2024-02-16

日本とハワイが近づいている!?プレートの移動を特定した技術とは

目次

地球の表面は、硬い岩盤「プレート」によって構成されています。プレートは数十枚に分かれていて、それぞれは、その下部にあるマントルの流動によって常に動いています。例えば、日本近海には「北米プレート」「ユーラシアプレート」「太平洋プレート」「フィリピン海プレート」の4枚のプレートが存在しています。
また、太平洋プレートとフィリピン海プレートは移動して、北米プレートとユーラシアプレートの下へと潜り込んでいるのです。太平洋プレート上には、ハワイ諸島も乗っているため、プレートの移動に伴って、日本列島とハワイ諸島の距離は年間約6cmずつ短くなっているといわれています。日本とハワイの現在の距離は約6,000km以上にも及んでいますが、どうしてこれほど小さな変化を捉えることができるのでしょうか。その理由を探ってみましょう。

大陸移動説を裏付けた新しい技術とは?

1912年、ドイツの気象学者アルフレート・ウェーゲナーは、世界の大陸が移動しているとする「大陸移動説」を提唱しました。地球上の陸地はかつて一つの大陸としてつながっていて、その後分裂して移動したのではないかと考えたのです。この仮説を裏付ける根拠に、アフリカ大陸と南アメリカ大陸が、地層の形状や化石の分布、過去の気候分布が一致することなどを示しました。離れている2つの大陸の海岸線がぴったりと合うことは、16世紀から注目されていましたが、それが、元々つながっていたからだと解く彼の主張は、当時は、ほとんどの科学者に受け入れられませんでした。その後、1960年代にプレートテクニクスの理論が確立しますが、それがはっきりと証明された一つに、1980年代後半に登場した宇宙測地という技術があります。

 

宇宙測地とは、宇宙技術を用いて、地球の形状を高い精度で測定する手法のことです。従来の測量技術では、測定する2点間が互いに見えていることが必要でした。レーザー測量(レーザー光が移動する速さを求めることで2点間の距離を測定する)の登場で測量スピードは飛躍的に向上しましたが、光は真っ直ぐに進むため、2点間に障害物があると、測定することができません。しかし、宇宙測地技術を使用すれば、地球の裏側にある地点であっても、ほとんどの誤差なく距離や位置を測定することができます。この技術の進化によって、大陸移動の事実が明らかになり、研究が飛躍的に進展しました。

ハワイと日本が近づいていることを突き止めたVLBIとは?

宇宙測地技術には、GNSS(Global Navigation Satellite System:全地球航法衛星システム)、SRL(衛星レーザー測距)、DORIS(衛星利用測位システムの一つ)、VLBI(超長基線電波干渉法)があります。ウェーゲナーの大陸移動説を裏付けたのはVLBIです。宇宙には、電波エネルギーを出している準星(クエーサー)という星が存在します。この準星から放たれる微弱な電波を、大型のパラボラアンテナ(電波望遠鏡)で同時に受信し、届いた時間差と電波がやってきた方向によって、それぞれのアンテナがどれだけ離れているかをミリ単位で測定します。

VLBI観測を行う電波望遠鏡は世界各地にあり、日本でも国土地理院や各国立天文台などが保有しています。日本とハワイが近づいていることを突き止めたのは、茨城県にあったVLBIアンテナ「つくば」と、ハワイの「コキー」との観測結果です。2箇所の距離を約15年間精密に観測した結果、毎年約6cmずつ近づいていることが分かりました。

(参照:国土地理院「宇宙から大地の動きを測る」

 

VLBIは、地球の自転の変化も観測することができます。1日の長さは24時間ですが、地球が誕生したころは5時間程度だったと考えられています。つまり、地球の自転速度が非常に緩やかに遅くなっているのです。具体的には、100年間で1,000分の2秒程度日が長くなっていますが、これは常に一定の割合で進んでいるわけではなく、ゆらいでいます。このため、私たちが認識している時刻と、天体観測によって測定される時刻に不規則なずれが生じることがあります。そこで、6月30日と12月31日の終わりに1秒加えたり引いたりして、ずれが0.9秒以内に保たれるようにしています。VLBIは、このようにプレート運動などの地殻変動や、地球の自転によるゆらぎなどの監視に役立てられています。

最もポピュラーな宇宙測地技術GNSSとは?

宇宙測地技術は私たち生活に深くかかわっており、その中でも特に身近な存在がGNSSです。GNSSは衛星測位システムの総称で、地球を周回する複数の衛星から届く信号を利用して、地球上の位置を正確に測定します。GNSSにはいくつかの種類がありますが、最も有名なのはアメリカが開発したGPS(Global Positioning System:全地球測位システム)です。GPSは、もともとは軍事目的で開発されましたが、のちに民間開放され、今日ではカーナビゲーションやスマートフォンなどさまざまな分野で利用されています。

 

GPSが広く利用されるようになる前から、日本では測量に基づいて設置された「三角点」という基準点が全国約100,000点設置されていました。三角点は、三角点同士が互いに見える必要があるため、多くは山などの見晴らしの良い場所に置かれています。また、国内では精度の高い高さの座標値をもつ「水準点」も約16,000点(2023年4月時点)設置されています。GPSが導入された以降も、これらの基準点は現役。衛星電波を受信し観測データを記録し続ける電子基準点と同様に、国土地理院などでデータを集約して管理しています。

(参考:国土地理院「三角点」 国土地理院「水準点」

 

GNSSを利用することで、私たちは、地震や火山活動による地殻変動はもちろん、日常の小さな変化まで捉えることができるようになりました。たとえば、田んぼの水位の変化でさえも観測することが可能です。かつて「動かざること山の如し」と言われ、動かないものとされていた大地も、GNSS観測の結果、常に微細な動きをしていることが明らかになっています。そのため、現在では災害復旧にも電子基準点の観測データ変化が利用されるようになりました。

GNSSを活用したトプコンの革新的な測量技術とは?

GNSSは、地殻変動の計測だけでなく、建設工事を行う際の土地測量にも利用されています。4基以上の衛星から位置や時刻の情報を受信し、それを基にして距離を計算します。大気中で電波の速度や、月や太陽の引力による潮汐の変化など、さまざまな要因による影響を取り除いて計算します。

 

トプコンでは、GNSSを利用した高度な測量機や受信機を多数提供しています。見通しなどの周囲の状況に応じてトータルステーションとGNSS受信機の切り替えができる測量システム『ハイブリッド・サーベイ・システム』や、GNSS観測における観測計画からデータの後処理まで全てに対応したGNSS統合データ処理プログラム『GNSS-Pro X』。複雑な計算を専用ソフトウェアが正確に行うため、誤差はわずかセンチ単位にまで抑えられています。

 

VLBIやGNSSをはじめとする宇宙測地技術は、測地学に革命をもたらし、私たちの生活をより便利で安全なものに変えています。トプコンの製品も土木工事や建築工事、災害時の復旧作業など、幅広い分野で活用されています。これからも、測量業界の生産性向上に貢献してまいります。

トプコンのGNSS製品一覧

 

(参考文献)
産総研地質調査総合センター「地球の構造」

国土地理院

日本測地学会「測地学 新装訂版」

・KADOKAWA「人類なら知っておきたい 地球の雑学」

・ユーキャン学び出版「よくわかる測量」