2020年6月、トプコンの社外取締役に「産業用ロボット開発におけるレジェンド」として世界的な名声を博する人物が就任しました。ファナック代表取締役会長も務める稲葉善治(日本工作機械工業会会長・工学博士)です。稲葉氏にトプコンのガバナンスはどう見えるのでしょうか?平野社長からのオファーを受け、トプコンの社外取締役に就任した理由も含め話を聞きました。

トプコンは世界のあり方を変えていく

私は今、トプコンで果たすべき様々な役割を思い、胸を躍らせています。

例えばファナックが得意とする工作機械の分野では、顧客企業から工場のラインを止めないことを強く求められました。機械はその宿命として必ず壊れるもの。だからこそ、壊れる前に管理者へ知らせ、壊れてもすぐ修理できる体制を整えることが大切でした。私はファナックで、自動車メーカーなど大量生産のラインを持つ顧客企業と長くお付き合いしてきたため、今後、トプコン製品を使うお客様が何を求めるかを予想し、これをコーポレートガバナンスに取り入れるための助言ができると思っています。

さらには、トプコンの将来像を描く上でも役に立てると思っています。例えば平野社長をはじめとするトプコンの経営陣は、日本国内だけを見ず、世界の動きを意識しながら意思決定をしています。「世界がどう動くか」を見定めるためには、様々な情勢に通じた人間が集まり、活発なディスカッションを行うことが大切なのです。トプコンの取締役会は、社外を含めすべての取締役が、自由に、活発に発言して建設的な議論が繰り広げられています。ファナックの取締役会もオープンな雰囲気で実施できていますが、トプコンはさらに開かれていると感じるほどです。私もその輪に入り、様々な意見を述べていきたいと思っています。

今まで取締役会に参加して分かったことは、トプコンが非常に「熱い」企業であるということです。まず、平野社長をはじめとする経営陣が熱い。それはコーポレートガバナンスにも現れています。トプコンは海外も含め様々なベンチャー企業をアグレッシブに買収し、その文化を尊重しつつトプコンとのシナジーをつくるのが得意な企業だと思います。支配的になるのでなく、信頼関係を築き、共に同じ未来を夢見ていく――それは熱いリーダーシップと、適切なガバナンスがなければできないことです。また、建設機械、農業機械、医療機器の様々なメーカーと提携し、絆をつくり、最新技術を社会実装しています。これも、時に理想を語り、共感し合う強い繋がりがなければ実現できないことです。

しかも、経営陣の熱さが現場の社員の胸にも火を灯しています。例えばレンズの研磨です。トプコンといえば自動化、機械化が注目されていますが、基盤事業として高いグローバルシェアを築いている測量機や眼科用医療機器の分野では高いレベルの光学技術が不可欠であり、これら光学機器に使われるレンズは最高の職人技で作られています。眼底カメラのレンズもその一つで、サブミクロン単位で正確に磨かなければ、正確な画像は得られず、この精度の加工技術には製造スタッフの熱い情熱が込められています。

技術の進化は相似形を描く

私が社外取締役に就任したのは、ファナックとトプコン、その歴史が重なるからです。ファナックが創り上げた数値制御(NC)装置や産業用ロボットにより、世界中の様々な工場が自動化されてきたことは、皆さんご存じのことと思います。同様に今後、トプコンが事業を展開する世界中の農業、建築・土木工事、医療の現場が急激にIT化、自動化されていくのです。

基本的な技術や思想が同じなのです。様々な工作機械は”いかに入力し、出力するか”によって成立しています。部品を作る場合なら、まずCADで設計図を作って工作機械に読み込ませ、加工すべき素材の寸法を計測します。これが”入力”。その後、機械がプログラムされたとおりに素材を精密に削っていきます。これが”出力”。トプコンが医・食・住の分野で実現していることも同様です。建設分野では、設計図を建機に読み込ませ、GNSSや精密なセンサーを使って地面の形状を把握し、同時に建機がどこにあるかを測定すれば、設計図どおりに自動で施工していきます。工作機械は、数値制御が可能になるまで、人間が汎用の旋盤などを使って目分量で素材を削り込み、ノギスで寸法をチェックしながら作っていました。これが今は、機械が寸法を精密に計測しながら削り込み、できあがった部品をロボットが取り外していきます。建設だけでなく、農業も同じです。トプコンの制御技術と既存のトラクターの技術の融合により、稲を植え、種を撒き、肥料をやる、といった作業が全て自動化されていきます。

人間の歴史は、同時に道具の歴史でもあると思います。鉄製の鋤(すき)や鍬(くわ)が農業の生産性を飛躍的に高め、人口が増え、食料の生産以外の仕事に携わる人間が増え、世界各国に様々な文化が花開きました。同様に、世界の工場に数値制御と産業用ロボットが普及することにより、世界に電化製品や自動車などが普及しました。そして技術史上、技術の進化は似たような経緯を辿るのです。私は平野社長から社外取締役への就任を依頼される前から、次は農業と土木・建築分野が自動化・省力化され、品質も向上していくと確信を持っていました。だからこそ、平野社長からの依頼を大変興味深く感じたのです。

トプコンは、株主の方にも信頼していただける企業です。
そして、ファナック同様にトプコンも、今後、医・食・住の分野を大きく進化させるリーディングカンパニーになっていくと思います。

稲葉善治氏 プロフィール
ファナック代表取締役会長・トプコン社外取締役
1948年、茨城県生まれ。1973年に東京工業大学工学部機械工学科を卒業し、いすゞ自動車を経て1983年にファナックへ入社。数値制御(NC)装置を創り上げて工作機械の精度を向上させ、今も世界で圧倒的なシェアを誇る数々の産業用ロボットの開発に携わる。2001年に同社代表取締役副社長、2003年に代表取締役社長、2016年に会長兼最高経営責任者(CEO)となり、2019年には代表取締役会長(現任)に就任。2020年に当社社外取締役へ就任、以来現職。

ファナック株式会社
工作機械用CNC装置(工作機械の自動化)の先駆者。FA革命のパイオニアで世界首位、国内外とも50%以上の高シェア企業。売上高5,513億円、営業利益1,125億円(2021年3月期)。
URL:https://www.fanuc.co.jp/

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