません。そこで今回は、日本のインフラの実情と問題点、今後の展望について探ります。

日本で近年発生したインフラ事故

2012年、中央自動車道の笹子トンネル(山梨県)で、天上板が約140mにわたって崩落。3台の車が下敷きになり、7名が死亡する事故が発生しました。日本は、この事故を契機に、道路管理者に対して5年に1度の点検を義務付け、2014〜2018年度に橋やトンネル、歩道橋などの道路付属物に対する一巡目の点検が行われました。その結果、橋の約1割、トンネルの約4割、道路付属物の約1.5割が、5年以内の修繕が必要だと露呈。費用と便益の観点から修繕を諦め、撤去・廃止の決定を余儀なくされた箇所も多くあります。

道路だけでなく、水道設備も老朽化が進んでいます。道路から水道が吹き出しているというニュースは近年、度々目にしますが、実に全国で年間2万件もの水道の漏水、破損が起こっているそうです。2018年の大阪北部地震でも、広範囲で水道管が破裂し、断水が発生しました。2021年10月にも和歌山市で水管橋の崩落事故が発生し、約6万世帯が断水するなど、日常生活に大きな影響を与えました。

 

インフラ事故を招く大きな原因とは?

なぜ、建設技術の発達した現代においてもインフラの事故が起きているのでしょうか。その大きな原因が、インフラ設備の老朽化です。日本は1945年の終戦から10年余りでおおよその復興をし、飛躍的な経済成長を遂げました。

 

人口の急増や自動車の普及などでインフラ整備が喫緊の課題とされたなか、1964年には東京オリンピックの開催が決定。着工からわずか5年間で東海道新幹線を開業したほか、地下鉄整備、東京モノレールの開通、上下水道整備など、東京を中心に大規模なインフラ整備が急ピッチで進められました。これを皮切りに全国でもインフラ整備が進められ、日本は先進国の仲間入りを果たしたのです。

 

しかし、戦後80年を目前にした今、当時整備されたインフラ設備は一斉に老朽化を迎えています。国土交通省によると、今から10年後の2033年には、約73万の道路橋(橋長2m以上)のうち約67%が、建設後約50年を迎えます。ほかにも、約1万ある河川管理施設では約64%が、約5千ある港湾岸壁では約58%が、約1万本のトンネルでは約50%が、建設後約50年を迎えることが分かっています。まさに、日本はインフラの高齢化社会を迎えるのです。

日本のインフラ老朽化対策とは?

日本に先んじて、1930年代のニューディール政策により大規模なインフラ整備が行われたアメリカでは、1980年代に入ってから崩落、損傷、通行止めが相次ぎ、インフラの老朽化問題が深刻化しました。学童を乗せたスクールバスが、橋梁の重量制限のために迂回しなければならなかったり、学童が橋の手前でバスを降りて歩いて渡ったりしている記録が残るなど、日常生活にも様々な影響を及ぼしました。1981年には、劣化するアメリカのインフラ状況について警鐘を鳴らす『荒廃するアメリカ』が、パット・チョートとスーザン・ウォルターにより書籍化。「荒廃するアメリカ」という言葉が、インフラ老朽化に直面する1980年代のアメリカを象徴するようになりました。

 

日本は、この時のアメリカを教訓とし、「荒廃する日本」にならないための対策を迫られています。笹子トンネルの事故があった翌年の2013年を「社会資本メンテナンス元年」とし、「将来を見越した」取り組みとして、戦略的・計画的な社会インフラのメンテナンスを実施することを決定しました。

 

具体的な例では、インフラに不具合が生じてから対策を行う「事後保全型」ではなく、不具合が生じる前に対策を行う「予防保全型」の維持管理・更新へと移行。これにより、30年間の維持管理・更新費の合計費用が、約3割縮減される推計結果が出ています。人間も、健康寿命を伸ばすために予防医療(病気にかからないように予防する医療)の必要性が求められていますが、インフラ設備においても同じように、不具合を未然に防ぐ対策が進められているのです。

点検技術や人材不足対策にトプコンが貢献

「予防保全型」の維持管理・更新への移行には課題もあります。従来の点検では、約8割の自治体で、双眼鏡を使った遠望目視が主に行われていました。しかし、第三者機関が近接目視で再点検したところ、約3割で点検結果が異なったそうです。そのため現在は、すべての橋やトンネルで「打音検査が可能な距離まで近づく近接目視」が義務化され、必要に応じて打音検査を含む非破壊検査を実施しています。このような点検方法の変更に伴い、新しい技術やそれに伴う人材が必要になり、点検者や施工者の人手不足が深刻化しつつあります。

トプコンでは、高精度の測距・測角により構造物の変位を計測する、観測向けのトータルステーション「Measuring Station MS05AXII/MS1AXII」を提供しています。指定した範囲をスキャニングし、ターゲットの位置を自動認識。変位計測の作業を大幅に効率化する独自の機能を備えています。オンラインで遠隔操作を行えるため、点検の人手不足にも対応し得る製品です。

迫りくるインフラ設備の高齢化問題に立ち向かうため、トプコンはこれからも貢献できる製品を提供し続けます。

「Measuring Station MS05AXII/MS1AXII」製品情報