2023-03-10

通常の道路よりもシビア?サーキット舗装の実例

目次

多くの車が通ることで傷み、定期的なメンテナンスを必要とする道路のアスファルト舗装。街では多くの舗装工事が夜間に行われるため、目にすることは少ないかもしれませんが、スムーズな車の走行のためには、凹凸のない滑らかな舗装が不可欠。そしてその舗装には、高い技術が必要なのです。今回は通常の道路の舗装よりさらにシビアな、サーキットの舗装の実例を紹介します。

シルバーストンサーキットはトプコンの再舗装技術で、名門の名を取り戻した

 

イギリス・シルバーストンサーキット~名門サーキットの危機

イギリスにある「シルバーストンサーキット」は、1950年の第1回F1世界選手権 開幕戦が行われた名門コースです。長い歴史の中で幾度も改修が行われましたが、2018年の改修で路面コンディションに異変が生じます。

改修直後のF1イギリスGPでは「路面がバンプ(凹凸)だらけだ」「こんなに酷い路面は今まで走ったことがない」とドライバーからクレームが噴出。さらに路面の排水性能にも、舗装不良による深刻な問題が発生しました。F1の1ヵ月後に開催されたオートバイロードレースの世界選手権シリーズ Motoグランプリ第12戦は、練習中のライダー数名がコース上の水たまりでクラッシュして重傷を負ったうえ、全クラスの決勝が中止になりました。

こうした状況から、シルバーストンサーキットはモータースポーツ競技を開催するためのトラックライセンスが停止されます。翌2019年の各レースを予定通り開催する条件は、レース日程に支障のないよう、コース全体の完全な再舗装工事を早急に終えること。しかも塗装面の精度、平滑性(平らで滑らかなこと)、排水性(水はけがよいこと)の要求は非常にシビアでした。

 

モータスポーツの聖地、シルバーストーンサーキット。F1で最も格式の高いコースである

この工事を受注したのは、イギリスの大手道路舗装会社 Tarmac社。そしてTarmac社が「短期間・高精度」のハードルをクリアするために活用したのがトプコンの切削機・フィニッシャーシステム(SmoothRide)です。

問題解決にはサーキットを完全に再舗装する必要がありました。そのためには、まず既存の路面を精密にスキャンして凹凸の位置や分布を正確に計測し、その情報を元に最小限のアスファルトの表層を切削。そこにアスファルトを運搬し再舗装するという、一連の作業を並行して進めることが求められました。

ミリ単位の精度で新しい路面を設計し、全幅15m、全長約6km、面積にして87,000㎡のサーキットコースを高精度に再舗装するこの大型プロジェクトが開始されたのは、2019年のF1グランプリが約1ヵ月後に迫る同年6月。この時期のイギリスを襲う気まぐれな豪雨にも悩まされながらも、再舗装に要した日数はわずか3日。古い路面の撤去から最終舗装まで含めても、実に16日間で要求精度をクリアし、この再舗装の工事は完了しました。シルバーストンサーキットは見事トラックライセンスを回復。7月のF1-グランプリ、8月のMotoGPを無事に開催して、世界中のモータースポーツファンを安堵させました。

「マリーナ・ベイ・ストリートサーキット」赤道直下の市街地コースに、計測・切削・再舗装の自動制御で挑む

同じF1グランプリのコースでも、シンガポールには別の難しさがありました。先に紹介したシルバーストンサーキットは、モータースポーツ専用施設として独立した、常設の「クローズドサーキット」と呼ばれます。一方、普段は一般車両が通行する公道を、レース期間中のみ競技コースとする仮設・臨時の市街地コースのことを「ストリートサーキット」といいます。シンガポールのF1コース「マリーナ・ベイ・ストリートサーキット」は、この「ストリートサーキット」。市街地を縫って伸びる、カーブに富んだ道で、一般車両の通行による傷みも多い公道。その細い道を、走る超精密機械とも呼ぶべきF1マシンを生身のドライバーが駆り、平均時速200km超で疾走するのです。

「マリーナ・ベイ・ストリートサーキット」では、9月に開催されるF1グランプリに先がけて、レース用の特殊な路面舗装を毎年施します。しかし、工事中は道路を封鎖するため、地域経済や社会機能への影響を最小限に抑える配慮から、工事日程は極力圧縮しなければなりません。もちろん、近隣建物や周辺交通、通行者、工事関係者など、全体を考えた安全管理も重要です。

モナコと共にシンガポールでは市街地をサーキットにしている

シンガポールの大手ゼネコンLian Beng Groupの傘下に位置するアスファルト舗装会社 United E&P社は、2018年と2019年の2年連続で、この「マリーナ・ベイ・ストリートサーキット」整備を受託。United E&P社がこのハードモードなプロジェクトを成功させるために選んだパートナーは、トプコンの切削機・フィニッシャーシステム(SmoothRide)でした。

工事のための通行止めは、深夜午前1時から早朝5時まで。許された作業時間は1日4時間弱。短時間で効率よく高精度の工事を完了するには、正確な現状データ収集と作業の自動化が不可欠です。厳しい工事日程、深夜も高温多湿な赤道直下の気候、巨大観光都市の市街中心部。この条件下で、4mの舗装面で許容誤差±3mm以内という平滑性を達成することができました。

トプコンの路面舗装が、世界を足元から変えていく

シンガポールの難工事をともに成し遂げたUnited E&P社の建設マネージャー グラハム・キャッスル氏は「ワンストップでこの様なアスファルト再舗装ソリューション提供できるのは、トプコンしかありません。作業の効率と精度を要求されるプロジェクトでは、これが非常に大きなアドバンテージになるのです」と語りました。

トプコンの切削機・フィニッシャーシステムはいま、モータースポーツ施設、空港、高速道路など、「短期間・高精度」が要求される路面舗装の現場に革新的な変化をもたらし、その機能と価値を高める一役をも担っています。

最後にもうひとつ、今回のテーマを総括する発言をご紹介します。シルバーストーンサーキットの代表 スチュアート・プリングル氏は、トプコンの技術を活用した再舗装によって「以前の3倍の耐久性と10倍の強度を獲得した」と話します。「この再舗装によってシルバーストーンは、世界最高のコースとは言わないまでも、確実に世界最高のコースのひとつになっただろう」。

精度の美学と音速の情熱が、サーキットに未来の夢を描く

F3でトプコンがスポンサードしているジェームスのマシン

トプコンとモータースポーツの間には、実は浅からぬご縁があります。

1972年のヨーロッパツーリングカー選手権では、ボディにTopconロゴをあしらったアルファロメオ1300GTA Juniorが、トプコンレーシングチーム「The Swedish Topcon Team」として参戦。スウェーデン人レーサーが11位と12位の記録を残しています。

また米国現地法人のTopcon Positioning Systemsは、FIA F3(フォーミュラ3)が発足した2019年に、ジェームズ・ロー・ジュニア選手へのスポンサー契約を締結しました。ジェームズは、アイルランド出身の当時23歳。2014年にレーシングドライバーとしてのキャリアをスタートさせ、2016年にはアイルランド人として初のFIA-F4(フォーミュラ4)参戦を果たし、初戦にして表彰台を飾りました。その後も「ロード・アメリカ」で1位を獲得、2019年には「モータースポーツ・アイルランド・ヤングレーシングドライバー・オブザイヤー」を受賞するなど、いま世界的に注目されている人気急上昇中の新星です。

トプコンがジェームズを応援する理由。それは、「それぞれがともに、常に努力し、限界に挑戦し、いつでも競争相手の一歩先に居続けるという信念を持った開拓者だから」。トプコンとジェームズは、互いのフィールドでこれからも努力と挑戦を重ねていきます。

 

トプコンの切削機・フィニッシャーシステム

Topcon Positioning Systems社の「SmoothRide」